わたしはもう二十年以上、ブラジャーをしていない。
突然何の話かと思われるかもしれないが、ただの事実なのでとりあえず聞いてほしい。
ブラジャーを手放したその時から、わたしは常に胸のあたりを締め付けられる不快から解放された。胸が垂れるとか可愛い下着をつけたい気持ちとかはどうでも良かった。それ以上に、自分が快適な状態を選んだのだ(ブラトップのようなものは着用している。念のため)。
ストッキングをはかないと決めたのは二十歳のときだし、自分の足よりも大きいサイズの靴をはきはじめたのは三十歳くらい。ファッション用途以外でベルトもしない。Tシャツはなるべく大きいサイズを選ぶ。ウエストではなく常に腰でボトムスをはく。靴下も普段は自分の足サイズプラス2センチのものを選ぶ。ガードルや矯正下着などもってのほか。わたしがワンピースを好む理由も、体を締め付ける部分が少ないからではないかと思う。
とにかくわたしはもうずいぶん長いこと、体を締め付けるものを拒否して生きていたのである。
そしてわたしはついに、トランクスに手を出した。
カルバンクラインとかのみたいな、お洒落で可愛いぴたっとしたボクサーパンツならはいたことはあった。そういうのではなく、腰のところにゴムが入っていて、シャツみたいな生地で、足の付け根が解放されているゆるい短パンみたいな、みなさんご存じのやつだ。
これがものすごく快適で驚いている。
なぜか女性用のパンツは大抵生地が少なく、尻に食い込み、鼠径部を圧迫する。トランクスにはそれらの不快が一つもない。生地が多く、尻に食い込まず、鼠径部は自由だ。
だいたい女性用下着はサイズ感がおかしい。たとえばある女性用下着大手メーカーのパンツMサイズは、ヒップ83センチから93センチとなっている。10センチも幅があるのだ。10センチお尻の大きさが違うのに同じサイズを提唱されるって、どう考えても変じゃなかろうか。身長160センチの人と身長170センチの人やウェスト60センチの人と70センチの人は違う衣服を選ぶだろうに、どうしてパンツだけは10センチ違うことを受け入れられるというのか。とりあえずわたしは、この長い人生の中、自分にぴったり合うパンツをはいたことが一度もない。
トランクスは、ウェストさえきつくなければどれだけぶかぶかでもそんなに気にならない。
なぜこんなに快適なものを「女性の体であるから」という理由で使用してこなかったんだろう。トランクスは「男性の体の人がはくもの」という固定観念の中にずっといてしまった。調べてみたが、今のところ女性の体の人用トランクスは存在を確認できていない。わたしがはき始めたものも、前身ごろ中央に社会の窓と言われるボタンつきの穴がある。
わたしは今までの人生、自分を縛り付けるものから逃げ続けてきた。学校とか会社とか義務とかルールとかからも。なのに今ごろようやくトランクスにたどり着いた。
もちろん、綺麗で華奢な下着や補正用のものを着用したい人はすればいい。それも自由だ。体のラインを綺麗に保ちたいという気持ちは尊敬に値する。レースやリボンは可愛いし。見えない部分にお洒落をしろってよく言うし。
ただわたしたちは、トランクスを選択する自由も持っているのだということ。
女の体を持つ人たちはみな是非試してみて欲しい。そして所有してみて欲しい。「彼氏の」とかじゃなく、自分のトランクスを。たったそれだけのことで、わたしは毎日少し気分が軽いのだ。
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愛の病

恋愛小説の名手は、「日常」からどんな「物語」を見出すのか。まるで、一遍の小説を読んでいるかのような読後感を味わえる名エッセイです。














