岡田索雲(おかだ・さくも)は、2022年の『ようきなやつら』で、一躍マンガファンから注目される作者になりました。
文化季刊誌「フリースタイル」の特集、「THE BEST MANGA 2023 このマンガを読め!」の識者たちの投票で、第3位になったからです。
一風変わった妖怪マンガの短編集で、これまで読んだことのないような不思議な味わいに引かれるのですが、後半に入って、いじめや、女性蔑視や、関東大震災における朝鮮人虐殺などを題材にして、私たちのなかに潜在する差別意識を、ぎりぎりと抉りだしていきます。
その短編のなかに「峯落」という一作があって、レイプを受けた女性がみんなから逆に非難され、攻撃されるという話を扱っています。
この作品や、朝鮮人虐殺を描いた「追燈」を読むと、岡田索雲というマンガ家は、左翼良識派のいわゆる政治的正義や、女性、外国人など差別されるマイノリティを擁護する立場をとっているように見えるのですが、そんな単純な見方では律しきれない居心地の悪さが、『ようきなやつら』にはあるのです。
というのも、このマンガの批判的なまなざしは、差別される立場にはいない私たち読者が、差別される人々と自分とを無自覚に同一視して、差別する者たちの愚鈍と残酷を憎むという、正義感の歪みにも届いているからです。
一方、岡田索雲の最新作『ザ・バックラッシャー』は、『ようきなやつら』とは反対に、フェミニズムやポリティカル・コレクトネスやコンプライアンスに縛られる現代社会に呪詛を投げつけ、多様性に遠慮しすぎて自由を抑圧する良識の正しさを疑い、ちょっとしたきっかけさえあれば差別だヘイトだハラスメントだと騒ぎたてる連中をやっつけ、言論と表現の自由を人権擁護者やフェミニストから奪還して、かつての寛容な世界を回復するために戦う男を主人公とするヒーローマンガです。

しかし、この男・門倉莫(かどくら・ばく)は、もうすぐ44歳なのに無職で、父親に反抗して実家を拒否しながら、いまだに働く胃がんの母親から小遣いをもらい、その金でコスプレソープランドに行って遊び、逃げた妻と暮らす中学生の息子と会うためにスーパーヒーローの格好で学校に行って不審者扱いされるダメ人間なのです。
とはいえ、門倉には、先に述べた寛容で自由な世界を回復するという遠大な目的があります。そこで、かつて左翼的な正義と戦うために同志たちと作った武闘集団「モラルバスターズ」を再結成し、みずからも反逆の戦士「ザ・バックラッシャー」として生まれ変わります。
しかし、かつての仲間は全員、門倉の考えに賛同せず、なんとか集まってきた新しい仲間はクズばかり。その呆れるほど情ない顚末が、強烈なブラックユーモアを交えて展開される。本作はそういうお話です。
しかし、それが単なる反動派の愚鈍への風刺と批判にとどまらないことはいうまでもありません。ここでも、作者の批評的な目は、そういう物語を笑う私たち読者にも向けられているからです。まことに、一筋縄ではいかないマンガなのです。
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