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往復書簡 限界から始まる

2025.12.03 公開 ポスト

「どうやって男に絶望せずにいられるのか」を上野千鶴子さんに聞きたくて始めた往復書簡伊藤比呂美/上野千鶴子/鈴木涼美

本日、12月3日(水)19時半より、上野千鶴子さん、鈴木涼美さん、伊藤比呂美さんによる、オンライントークを開催します。テーマは、「結婚すること、産むこと、育てること。そして老いること、ケアすること」。開催を前に、昨年6月に開催したお三方のトーク「限界から始まる、人生の紆余曲折について」より、一部抜粋してお届けします。今晩のトークは、4週間のアーカイブつきです。お申込みお待ちしています。

「父親より母親のほうが面白い」と娘に思わせる母の陰謀

上野 冒頭、どうすれば男に絶望せずにいられるのか、という話が出ましたが、『往復書簡 限界から始まる』には父親のことはまったく出てきませんでしたね。私の方でも何かあるのだったらと聞くに忍びなかったから訊きませんでしたけれど、この度、涼美さんは子どもの父親とご結婚なさったそうで。結婚に値する男に出逢われた、ということでしょうか。

鈴木 そうですね。

私の両親は、母が死ぬまで仲は良かったのですが、私の興味はやはり100パーセント母にあって、父親には興味を持てなかった。男はそこまで大層な生き物じゃないというか、女のほうが面白いと思って生きてきたし、1対1でパートナーシップを結ぶほど興味を持てる男性に出会ってきませんでした。気持ちが燃え上がることはあっても、やっぱりこの人も新聞社のおっさんたちと同じだな、と思うことが多くて。

上野千鶴子さんとの往復書簡の依頼をいただいたとき、なんて重い話だろうと一瞬怯んだのですが、「どうやって男に絶望せずにいられるのか」を聞いてみたい、と思いました。上野さんは私よりもさらに前時代的な男性たちを見てこられて、女性教員がほとんどいない東大でフェミニズムを研究されてきた。その上野さんのご意見が聞けるのなら、往復書簡も面白いかも、と。

伊藤 ちょっと、ちょっと。今、涼美さんは「父親より母親のほうがずっと面白かった」っておっしゃったけど、それはお母さんの陰謀よ。

鈴木 ああ、確かにそうですね。

伊藤 子育てにおいて、それぐらいのことはできるわよ。常に近くにいて色々やってやれば、子どもはついてくる。その結果ですよ。

鈴木 面白いことにしろ、怖いニュースにしろ、何かあったときに意見を聞きたいと思うのは、やっぱり母親なんです。

伊藤 と、仕向けられているね。

鈴木 そうだと思います。でも、思わせることに成功しているという意味でも母親のほうが賢い。

上野 私はそうはならなかったけどね。もし両親でなければ、この人たちとはきっと友達にもならなかっただろうなと思って育ったから。父親には溺愛されたけれど、私は娘を溺愛する父を軽蔑していましたし。

涼美さんのお父様は、最後までちゃんと妻を看取られたんですね。

鈴木 はい。母が死んだときの父の様子を通して、パートナーがいることの豊かさは実感したんです。私はこのまま行くと独身かもしれず、長年一緒に過ごしたパートナーがいないまま死ぬとしたら、母が死んだときのような状況は生まれ得ないだろうな、と。

父は、母を看取ったのは確かに偉かったですが、母の死後1、2年は妻を看取った自分はかわいそうだという感じになっていたし、その後は逆に自分の人生はこれからだ、と婚活に邁進し始めて。やっぱり男の人には魅力を感じられません。

上野 となると、男に絶望したという原因のひとつに、父親も含まれていると。

鈴木 生き物として男性は女性に比べて単純でつまらないな、と最初に思ったときの対象は父でしたね。さっき伊藤さんには首を傾げられましたが、私は幼い頃、自分の身体に何かあると母親のほうが先に傷つくという構造がすごく重荷でした。だから痴漢にあっても母親には言えなかった。そういう身体を共有しているような感覚を父に対して持ったことはありません。「父の娘」という意識は元々非常に低かったんです。

上野 「父の娘」になるためには、父を尊敬していることが必要条件ですから。

鈴木 自分も含めて女性も非常に愚かだとは思いますが、男性よりは話していて面白いし、楽しいなと思っちゃう。実は私は男友達も非常に限定的で、真剣に付き合った彼氏もほとんどいなかったので、今の夫と出会えてよかったですが、男性に期待した経験がないんです。

伊藤 私は「女のほうが面白い」とは言い切れないのよね。すっごい面白い女が、ここにもあそこにもいたとか、すっごい面白い男があそこに、ここにいた、というだけで。もちろんその人たちの生き方は、性別に色濃く左右されているけれど、それを「女のほうが面白かったですよ」とは言えないところがある。

上野 友達を選ぶのと、パートナーを選ぶのは、話が違う。この歳になれば、女友達のほうが男友達よりも、いろんな意味で豊かな経験をしていて、はっきり言って話も面白い。そういう一般的な傾向はあるにしても、ヘテロの女がパートナーを選ぶ際には、やっぱり男を選ぶでしょう? でも結婚を選んだら最後、一生他の男とセックスしないわけ? と言いたくなっちゃう。

*   *   *

昨年のトーク全編は、電子書籍『限界から始まる、人生の紆余曲折について』でお楽しみください。

【お知らせ】

12月3日(水)19時半~21時半、上野千鶴子さん、鈴木涼美さん、伊藤比呂美さんによるオンライントーク「結婚すること、産むこと、育てること。そして老いること、ケアすること」を開催します。
詳細・お申込みは、幻冬舎カルチャーのページをご覧ください。
 

関連書籍

上野千鶴子/鈴木涼美/伊藤比呂美『限界から始まる、人生の紆余曲折について』

「死ぬ男を看取るって、本当に面白かった。ねえ、上野さん?」(伊藤) 「私も看取ったけど、面白かったとは言えないわね」(上野) 「結婚をめぐる葛藤はほとんどありませんでした」(鈴木) 単行本『往復書簡 限界から始まる』の文庫化を記念した、著者の上野千鶴子さん、鈴木涼美さん、文庫版の解説を担当した伊藤比呂美さんによる鼎談イベント「限界から始まる、人生の紆余曲折について」。因縁の深い3人が鋭く突っ込み、笑い、称えあいながら、それぞれの「想定外の人生」を語り合いました。上野千鶴子の「結婚」に安堵した人たち、鈴木涼美が「産む女」になった理由、伊藤比呂美の「看取り」の快感――。愛と勇気と希望に満ちた2時間のトークを電子書籍化。

上野千鶴子/鈴木涼美『往復書簡 限界から始まる』

「上野さんはなぜ、男に絶望せずにいられるのですか?」「しょせん男なんてと言う気はありません」。女の新しい道を作った稀代のフェミニストと、その道で女の自由を満喫した気鋭の作家。「女の身体は資本か、負債か」「娘を幸せにするのは知的な母か、愚かな母か」――。自らの迷いを赤裸々に明かしながら人生に新たな視点と光をもたらす書簡集。

上野千鶴子/宮台真司/鈴木涼美『「制服少女たちのその後」を語る』

2021年8月26日に宮台真司さんをゲストにお迎えして開催した、『往復書簡 限界から始まる』(上野千鶴子さん×鈴木涼美さん著)刊行記念トークイベントを電子書籍化。宮台さんが援交少女たちへの責任を感じるに至った変容、女子高生という記号に欲情し、いまなお自己愛にとらわれたままの男性への上野さんの厳しい指摘、制服少女だったときの気持ちを否定しない鈴木さん。性を正しく使い、愛へと向かうことはいかに可能か――?  時代の証言者たちが集った緊張感みなぎる2時間をテキスト化してお届けいたします。

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往復書簡 限界から始まる

7月7日発売『往復書簡 限界から始まる』について

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伊藤比呂美

詩人。1955年東京都生まれ。78年に『草木の空』でデビュー、80年代の女性詩ブームを牽引。結婚、出産を経て97年に渡米。詩作のほか小説、エッセイ、人生相談など幅広い創作活動を行っている。『河原荒草』で高見順賞、『とげ抜き 新巣鴨地蔵縁起』で萩原朔太郎賞・紫式部賞を受賞したほか、『道行きや』で熊日文学賞を受賞。その他『切腹考』『良いおっぱい 悪いおっぱい〔完全版〕』『女の絶望』『女の一生』『いつか死ぬ、それまで生きる わたしのお経』『森林通信』など著書多数。(写真撮影:吉原洋一)

上野千鶴子

社会学者・立命館大学特別招聘教授・東京大学名誉教授・認定NPO法人ウィメンズアクションネットワーク(WAN)理事長。1948年富山県生まれ。京都大学大学院社会学博士課程修了、平安女学院短期大学助教授、シカゴ大学人類学部客員研究員、京都精華大学助教授、国際日本文化研究センター客員助教授、ボン大学客員教授、コロンビア大学客員教授、メキシコ大学院大学客員教授等を経る。1993年東京大学文学部助教授(社会学)、1995年から2011年3月まで、東京大学大学院人文社会系研究科教授。2011年4月から認定NPO法人ウィメンズアクションネットワーク(WAN)理事長。専門は女性学、ジェンダー研究。『上野千鶴子が文学を社会学する』、『差異の政治学』、『おひとりさまの老後』、『女ぎらい』、『不惑のフェミニズム』、『ケアの社会学』、『女たちのサバイバル作戦』、『上野千鶴子の選憲論』、『発情装置 新版』、『上野千鶴子のサバイバル語録』など著書多数。

鈴木涼美

1983年生まれ、東京都出身。慶應義塾大学卒。東京大学大学院修士課程修了。小説『ギフテッド』が第167回芥川賞候補、『グレイスレス』が第168回芥川賞候補。著書に『身体を売ったらサヨウナラ 夜のオネエサンの愛と幸福論』『愛と子宮に花束を 夜のオネエサンの母娘論』『おじさんメモリアル』『ニッポンのおじさん』『往復書簡 限界から始まる』(共著)『娼婦の本棚』『8cmヒールのニュースショー』『「AV女優」の社会学 増補新版』『浮き身』などがある。

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