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コンサバ会社員、本を片手に越境する

2026.02.24 公開 ポスト

『なぜ日本文学は英米で人気があるのか』文芸シーンに勇気をもらい、2026年は自ら変化を起こしていく梅津奏

ルートが多様化すれば王道も相対化される

大学生の頃、よく勉強したり読書したりしていたスタバにて

2026年がスタート。年始に地元仙台のスタバで手帳を開き、「今年はどんな1年になるだろうか」と考えていた。ページにあれこれ書き連ねていて気づいたのが、「今年の変化は、私が自分で起こすものばかりだな」ということ。

本業でも副業でも、プライベートでも、「私が決める」ことが求められているし、自分でもそうしたいと思っていることを自覚した瞬間だった。

これまでは正直「勝ち馬に乗る」「無難な方向に行く」がポリシーだった。でも今年は、最初の旗は自分で立てよう。そして粘ろう。自己評価と他己評価のすり合わせに執着すぎないようにしよう。自分は自分という気持ちをもっと強く持とう。評価はマーケットが勝手に決めることだろう知ったことか、という野蛮な気持ちになっている自分がとても新鮮に感じる。

 


年始に長めの休暇をとったことで良いリズムができて、順調に読書が進んでいる。

良い本を読むことは本当に気持ちがいい。自分が耕され、種がまかれ、知らぬ間に芽吹き、花が咲く。

昨年は公私で混乱していたためか、あまり体系的に本を読まなかった気がする。海外で女性作家による日本文学が大ブームになっていたり、第137回芥川賞・直木賞が「該当なし」と発表されたり、中堅作家たちの渾身の力作が次々リリースされたり。文芸界の大きなうねりを肌で感じつつ、頭の中でまとめきれずモヤモヤが続いていた。読書会への参加も飛び飛びになり、「本を読んで考える、そして話す」ことに飢えている。

愛聴しているYouTube番組がきっかけで、積読していたこちらを手に取ってみた。

『なぜ日本文学は英米で人気があるのか』(鴻巣友季子/ハヤカワ新書)

ルートが多様化し外部に回路ができることで、日本文学界の閉鎖的システムやヒエラルキーが相対化され、柔軟になっていくのであれば、歓迎すべき潮流ではないだろうか。――『なぜ日本文学は英米で人気があるのか』より

嵐が丘』『風と共に去りぬ』の翻訳家として知られる鴻巣友季子さん。英米文学を中心とした世界の文学シーンに造詣の深い評論家でもあり、私は特に、Nikkei Financialの「知の旅、美の道〜Journey to Liberal Arts」に寄せられるコラムが大好き。

そんな鴻巣さんが、イギリスで起きている日本文学ブーム(王谷晶さんの『ババヤガの夜』や柚木麻子さんの『BUTTER』の大ヒットに代表される)、翻訳すること・翻訳されることの関係、世界の文学賞レースをジェンダー的に切り取るとどうなるか等について鋭く分析するのがこちらの一冊だ。

先に引用した「ルートが多様化し外部に回路ができること」とは、日本の大きな文学賞受賞を経験していない王谷さん・柚木さんが海外でヒットを飛ばしている現象を受けてのこと。お二人と比べるのはおこがましいことだが、本業でも副業でも、属性・経歴や兼業であることから、「無難がいいと思っているのに、ど真ん中の王道を歩いていない」後ろめたさにクリーンヒットする一文だった。

「こんな自分が何かを変えたいと言ったところで、どうなるんだ?」

身もふたもない言い方をすれば、そんな気持ちがあったのかも。


このプロジェクトの進行役を務めていた辛島に「どんな基準で作品を選べばいいのでしょうか?」と尋ねたときの返答を、私はいまもよく覚えている。
「僕たちはいわゆる文学のカノン(正統)をつくるつもりはないんです。いまの日本文学らしいものをお願いします」と辛島は言った。――『なぜ日本文学は英米で人気があるのか』より

2010年からスタートした文芸翻訳ワークショップにおいて、オーガナイザーとなった翻訳家・辛島デイヴィッドさん(村田沙耶香さんの『コンビニ人間』の英訳をした翻訳者)から課題本選びを依頼された鴻巣さん。

日本にも、大御所の男性作家でないと海外で翻訳されにくいという時代があった。世界がどんどんボーダレスになる中、文芸界だってそれは例外ではない。ルートも、アイディアも、そして評価も、多様化している。古い価値観における「正しさ」は一旦横に置いておいて、「今の私らしさ」を大切にしたっていいのではないか……。鴻巣さんが目の前で語り掛けてくれているような錯覚を覚えながら、私はそんな風に受け止めた。


日本の文芸界には、強く、そして爽やかな風が吹いている。私もその風を存分に楽しみながら、自分の人生にもそんな爽快さを持ち込みたい。
 

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筋金入りのコンサバ会社員が、本を片手に予測不可能な時代をサバイブ。

 

 

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梅津奏

1987年生まれ、仙台出身。都内で会社員として働くかたわら、ライター・コラムニストとして活動。講談社「ミモレ」をはじめとするweb媒体で、女性のキャリア・日常の悩み・フェミニズムなどをテーマに執筆。幼少期より息を吸うように本を読み続けている本の虫。ブログ「本の虫観察日記

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