街のありふれた食堂「食堂キング」を舞台に、中年女性・サチコのささやかな成長を描いた、群ようこさんの最新長編小説『サチコ』。その冒頭部分を、地方新聞連載時に添えられた、阪口笑子さんの温かい挿画とともに、お届けします。

「いえ、あの、これまでの就職やアルバイトの面接って、結果がわかるのは、しばらく経ってからだったので……」
面接がうまくいったようでも、後日、不合格になっていることも多かった。そんな経験から、面接中に条件が合いますねといわれても、相手からきちんと結果を聞かなくては、サチコは安心できなかった。
「客商売が長いからね。どんな人かはだいたいわかるのよ。確認だけどうちの時給は一時間千二百円ね。夜はお客さんが少ないときもあるから、早上がりしてもらうこともあります。働いた時間分の支払いです。あと正月休みとお盆休みがあるけれど、それはまたそのときに話しますね。ああそうだ、調理補助はないけれど、お皿洗いはしてもらうことになるので、よろしくお願いします」
サチコは皿洗い? と気になったけれど、
「わかりました。よろしくお願いします」
と返事をして頭を下げた。
「うちの店は駅前にお勤めの人や、近所の常連さんが多いので、ほとんどが顔なじみなのよ。だから絡んでくるような変なお客さんはいないから安心してね。あっ、一人いるか」
おかみさんが店主を見た。彼は一瞬、「ん?」という表情になった。
「ああ、ザキさんか。絡むっていうよりも、ただ愚痴をいっているだけだろ。酔って暴れるわけでもないし。あの程度で済んでいるからいいんじゃないの」
「忙しいときは面倒くさい人なのよ。だから適当に返事をしちゃったりして」
彼女はふふっと笑いながらサチコを見た。ここで話を広げられるほど、サチコは人との会話が得意ではないので、うなずくしかない。
「うちとしても家が近所の人が来てくれるのは助かるわ」
店主もおかみさんも、想像した以上に温かく迎えてくれたので、サチコは応募動機が家から近いから、とはいい出せなかった。店主夫婦から聞かれなかったのも助かった。
来て欲しい日が確実に決まったら知らせるといってくれたおかみさんに、サチコは、
「私のほうから五日後くらいにご連絡するようにします」
といって立ち上がり、椅子を元に戻した。
「いい人が来てくれてうれしいわ」
おかみさんの言葉に、サチコは笑顔を見せようとしたが、やっぱり緊張でこわばったような気がした。
サチコ

両親が残してくれた1DKのマンションで一人暮らし。内向きで、控えめで、読書さえしてれば幸せ。「褒められもせず、苦にもされず」が生きるモットー。そんなサチコが55歳で長年勤めた職場を早期退職し、自宅から徒歩3分の「食堂キング」でアルバイトを始めた。初めての接客が不安なサチコだったが、気のいい店主夫婦やユニークなお客さんたちに囲まれ、遅ればせながら人生の色々を学んでいく。けれど、店主の腰痛が長引いて、キング閉店の危機が……!? ときにじんわり、ときにほろ苦く、どこか滑稽で――。ささやかな人生の豊かさを味わえる長編小説。











