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カレー沢薫の廃人日記 ~オタク沼地獄~

2025.12.12 公開 ポスト

自分と違う人種のことが悪い意味で気になってしまった時はお休みの合図カレー沢薫

今年も、推し活界隈は二次も三次も盛況であった。

もちろん推し活はキャラや人間相手だけに留まらず、プッチ神父みたいに「孤独なところが好き」と言って虚数を推してもよく、自分以外に心や砕く対象がいるならそれはもはや推し活なのである。

 

ここまで、推し活が当たり前のものになってくると、推し活をする人たちに注目集まったり、逆に推し活ができない人が考察対象になってくることもある。

まず前提として、自分と違う人種のことが悪い意味で気になってしまった時はお休みの合図である。

推し活をしている人間を冷笑したり、していない人間に対し「逆に聞きたい、生きてて楽しいのか、と」など、口調の時点でとち狂った問いかけをするようになったら、気絶という形でいいから寝た方がいい。

逆に「俺にはその環状線とやらの良さはさっぱりわからないけどお前が笑顔で何よりだよ」と思える時は相当調子がいいので、もう3時間起きて部屋の掃除とかをしてみよう。

先日要約すると「推し活をするのは自分の人生がつまらない人間」という説を見かけた。

「オタクは全員犯罪者」を生き抜いた世代にとってこの程度の偏見は耳毛がこすれ合う音ぐらいにしか聞こえないと思うが、オタクはキモイとすら思っていない若人にとっては聞き捨てならない話かもしれない。

私はいい意味でオタクは何かしらキモイものだと思っており「オタクだからキモイです」というのは「アイドルだからバク転できます」と同じ意味だと思っていたが、だからといって「我々みんなキモイし、キモイ自覚もっていこうぜ」というのは余計なお世話な気がしてきた。

そもそも自覚を持ったところで、キモさは常にその先を走っているので無意味である。

だが、「推し活する奴つまらない説」を見かけたのは言うまでもなく「X」であり、しかも「私のおすすめ欄」である。

私のおすすめ欄は「神羅万象全てが差別されている」という意味で「平等」を成し遂げたユートピアである、子猫を拾った人間以外は差別されているのが普通なので気にすることはない。

それに「人生がつまらない人間」というのはかなりソフトな言い方で実際は、ありとあらゆるものが「低」な人間であり「高」の人間は、自分自身の人生を煌めかせることだけに興味があるため、他人の光にたかろうとは思わないのだそうだ。

煌めいているはずの人が、自分とは違う煌めきですらなく、それにたかっている何かの悪口を言っている時点で相当つまらないことになってると思うが、言っていることは少しわかる。

二次元を推している時は思わなかったが、今年三次元を少し推す中で少なからず「私もできればこうなりたかった」という感情があることに気づいた。

自分が煌めけないから煌めいている人に自己投影して疑似サクセスを得ようとしているという意味では全く指摘の通りだ。

ちなみに相手は若い男性アイドル達である。

四十路を遠に越えた中年女性が、股下が滑走路より長い男性アイドル達をみて「同じ舞台に立ちたかった……」と思っている様をキモいと言うなというのは無理がある。

しかし、周囲から見れば事案でも、私的には「また新しい楽しみを見つけた」という心持ちである。

仮につまらない人間であっても、推し活をはじめたことで人生が楽しくなっているのだから、この時点で「推し活をしている奴の人生はつまらない説」は破綻してしまっている。

そんなの本物の楽しさじゃないと言われるかもしれないが、前回土方さん掲載の新聞を見て窒息死しかけた体験が幻だったとも思えない、むしろ今までで一番生を感じた。

ちなみに全員差別されているでおなじみの我がXおすすめ欄では、当然「推し活できない側」に対するシビアな見解もあった。

推し活ができない人間は、自分以外に金や時間、感情を割くことができない人間なので、当然他者に対する思いやりにも欠けるので、感情的に推し活が理解できない人間とは付き合わない方がいいという説である。

「推し活できない奴はみんなサイコ田パス太郎」という、ある意味で「オタクは全員犯罪者」に匹敵しており、令和になってこんな力強い話を聞くとは思わなかった。

それらの、推し活してる側としてない側の議論を見続けてどうなったかというと普通に嫌な気持ちになってきた。

こんなことをしている暇があるなら、鼻が狂気山脈より高いアイドル達を見て「来世は同じ舞台に……」と思っていた方がマシだった。

気を嫌なことから別次元に逸らすことができる、という意味でもやはり推しはいた方がいいのかもしれない。

関連書籍

カレー沢薫『人生で大事なことはみんなガチャから学んだ』

引きこもり漫画家の唯一の楽しみはソシャゲのガチャ。推しキャラ「へし切長谷部」「土方歳三」を出そうと今日も金をひねり出すが、当然足りないのでババア殿にもらった10万円を突っ込むかどうか悩む日々。と、ただのオタク話かと思いきや、廃課金ライフを通して夫婦や人生の妙も見えてきた。くだらないけど意外と深い抱腹絶倒コラム。

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カレー沢薫

漫画家。エッセイスト。「コミック・モーニング」連載のネコ漫画『クレムリン』(全7巻・モーニングKC)でデビュー。 エッセイ作品に『負ける技術』『もっと負ける技術』『負ける言葉365』(ともに講談社文庫)、『ブスの本懐』(太田出版)がある。

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