日本の歴史を面白く読ませる、房野史典さん。『13歳のきみと、戦国時代の「戦」の話をしよう。』は、いまだに増刷を続けるロングヒット作品ですが、今回の連載は「歴史を動かした”事件”」で歴史を読んでいこう!というもの。
さて、前回「平城京」が始まったところまで行きました。さてここから、なかなかの怒涛です!
* * *
そういえば、”都”って、いったい何でしょう?
『藤原京』や『平城京』といった”都”が登場しましたが、そもそも”都”って、何?
日本の中心? 首都? はい、だいたいあってます。けど、もう少しだけ詳しく説明するなら、
〈天皇が住む建物を「宮(みや)」(王宮)〉といって、
〈宮のある場所を「都・京」〉といったんですね。
大昔は天皇の代替わりがあるたび都の場所が変わっていたんだけど、「本格的な都を造るぞー!」と「藤原京」をこしらえて、やがて「平城京」にお引越し(※前回の連載をご参照ください)。
以来80年以上、何人もの天皇がこの都で過ごしてきたんです。
その後、みなさんご存知『平安京』が出来上がりまして、ここが新たな都、と、し、て———
えっと……80年以上、平城京が都で、天皇が何代も住んだんですよね。
もうここでよくない?
なんで? なんで平安京を造る必要があった? ほんで、なぜ平城京を捨てちゃったのさ?
実はね———というのが、今回のお話のメインテーマです。(※4回の連載で展開します!)
さて、待ち望んだ首親王の即位が実現し、『聖武天皇』が誕生しました。
しかし、まもなく世の中に不幸が降り注いだ。ってのは、すでにお伝えしましたね。
では、その不幸って……?
1. 聖武に関係ある人が次々と亡くなった
2. 干ばつ(雨が降らないために水不足の状態が続くこと)
3. 飢饉(作物が実らないため、食料が不足して人々が飢えること)
4. 地震
5. 伝染病
正解は……を知るために、「聖武に待望の男子が生まれたよ」というところから、お話をスタートさせましょう。
聖武とキサキの「光明子(こうみょうし)」との間には、すでに女の子が生まれていたけど、男の子がなかなか生まれない……と思っていたところへ、光明子が男子を出産したんですね。
もう聖武の喜びようはハンパなく、生まれてすぐの皇子を”皇太子(皇位の第一継承者。つまり次に天皇になることが決まっている人)”にしちゃうくらい。この時点では前例のない行為です。
しかし、そんな聖武に匹敵するくらい大喜びしたのが、光明子の兄たちだったんですね(なんで?)。
キサキの「光明子(こうみょうし)」は、今は亡き藤原不比等の娘。で、彼女には母親の違う兄たちがおりまして、上から順に、
長男・武智麻呂(むちまろ)、次男・房前(ふささき)、三男・宇合(うまかい)、四男・麻呂(まろ)
「ムチムチでフサフサの馬を飼ってる麻呂」と覚えると覚えやすい(こともない)四兄弟がいたんです(”藤原四子(しし/よんし)”なんて呼ばれています)。
藤原四子が喜んだ理由は、光明子の子どもが天皇となれば、自分たちが伯父として強い権力を手にすることができるから。実に分かりやすい(蘇我氏のときと構造は変わりません)。
こうして、父、母、伯父たちが待ち望んだ、かわいいその子が、
翌年、亡くなってしまうんです。
聖武と光明子の悲しみはどれほどだったでしょう。そして藤原四子……がどこまで悲しんだかは知りませんが、権力掌握の道が閉ざされそうになった彼らは、とにかく焦るんですね。
房前「どうする!? 聖武天皇と県犬養広刀自(あがたいぬかいのひろとじ。 ”光明子とは別のキサキ”)の間には、男子が生まれている! この子がもし皇太子になって、そのまま天皇になったら……!」
宇合「オレたちの『権力にぎにぎ作戦』も水の泡……。もうこうなったら、光明子を”皇后”にするしかないやいやい! そうすれば発言力増し増しになって、『私の子以外を皇太子にするのはダメダメ!』って言わせることができる!」
当時のキサキには、上から順に、皇后、妃(ひ)、夫人(ぶにん)、嬪(ひん)というランクがあったのですが、”天皇の正式な妻”は、皇后たった1人です。
が、これまで皇族以外の女性が皇后に立てられたことはありません。四兄弟はその前例をぶち破り、光明子を臣下で初めての皇后にしようと企んだ。けど——
麻呂「『皇族以外の皇后は認めない!』と反対するやつらが現れますよ! 特に”長屋王”は絶対に反対してきます! 今は亡き父上ー!(涙) こんなときどうすればいいのでしょうー!」
武智麻呂「それもそうだ……が、真にヤバいのは長屋王自身だ! なぜなら」
麻呂「父上ー!(涙)」
武智麻呂「そう、ちちう……お前だまれよ! 絵に描いたような末っ子だな!」
宇合「兄上! このままじゃ「権力にぎにぎ作戦」がダメダメ泣き泣きに……」
武智麻呂「にぎにぎダメダメうるせぇな! そんな作戦名ねぇわ! いいか、問題はヤツらの”血統”だ!!」
うん、なんだかよく分かんないけど、とにかくうるせぇ(想像だけど)。
「長屋王」ってのは、このときの「左大臣」(激偉い)で、藤原不比等が亡くなったあと、政府のリーダーとなっていた皇族です(「三世一身法」を出したのはこの人)。
で、四子が恐れたのは、長屋王と、その妻・吉備内親王の”血筋”なんですね。
こちらをご覧ください。
長屋王 父:高市皇子(天武天皇の皇子) 母:御名部皇女(みなべのひめみこ 天智天皇の皇女)
吉備内親王 父:草壁皇子(天武天皇と持統天皇の皇子) 母:元明天皇(天智天皇の皇女) ※文武天皇と元正天皇の兄弟
ね、どこをどう切り取っても天皇にたどり着く、”血筋最強カップル”なんですよ。
そうなると、2人の子どもたちの血筋も、すんごいことになりますわね。
一方、聖武の妻は藤原氏(光明子)。で、実は母親も藤原氏(藤原宮子)です。
当時、天皇になるには、”母親の出自もめちゃくちゃ重要”で、朝廷の中には「聖武が天皇になることに反発する人たちもいた」と言われてるんですね。
なので聖武は、母に「皇太夫人(こうたいぶにん)」という称号を贈って「皇」の字をつけた。つまり、母に皇族になってもらったわけだけど、そんなことしなきゃいけないくらい、聖武の権威は不安定だったんです。
てなわけで、血筋最強な長屋王一家は、”次期天皇の最有力候補”と言っても過言じゃなく、それはイコール、
”聖武の血筋が長屋王の血筋にとってかわられる”
という可能性があったってことなんです。
藤原四子「これはマズすぎる!!」
となった藤原四子は動きます。兵を集め、長屋王の屋敷を取り囲み、
藤原宇合「長屋王よ! 国家転覆を企んでる……らしいな!」
長屋王「こ、国家転覆!? なんだそれは! まったく身に覚えがないぞ!」
ビッショリと濡れ衣を着せ、長屋王と吉備内親王、さらに、彼らの子ども4人を自殺に追い込んだのでした(「長屋王の変」)。
こう書くと、藤原氏が何から何まで勝手にやった感がありますが、彼らは”天皇の命令”のもと、公式に動いております。
つまり、長屋王を排除することを、”聖武天皇は許可していた”んですね。
藤原四子にとっても聖武にとっても、この世で1番恐ろしいのは”優れた血統”だった。ということかもしれません。
その後、光明子が皇后となり、自分たちの思い描いた未来を手に入れた藤原四子。
ここから、政治の主役は四兄弟に移っていったんですが、それも長くは続きません。
なぜなら数年後、”たった4ヶ月の間”に四兄弟全員が、
亡くなってしまうから。
(つづく)
13歳のきみと、日本の歴史を動かした事件の話をしよう。

『笑って泣いてドラマチックに学ぶ 超現代語訳戦国時代』『笑えて、泣けて、するする頭に入る 超現代語訳 幕末物語』『13歳のきみと、戦国時代の「戦」の話をしよう』などなど、ロングな人気作の多い房野史典さん。
絵がうかび、笑いながら読んでいたら、気づけば頭に入ってた! という、驚異の歴史語りは、一度読んだら大人も子供もみんなハマる!
歴史の大先生方からもお墨付きをいただいている房野さんの新連載は、「有名な事件を読み解くと、歴史の動きが見えてくるよ!」ということを教えてくれます。
歴史の面白さがグングン深まっていく、ゾクゾクする感覚をお楽しみください。










