
地元の中学を卒業して、仕事のために東京に出てきた。私は事務所の寮に入らせてもらって、そこから学校に行ったり仕事に行ったりした。
個室の部屋があるとはいえ、ごはんは1階の食堂でみんな一緒に食べる。
先輩が多かったし、まだまだ猫をかぶっていたので、あまり人と関わらない、おとなしいキャラで過ごしていた。
1年ほど経った頃。先輩が一気に寮から卒業した。そして、我々のお世話をしてくれるおじさんとおばさんが変わった。住み込みで管理をしてくれるご夫婦で、寮母さん寮父さんといったところだろうか。
おばさんはごはんを作って、共同部分の掃除をしてくれたり。おじさんは、寮の外やまわりの管理やら、力仕事やおばさんの料理のサポートやら。
新しいおじさんとおばさんになってから、私はよく喋るようになった。2人とも明るくて、親身になってくれて、いつの間にか誰よりも心を許し、大好きになった。
おじさんはまだ暗い早朝出発で撮影に行かなければいけない日には必ず、駅まで一緒に歩いて送ってくれた。前の時にはなかったので、きっと、事務所からお願いされている仕事ではないはずだけれど、危ないからと自発的に私たちに付き添ってくれたのだと思う。一見怖そうなのに、優しくて、お酒を飲んでにこにこする顔がとびきり可愛い。
おばさんは料理上手で、好き嫌いがはっきりしていて、おもしろくて、堂々としていて、がはがはと笑うスーパー最高おばさんだった。
20歳を迎えて寮を出てからは、電話をしたり、寮を出たおじさんとおばさんのお家にたまに遊びに行かせてもらったり。私たちを娘のように可愛がってくれた。

2年ほど前に電話をしてから、しばらく経ってしまっていた。おじさんとおばさん元気かなぁと思いつつ、昔のスマホが全く見つからず、電話番号がわからなくなってしまっていたのだ。
探しても探しても見つからないし、聞ける人もいなかった。
それがひょっこり。本当にひょっこりと昔のスマホが出てきた。スーツケースのポケットから出てきた。私はすぐさま充電をして、番号を確認した。
21時前。ちょっと遅い時間だけど、、一瞬思ったけれど、おじさんとおばさんはもはや親だし。何でも話してきた私にとっては家族だし。絶対起きてる時間だし、まぁ気を使わなくてもいいかと思い電話をかけた。3コール目で繋がった。
「はいー!もしもしー!」
おばさんだ。何も変わらないおばさんの声だ。全く久しぶりの感じもしない。すんなりと心が整った。
「おばさーん!あいみだよー!」
「あらー!愛ちゃん‼︎愛ちゃんいまテレビ観てるよー!ほら、ドラマで。ちょうどこないだ結婚式してたよ。愛ちゃんなんだかどんどん若くなるねーって話してたんだよ!全然変わんないから、どんどんどんどん若返ってどうなっちゃうのーって思ってたのよ!」
ここまで一気に話すのがおばさんだ。そうそう。これこれ。と嬉しくなった。
「おばさんそれ、多分再放送だよ。結婚式のシーンあるの11年前のドラマだから若いに決まってるよ!」
「がはがはあはははー!えーーーなぁーんだ!そうなの?随分若いと思ったー。あははは〜今日もねー小松菜煮ててね、愛ちゃん思い出してたよーおばさん小松菜と昆布を煮るたびに愛ちゃんが好きなのだからいっつも愛ちゃん思い出すんだよ!」
これも変わらない。
寮を出てから、電話で話すとき、会うとき、毎回必ずこの話しをしてくる。
「愛ちゃんテレビでよく観るから元気でやってるねーって思ってたんだよ。」
この話しも毎回必ず。すると後ろからおじさんの声
「おーい愛ー!まだ嫁に行ってねーのか!早く行けよー!がははは〜」
これも毎回。毎回必ず。後ろからおじさんがニヤニヤ笑いながら言ってくる。お決まりパターン。
ちょうど、ドラマのオンエアがあった。
11年前ではなく、今の私の姿がテレビに映った。
「あー!愛ちゃん出てきたよ!あらー!お母さんになって。まぁ、愛ちゃん!愛ちゃんは前髪ある方が可愛いわよ!前髪ないの似合わない訳じゃないけど、ある方が絶対可愛いわよ!」
遠慮とかなく、思ったことをそのまま言ってくれる存在は、妹とおじさんとおばさんくらいしか私の周りにはいない。本当におじさんとおばさんは私にとって、家族なのである。
「愛ちゃんは引っ込み思案で自分から行けないから、もっとどんどん外に出て色んな人と話して、合わなかったら、はいさよならーってして、振り向かないで、色んな楽しいこと見つけにいかなきゃダメよ!」
久しぶりに聞いたな。これも毎回言われるけれど、今や私は、引っ込み思案じゃないし、自分から話しかけられるし、どんどん色んな世界に頭つっこんでるし。
でもそうか、10代の私は真逆だったんだなぁとなんだか不思議な気分になった。
で、なぜか話の流れで、人生に焦るなという話になった。私が昨年お子さん向けのワークショップをやって、めちゃくちゃ楽しかった、人生で1番楽しかったと話すと、
「いいのいいの。結婚が全てじゃないんだから、好きなことやればいいのよ。」とおばさんが言った。なんで結婚の話しに飛んだんだ?と思っていると後ろから
「愛ー!大丈夫だぞー!焦る必要ないからなー!」とおじさんの声。さっきと反対のこと言ってるけど。私はすぐわかった。「焦るなー!大丈夫だぞ。」が本心なんだなと。心配しつつ、見守ってくれてるんだなと思った。
なんやかんや沢山話した。
最後に電話を切るときおばさんは言った。
「おばさんが近くに居たら抱きしめてあげるのに。愛ちゃん大丈夫よー愛ちゃん大好き大好き。チュッチュッチュっ!がははは〜大丈夫だからね〜フレフレ愛ちゃん〜だからね!いつでも電話してね!いつでも困ったら来なさいね!自分を楽しませてあげて。いつでも小松菜と昆布煮て待ってるから。愛ちゃん愛してるよー!」
嘘みたいに全部言葉にしてくれるじゃんと思った。
私に何かあって、辛くて電話してきたと思ったのかな。
本当にたまたま電話番号を発掘出来ただけだったけど、思いがけず、あぁ私は愛されてるな。嬉しいな。有難いなと思えた。そしたらやっぱり、気分がよくなるし、元気になるし、心がほっこりした。
こうやって、しっかり言葉に出して伝えてくれる存在だから、私はおじさんとおばさんが大好きなのかもとも思った。間合いを読んだり、表情を伺ったり、本音と建前みたいなものばかり、空気ばかりうかがってしまう癖があった若い頃の私には、おじさんとおばさんのストレートさが眩しかったのだろう。そして、羨ましかったのかもしれない。
数年ぶりに話したのに、全くそんな風に感じなかった。寮の中で永遠と悩んでいたあのころと、だいぶ変わった部分と変わらない部分がきっとある。
そうだね。私は大丈夫。
おじさんとおばさんが居るから。
大好きな人たちと10代の頃に出会えたから。救われた。何年経っても、おじさんとおばさんは最強だな。
私もストレートに嘘なく生きていこう。

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いつまで自分でせいいっぱい?

自分と向き合ったり向き合えなかったり、ここまで頑張って生きてきた。30歳を過ぎてだいぶ楽にはなったけど、いまだに自分との付き合い方に悩む日もある。なるべく自分に優しくと思い始めた、役者、独身、女、一人が好き、でも人も好きな、リアルな日常を綴る。