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コンサバ会社員、本を片手に越境する

2024.06.09 公開 ツイート

「働いていると本が読めなくなる」への抵抗として始めた“毎日のある記録” 梅津奏

「自分」と「読書」は“切り離せない関係”だと確認するために

 

なぜ働いていると本が読めなくなるのか 』(三宅香帆/集英社新書)が売れているらしい。かくいう私も、三宅香帆さんの大ファンでありタイトルからしてドンズバであり、予約して発売日に手に入れて即読んだ。

日本の近代以降の読書史と労働史を並行して解説し、「なぜ労働と読書は両立しないのか」を解き明かす。そして、読書に限らず趣味に時間を割けなくなっている現代の労働環境に警鐘を鳴らし、「半身で仕事をする」ことを提唱する三宅さん。

「半身で仕事をする」とは、2023年1月に放映されたNHK番組「100分deフェミニズム」にて、社会学者の上野千鶴子さんが「全身全霊で働いてきた男性像」と対比させて言及した新しい労働の姿。私もこの番組を観ていて、一番グッときたのはこの言葉だった。

 

ここ数年、会社の仕事と、趣味の読書と、その中間地点にあるようなライター活動を両立させてきた。

よく「フルタイムで働いていて、よくそんなに本が読めますね/原稿が書けますね」と声をかけていただくが、「他を犠牲にしていますから」と返すしかない。会社の仕事は義務であり(私にも選択権があるのでそうとばかりも言えないけれど)、本を読むのはご飯を食べるようなこと、ライター活動は今一番やりたいこと。与えられる24時間365日は伸ばしも縮めもできないわけで、その中でやりくりするには当然他の何かを犠牲にしていることになるのだろう。丁寧な暮らしとか、女性としてのライフプランとか、キラキラ楽しいトーキョーライフとか(?)。

とはいえ、モーレツ・サラリーマン世代からすれば、むしろ私は贅沢者に見えるのではないかと思う。思う、というかそういう視線は正直結構感じる。自分たちの時代には選択肢なんてなかった。男性は仕事、女性は家事育児。それを両方ともやりたいとか、いわんや趣味だの副業だの……。そんなことが受け入れられるような世の中ではなかったと。確かにそうなのかもしれない。そこは素直に、令和時代に生きていることに感謝する。

 

それでも、皮肉屋の私は思ってしまう。「人生シンプルで、羨ましいです」なーんて。言葉を選ばずに言えば、「全身全霊で働く」ってある種の思考停止。それはそれで楽な生き方じゃなかったですか? ことに、複雑なテトリスのようなスケジュールを日々こなしているワーキングマザー・ファーザーたちを見ていると「仕事に専念する」という選択がいかにイージーモードかと思わされてしまう。

そして『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』が秀逸なのは、労働の反対側に「読書(趣味)」を置いたこと。労働と同等に拮抗できるのは、これまではどうしても「育児」や「介護」のようなライフイベントだった。そしてそれすらも、先人たちが何度も何度も繰り返しメガホンで主張してきてくれた結果。三宅さんはそれを更に一歩進めて、「読書だって、労働とタイマン張っていい」と論陣を敷いてくれたのだ。

 

一年前、村上春樹の新刊発売日に残業の波にのまれて本を完読できなかったとき(私は大の村上春樹ファン)、私にしては珍しく「会社なんて辞めてしまおうか」と真剣に思った。2023年に読んだ本の冊数が例年の半分程度になったとき、自分の人生の優先順位を考えて遠い目をしてしまった。

なぜ私たちは燃え尽きてしまうのか―バーンアウト文化を終わらせるためにできること 』(ジョナサン・マレシック著、吉嶺英美訳/青土社)
疲労社会 』(ビョンチョル・ハン著、横山陸訳/花伝社)
なぜ男女の賃金に格差があるのか 』(クラウディア・ゴールディン著、鹿田昌美訳/慶応義塾大学出版会)
静かな働き方 「ほどよい」仕事でじぶん時間を取り戻す 』(シモーヌ・ストルゾフ著、大熊希美訳/日経BP)

昨年印象に残っているビジネス書は、こんなタイトルが中心を占める。私もこのテーマで何か書きたいと、書くあてのないコラム企画をあれこれ考えたりもした。

 

そして結局始めたのは、「昨日読んだ本」の記録

……なんだか急にスケールが小さくなった気もするが、裏テーマがある。「最近の関心事や悩み」を起点に本を紹介するコラム、課題本が決まっている書評記事などとは違い、あくまで「リアルに生きている私と本」の自然な関係を記録していくつもり。自分と読書が切り離せないもので、仕事やその他の社会活動を簡単に優先させてはいけないのだということを自分にも外にも知らしめる試みだ。

インスタグラムにて、800字前後で日記のように「きのう、何読んだ?」を記録する。切り口とかバランスとかは一切考えず、ただ「昨日の私と読んだ本」を書き留めるだけ。

僭越ながら同じ穴の狢だとこっそり思っている三人の読書エッセイ(一種の私小説のように感じる)をパラパラとめくりながら、自分らしさを改めてかみしめている。

野蛮な読書』(平松洋子/集英社文庫)

ハンバーガーショップに入ったのは何年ぶりだろう。いつもの喫茶店で読むのは、ちょっとちがう気がしたのだ。むしろそっけなくて、かさついた空気が欲しかった。それは、バッグのなかの戦場の気配のせいだろう。――『野蛮な読書』より

エッセイストの平松洋子さんによる読書エッセイ集。第28回講談社エッセイ賞受賞。本や料理・暮らしの道具にまつわるエッセイを多数発表している平松さん。本書では、少女時代から筋金入りの本の虫である平松さんが暮らしの中で本を戯れ、時に野蛮に格闘する姿がスケッチのように綴られている。「食う・読む・書く・寝る」を健やかに実践する暮らしのプロっぷりは、あっぱれの一言。

小説以外』(恩田陸/新潮社文庫)

就職して何より嬉しかったのは、自分のお金でミステリーのハードカバーが買えるようになったことだった。残業と酒に追われていたが、それでも当時はまだ一年間に出るミステリーを国内から海外までほとんど読んでいたと思う。――『小説以外』より

「エッセイは苦手」と公言する小説家の恩田陸さん。そんな恩田さんが書くエッセイは、ほぼ100%読書エッセイになる。新卒で入社した保険会社時代は過労で入院することがあるほどだったというし、その後作家との兼業生活に突入しても、読書は手放さなかった。恩田さん特有の淡々とした諧謔的文章で読むと、本にとらわれてしまった人の「おかしさ」がじわじわ浮き上がってきて、我が身を顧みてちょっと笑ってしまう。

不思議な時計』(北村薫/新潮社)

――これが終わったら、あれが読める。あのぶ厚い本の、ページがめくれるじゃないか。
その時の、沸き上がるような喜びを、今でも覚えています。――『不思議な時計』より

元高校の国語教師の北村さんの作品には日本のみならず世界の文学作品のエッセンスがふんだんに盛り込まれ、読者の知的好奇心をくすぐる。まさに博学強記な人である北村さんは、言わずもがなの本の虫。本作は泉鏡花文学賞を受賞した『』から続く、北村さんと本の交友を私小説的に描く「本の小説」シリーズ。生活からの発見が本に繋がり、本からの発見が生活に繋がる……。北村さんが言うところの「感性の鎖が繋がる」瞬間を閉じ込めた一冊。

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筋金入りのコンサバ会社員が、本を片手に予測不可能な時代をサバイブ。

 

 

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梅津奏

1987年生まれ、仙台出身。都内で会社員として働くかたわら、ライター・コラムニストとして活動。講談社「ミモレ」をはじめとするweb媒体で、女性のキャリア・日常の悩み・フェミニズムなどをテーマに執筆。幼少期より息を吸うように本を読み続けている本の虫。ブログ「本の虫観察日記

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