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いつまで自分でせいいっぱい?

2025.06.19 公開 ポスト

#83

がんばれ愛ちゃん!佐津川愛美

年明け。
クローゼットのドアの内側に、昔の写真を貼った。父に抱かれた生まれたばかりの写真。母に抱かれた生後1週間の写真。祖母に抱かれたお宮参りの家族写真。初節句のお雛様の前に放たれた写真。兄妹4人で並んでいるキャンプに行ったときの写真。妹と踊っている雰囲気の写真。。。
片付けをしていたらふと出てきた写真たち。その写真たちを毎日見られる場所に貼った。子どもの頃の写真を見ると、3歳くらいまでのものは懐かしいなぁとかお兄ちゃんたち可愛いなぁとか、明るい気持ちで見られるのだが、4、5歳の頃の自分、そしてそこからあとの成長過程である時期の全ての写真たちは、見ると胸が痛むという現象が起きていた。
きっと、その頃から、重たいものを抱えるようになったのだろう。自分の生きてきた道を思い出すことも、懐かしむこともあまりない。したくない。そうやって、逃げてきたんだなぁと思う。

 

1番惹かれるのは、近所のお姉さんから貰った紺色のワンピースを着て、首をかしげ、無理やり笑おうとして収まっている写真だ。恐らく小学校低学年だろう。不安と不満が滲み出た表情が私には痛々しくて、見るたびに心がえぐられていた。
私はその写真に収まっている、過去の自分に話しかけるようになった。着替えるためにクローゼットを開ける。余裕があれば、全ての写真に目を通し、家族それぞれに「おはよう」と言う。不思議なのは、心に余裕がある日は、家族全員に「おはよう、ありがとう」と言えるのに、そう思えない日があったり、言いたくない日があったり、逆に心から言いたい日もあったりする。時間や心の余裕がないときには、不貞腐れた幼い私にだけ、「愛ちゃんおはよう」と話しかける。
これはきっと、一種のセラピーなのだ。辛かったね。大丈夫だよ。頑張ってくれてありがとう。ちゃんとあなたを見ているよ。そんな気持ちで話しかける。

 

最近、日常の中で「頑張れ愛ちゃん!」と心の中で言っていることが増えた。気付かぬうちに、いつの間にか。

心の中なのか頭の中なのかはわからないけど、常に出てくるワードがあった。だいたいが、実際には口に出せないような、醜い言葉だ。
不安や不満を抱えたまま、大人になってしまったようだ。時期によってその言葉は変わるけれど、どれもが大体が、ネガティブな言葉たちだった。嫌なことを思い出したり、言われたりしたときに、防御のように浮かんでくるワードだった。

それがどうだ。最近の私の心なのか頭の中なのかわからないけれど、よく出てくる言葉は、自分を自分で励ましている言葉に変わったのだ。

子どもの頃の自分に話しかけるようになって、恐らく私は劇的に心の中が変化しているのだろう。

自分だけは自分の味方でいる。
きっとそれがずっと出来なかった。なんで私なんかが生きてるんだろうと膝をかかえながら多摩川を眺めていたあの頃に寄り添うことが出来ず、暗い気持ちでい続けることしかしていなかった。そのずっと前から、幼い頃からずっと、そうだったのだろう。そこから抜け出す努力をしなかった。ずっと救わずにいた。

自分はダメだ、自分は幸せになっちゃいけない人間だと思い続けてきた。でもそれって、どこまでも、自分のことを考えているのだ。それを明るい方向に転換できたら、最強じゃん!だってこんなに自分のことをずっと考え続けているんだもん。そうだ、自分が自分のお母さんになればいいんだ。お母さんに言われたい言葉を自分にかければいいんだ!なんて気づいたときには、私史上最大の発見だと思った。

でも、いざ、そこから何かを変えられたかと言ったら何年も変えられなかった。

 

それがここのところ、変わってきたのだ。
子どものころの自分に話しかけることで、少しずつ変われてきているのかもしれない。私自身の素直な心を受け止め、当たり前に大切にする。

 

頑張れ愛ちゃん。自分の応援団でいること。
頑張れ愛ちゃん。自分の心を守ると決めること。

 

自分が自分に出来ること。
あなたはあなたを、守れていますか?
あなたの心を、守れていますか?

【嬉】自分の好きなことを大切にし始めたら、そこで楽しんでくれる人達の笑顔に出会えて、泣きそうなくらい嬉しくて、大切にしたいことを全力で守っていこうと心から思った。

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いつまで自分でせいいっぱい?

自分と向き合ったり向き合えなかったり、ここまで頑張って生きてきた。30歳を過ぎてだいぶ楽にはなったけど、いまだに自分との付き合い方に悩む日もある。なるべく自分に優しくと思い始めた、役者、独身、女、一人が好き、でも人も好きな、リアルな日常を綴る。

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佐津川愛美

1988年8月20日生まれ、静岡県出身。女優。
Instagram http://instagram.com/aimi_satsukawa

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