前回、あくまで私個人の体験からの憶測だが、メディア化の際、原作者の意向が無視されたかのようになってしまうのは、悪意ではなく、伝言ミスによる誤解により起こっているのではないかと推察した。

これは実写ドラマ制作に限ったことではく、人数が多い現場ではよく起こることだ。
荻野千尋だって1000人ぐらいで伝言ゲームをさせれば、最終的には文字通り「千」になっているものだ。
ただ、1人目が湯婆婆だと、2人目で千どころか一にまでなっていることもある、悪意にすら見えるミスが起こる場合はやはり体制に大きな問題があるのだろう。
だが、今回湯婆婆だったのは出版社側説が濃厚だし、私も社会人のホウレンソウを小松菜に変えることには定評があるのでなんとも言えない。
それに情報を正確に伝えたところで、何せ脳が別々なのだ、同じ情報を得てもイメージするものは各々違う。
全員が電脳化し巨大なマザー大脳に繋いでイメージを共有できればいいが、それは無理だし俳優のうなじに謎の差込口があったら見る方も気になって仕方ない。
よって「コレジャナイ」という事故はどうしても起こってしまうのだ。
しかもコレジャナイは1人でも起こるのだ。
脳は「こういう絵を描け」と伝達しているのに、手から出力されるのは中国総人口で伝言ゲームをしたかのような別物なのだ、多分神絵師に「こういうのを描いて」と言った方がイメージに近いものが出来上がると思うので、1人でやれば思い通りにいくわけでもないのだ。
ただ全く思い通りにはいかないが、たった1人でイメージを具現化でき、広く観られる可能性があるという意味では執筆というのは夢があるし、イメージはあるが人望がゼロの人間にとってはこれがあって良かったとしか言いようがない、多分これがなかったら猟奇殺人鬼になっていた奴がたくさんいる。
ドラマの場合はイメージを大人数で分担して出力していくことになり、一番注目されるのが俳優陣の演技だと思うが、芝居のことは何もわからないため、これが一体どうやってされているのかが不思議である。
私もドラマの「台本」というものを貰っている。
すでに一生に一度とも言えるドラマ化の台本だがどうしてこんなに汚くできるんだというぐらい薄汚れてしまっているが、それはいつもどおり床に置いていたからだ。私にとって床は物を置く場所なので特別粗末に扱ったというわけではない。
しかし、撮影現場に行くとそこには私の台本の100倍汚い台本が置かれていた。
私の床の100倍汚いということは、すでに半分腐り落ちていると言っても過言ではない。
つまり短時間で風化するまで読み込まれているということだ。
誰の台本化はわからないし、台本が1冊しかなく60人ぐらいで回し読みした結果かもしれないが、それにしても朽ち果て方がすごかった。
だが、台本に書かれているのはほぼ台詞であり「白目を剥いて両手でピースしながら」など演技部分の細かい指定はほとんど入ってないのである。
これが漫画だったとしたら、ほぼ全コマ顏アップで台詞を言っているだけのものになるだろうし、台詞や表情もロボットデリヘルレベルの棒読み無表情になってしまうだろう。
AIにドラマの作り方を聞いたところ、演者が集まっての「本読み」や「リハーサル」などを重ねて演技方針を決めて行くらしい。
つまりこのキャラはこんな感じだろう、という「解釈」を重ねて演技をしているということだろう。
当たり前だがまず台詞を覚えなければいけないし、それをただ読み上げるだけではなく、感情を乗せ、時には白目を剥きながら言わなければいけないのだから、今更ながら俳優はすごい。
しかし厄介なオタクであればわかるだろうが「解釈」ほど面倒なものはない、今まで「悪いが解釈違いだ」の一言で、どれだけのジャンルを共にした朋友が袂を分かってきたと思っているのだ。
実際この世には「出来は非常に良かったが解釈とは違う」という感想が存在するので、やはり万人が満足するものを作るのは難しいのだ。
だが、ずっと他人のキャラクターを解釈する側だったのが解釈される側になったというのは感慨深い。
キャラの解釈は制作の総意でやっているとは思うが、それを演じる俳優の解釈も大きく影響しているのは確かだろう。
よって今後は自分のキャラのことを「〇〇に演じてもらった」ではなく「〇〇に解釈してもらった」と表現して、その厄介ぶりを見せつけていきたいと思う。
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