
鳥取県を後にして、旅の二日目は島根県の松江へ。
JR鳥取駅から「スーパーおき3号」に乗車し、約一時間半で松江駅に到着。ホテルに荷物を預け、最寄りの乗船場までてくてく。松江城のお堀を乗り合いの小舟でぐるり一周することができ、途中下車も可なので観光の交通手段にもなっているのだ。
わたしはカラコロ広場乗船場から。屋根付きの小舟にはすでにお客さんが数人乗っていて、近づいてくる船内から笑い声が聞こえてきた。
ほんの数分の乗船。知らない人たちと、しゃべるかしゃべらないか。どちらでもかまわない状況だ。こういうときはその場の空気で決めるより、前もって決めたほうが気楽なもので、わたしは「しゃべる」に決めた。
「おじゃまします」
明るく乗り込む。
「楽しそうなお声が聞こえてきてました!」
女性4人のグループに声をかける。
いいお天気ですね、などと互いに軽くご挨拶。最後尾に座るガイドも兼ねた船頭さんがゆっくりと船を出した。
まずは注意事項。
いくつかの橋の下をくぐるとき、橋にあたらないよう船の屋根が電動で降下するとのこと。ちゃんと予行練習もあり、
「はい、下げますよ~」
船頭さんの掛け声と同時に屋根が降下し、
「わっ、めっちゃ下がる」
土下座レベルに低くなるのだった。
船はゆらゆらとお堀をすすんでいく。民家のすぐそばを通るエリアは船頭さんのガイドもちょっとお休み。水鳥たちを眺めたり、お掘沿いを歩く猫の写真を撮ったり。途中、橋の下で屋根が何度か降下し、それが楽しいアクセントになっている。
松江城に行くなら大手前広場で下船だが、わたしはもうひとつ先のふれあい広場乗船場まで。
「お昼は八雲庵に行こうと思ってるんです」
わたしが言うと、
「今、行ってきたとこ! おいしかったよ~」
と、さきほどの女性たち。
「八雲庵」はガイドブックにも載っている有名なお蕎麦屋さんで、昼時は行列らしく、
「蕎麦がなくなったら終了だから早目に行ったほうがいいよ」
とアドバイスされる。
お礼を言って船を降りる。彼女たちはお堀一周(約50分)を楽しむのだそう。
というわけで、まずは昼食に出雲蕎麦。赤くて丸いお重が三段になっている割子蕎麦を注文。ひとつはとろろ、ひとつは大根おろし、ひとつはうずらの卵。つゆをかけて食べる。蕎麦は殻のついた蕎麦の実をそのまま挽く製法で作るため、黒めでコシがある。一緒に注文した海老の天ぷらがサクサクぷりぷりで、数日経った今でも「おいしかったな~」と振り返るのであった。
昼食後は小泉八雲記念館へ。
朝ドラでおなじみ、作家・小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)。自分が亡き後、遺産が日本人の妻セツに渡るよう奔走したエピソードが妙に胸に響く。すぐそばの小泉八雲旧居はこじんまりとかわいらしい家で、
もしもここに住むとしたら?
などと空想で家具の配置を楽しみながら見学する。
間取りを見るのは子供の頃から好きで、今でも新聞の家のチラシは大好物。隅々までながめ、子供時代にこの家に住んでいたなら、自分はどの部屋だっただろうと考える。
違った間取り、違った暮らし方。違ったわたしはどんな大人になっていたのか。いないはずのもうひとりの自分を「間取り」から探しているのである。
堀川めぐりの船のチケットは一日何度でも使えるので、再び船に乗り大手前広場乗船場まで。松江城に行くにはここで下船が近道。
国宝 松江城は日本に12しか残っていない現存天守のひとつで、現存天守とは江戸時代かそれ以前に建てられ、現在まで保存されている天守のこと。松本城、姫路城、高知城などもそのひとつである。わたしは12のうち、福井県の丸岡城、岡山県の備中松山城にはまだ行けていないので、いつか見てみたいなぁと思う。
松江に来るのはずいぶん久しぶりで忘れてしまっていたけれど、ものすごく観光しやすい街だ。お堀めぐりの舟の他にも「レイクライン」という小型の周遊バスを利用すれば主な観光場所に立ち寄ってくれるし、夕刻にはそのバスから宍道湖の美しい夕日が見られる。
宿では朝夕、宍道湖のしじみ汁が出た。地元で食べるしじみは「あさり」くらい大きくて、
「あさり、おいしい」
つい何度もいい間違えていたわたしだった。
うかうか手帖

ハレの日も、そうじゃない日も。
イラストレーターの益田ミリさんが、何気ない日常の中にささやかな幸せや発見を見つけて綴る「うかうか手帖」。










