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あなたとわたしの生存確認日記

2026.05.17 公開 ポスト

長野県『上田映劇』で『トニー滝谷』を鑑賞(4月23日)―「おい、俺いくつになったと思う?」と上司は言った。燃え殻

2026年4月23日

昨夜、テレビ美術制作会社のときの上司と渋谷でサシ飲み。

最初に出会ったとき、上司は二十九歳だった。こちらは二十四歳。「おい、俺いくつになったと思う? 五十八だぜ。参っちゃうよなあ……」白ワインと角ハイボールで、すっかり気持ちよくなった上司が言った。「あっという間だったとは言わないけど、結構人生って、呆気ないよなあ」と笑う。本当ですね、をこちらはひたすら言っていった気がする。

そして途中からまた酩酊してしまい、どうやって上司と別れたのか憶えていない。

 

恐るおそる、「昨日……大丈夫でしたか?」とLINEを送ったら、「こっちも同じこと訊こうと思ってたよ……」と返信があった。

助かった。というか、こういう人だったから、三十年近く働き方改革も、「パワハラ」「モラハラ」という言葉すらない頃からずっと、一緒に働いてこれたんだなあと思った。

昨日話した、かろうじて憶えている話は、「もう本当に仕事一辺倒はお互いやめよう。やるとしてもあと一、二年にしよう」「好きなときに、好きな場所に行こう。そのうち膝も悪くなるぞ。腰もきっと取り返しがつかないことになるぞ」「計画性のないことを大切にしよう。俺たちは計画を立てすぎた」だった。

***
朝七時、起床。三軒茶屋でまた作業をしようと向かったところで、自分にフェイントをかけ、東京駅へ。そのまま新幹線に乗り、長野『上田』駅まで。

新幹線のドアがプシュ〜と閉まったとき、なぜか妙にホッとした。上司に改めて、いまから長野の上田で映画観てきます、とLINEを送った。「まだ酔ってるのか?」と返信があった。

朝十時四十分。駅から歩いて十分弱にある、『上田映劇』で、『トニー滝谷』4Kリマスター版を鑑賞。お客さんは自分合わせて五人。

『上田映劇』は大正時代からある建物で、天井は当時のままらしい。古本が売っていたり、写真集やオリジナルのTシャツなんかも売っていた。劇場の方の苦労も知らずに、こういう場所で働きたいなあ、などと思ってしまった。

古い劇場で観る『トニー滝谷』は本当に素晴らしかった。昔、池袋で観たときのことをなぜか思い出した。そのときは、あまりに良かったので、DVDを買って帰った。

忘れているシーンもいくつかあった。始まり方も忘れていた。いままで一度も涙が流れたことはなかったのに、父親を看取るシーンで、思いがけず泣いてしまった。宮沢りえが儚く美しかった。


その後、上田の宿で、オンラインで打ち合わせ。なぜか「いま、新宿なんです」という意味不明の嘘をついてしまった。

当てずっぽうで入った蕎麦屋で天ざるを注文。素朴な味だったが、さすがに蕎麦がうまい。まだもう少し食べられそうだったので、玉子丼も追加。店のおばあさんに、「若いからたくさん食べるわねえ」と言われた。……若い、だって。

* * *

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(アイコンイラスト:大橋裕之)

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燃え殻

1973年生まれ。2017年『ボクたちはみんな大人になれなかった』で小説家デビュー。同作はNetflixで映画化、エッセイ集『すべて忘れてしまうから』はDisney+でドラマ化、『湯布院奇行』が朗読劇化(原作)、『あなたに聴かせたい歌があるんだ』がコミック化とHuluでドラマ化(原作と脚本)された。著書に小説『これはただの夏』、エッセイ集『それでも日々はつづくから』『ブルー ハワイ』『愛と忘却の日々』ほか多数。

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