
私は物心ついた時から次元が1本足らない人間にしか興味がなかったが、高校生の時インターネットという黒船に領土を占領されて以来本格的にテレビ、そしてそれに映る芸能人というものから離れてしまった。
それから四半世紀、沖縄ですら27年で返還されたというのに、インターネットは全く私の時間を返すそぶりがなく、私の芸能知識は戦後も山にこもって数十年戦い続けた人レベルになってしまった。
よって、私の漫画のドラマ化が決まった時も、主演に誰が来ても知らない自信があったので「知らない人の名前を聞かされた時の失礼じゃないリアクション」の研究開発を進めていたので、逆に知っている人が来て本当に驚いた。
しかし、失礼ながら、今回はじめて知る演者さんも多かった。
だがこれは私があまりに無知であり、北京原人がダイヤモンドを「キレイだね」と言いながら口に入れているようなものだと思ってご容赦いただきたい。
だが、元々クラスの男子に普通に話しかけられただけでちょっと好きになってしまうような人間なので、自分の原作ドラマに出てくれた人は当然気になるし何ならファンになってしまう。
これも放送開始してから知ったレベルなのだが、作中には現役の男性アイドルグループの人たちが多数出演してくれていたようだ。
そこで、今まで全く踏み入ってこなかった、男性アイドルの世界に少し触れたのだが、本当に原始人が始めた見た火をノーモーションで手づかみしたレベルで驚いた。
まず、男性アイドルグループの数がこんなにあるとは思わなかったし、もちろん全員イケメンで、歌も踊りもでき、バラエティもやるし、各々すでにファンを持っている。
しかし、それでも原始人の目に入るレベルまで行くグループは一握りなのだ、非常に過酷な世界であり、それゆえに応援する方も熱心になるのがわかる。
だが、それ以前に「こんな楽しそうな世界があったのか」とも思った。
二次元の場合、連載が終わった、推しが半年登場しない、死んだ、など兵糧攻めを食らうことが多く、だからこそ二次創作などの自給自足文化が発達したのかもしれないが、こっちだって好きで牛乳とクエン酸で作ったジェネリックカルピスを飲んでいるわけではなく、できれば原液の方をガブガブ行きたいのだ。
現在、SNSやYouTubeなど、発信源が多いため活動が活発な三次元の推しであれば「毎秒新規絵」が見れると言っても過言ではなく、他のメンバーとの絡みも見れたりする。
関係性オタクにとって「推しのグループが仲良さそう」以上の栄養はない、故に「実は不仲」という報道が出た時、急激にやせ衰えてしまうのだ。
「BLも嗜めればpixivはもっとでっけえ宝島になったのに」と思った時と同じように、私も3次元の推しが作れたらさぞ楽しかろうと思ったのだが、同時に生粋の2次元推しでよかったとも思った。
むしろ、神がアダムのあばら骨を抜いてイヴを創ったように、私の3本ある次元から神が1本抜いて二次元しか推せない体質にしてくれたとしか思えない。
これは私にとって良かった、というより推される側、そして同じ推しを持つ人にとって良かったと思う。
多分私が三次元を推すと「本人は良いがファンが痛くて嫌い」と言われるような厄介ファンになってしまうような気がしてならない。
2次元の場合は、どれだけ推しとの距離感バクり太郎になろうとも、次元と言う名の一線はどうしても越えられないのでまだ冷静でいられるが、その壁がない推しができてしまったらどうなってしまうのか自分でも想像がつかない。
だからといって「推しと結婚」を目指すアグレッシブファンになれるわけもなく、逆に恐ろしく陰湿なことをしそうな気がする。
そもそも思いつめやすいタイプなので、三次元を推す時に不可欠な「人間だもの」というみつをスピリッツが持てず、神として崇め、逆に一瞬でも人間くさいところを見せたら反転アンチになるような不寛容の極みをお見せしてしまうような気がしてならない。
むしろ「三次元の推しができたら楽しいだろうなあ」と思うぐらいの距離感で、全員命拾いしたと言っても過言ではない、これからも出演してくれた方々のことは緩く応援していきたいと思う。
ちなみに主演をしてくれた方は「自分は推しを持ったことがない」と言っていた。
実際、推し活全盛の今でも、推しと言えるものがない人はたくさんいるし、そういう人は「推しがいる人が羨ましい」と言ったりもする。
確かに「推し」という生きがいがあるというのは良いことだが、推し活にのめり込んで苦しいことになっている人もいるし、推し活に関する悩みは増加傾向にある。
私が3次元にそこまでハマれない体質で命拾いしたのと同じように、推しができない体質でよかった人もいると思う。
カレー沢薫の廃人日記 ~オタク沼地獄~

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