マンガの世界はともかく広大です。
その限りない広さに比して、自分で実際に読める範囲はきわめて狭いので、面白い作品と出会うためには、ほかの信用できるマンガファンの評価や紹介に頼る必要があります。
毎年1回、そうした信用できるマンガファンが集ってベスト作品を選ぶ催しがあって、私はそのベスト20に選ばれたマンガは、すべて読むことにしています。
その催しとは、本稿で何度も引用してきましたが、季刊文化誌「フリースタイル」が年頭に発表する特集「THE BEST MANGA このマンガを読め!」です。
今年の2026年版は、昨2025年(正確には24年11月から25年10月まで)に出たすべてのマンガを対象として、50人の筋金入りのマンガ好きの投票で結果が決まります。
今回、ベストワンに選ばれた作品が、サイトウマド『怪獣を解剖する』(上下巻、KADOKAWA)です。

私はこの作品を見逃していたので、さっそく読んでみました。
まずは怪獣ものの新機軸であり、東宝怪獣映画に熱狂した人は大喜びでしょう。
そして、かつての少年向けSFにあった科学的ウンチクを巧みにちりばめながら、人間の知的探求への愛という哲学的な問題さえ扱っています。哲学(フィロゾフィー)とは、知(ソフィア)への愛(フィロス)ということです。
もうすこし具体的に説明してみましょう。
主人公は、怪獣学者・本多昭(あきら)。国立科学博物館に勤める23歳の女性です。
21世紀の近未来が舞台で、東京湾から超大型怪獣が上陸して大災害をひき起こします。怪獣は「トウキョウ」と呼ばれ、駿河湾に消えてしまいます。
この規模の怪獣の出現は1954年以来、2度目と書かれているので、このマンガはその年に公開された東宝映画『ゴジラ』の続編であるという側面をもっているのです。
本多は12歳のとき「トウキョウ」の襲来を生き延びたというトラウマを抱えており、その恐怖の記憶と、未知の怪獣への好奇心の葛藤が、彼女のキャラクターをうまく造形しています。
そして、「トウキョウ」の大災害の11年後、大型怪獣の死骸が漂着する事件が頻発し、本多は、その死骸のひとつの解剖調査に赴きます。その調査の一部始終が、この『怪獣を解剖する』の主な物語の骨格です。
怪獣の調査が進むうち、怪獣の生存原理が人類による地球汚染と関係のあることが明らかになり、また、作中で原子力発電所の災害への言及があることから、この怪獣が、原発をはじめとする人災のメタファーであることも分かってきます。
本多の「未知を既知に変えることが防災に繋がる」という言葉は、抽象的な知的探求に社会的意義をあたえる名文句です。
この社会批評的な視点に加えて、特殊な職業の現場と倫理を描く上出来の「お仕事」マンガでもあり、また、ほろりと泣かせるラブストーリーでもあります。じつに緻密に構築された面白いマンガなのです。
マンガ停留所

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