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コンサバ会社員、本を片手に越境する

2024.04.09 公開 ツイート

「コンサバ会社員」から「激務系サラリーマン」に変貌した私を救う“振袖振りの着物生活” 梅津奏

会社員・梅津奏さんの年度末は大忙し。毎年働き方改革を誓うもなかなか実現できず。ならば、とまったく違うアプローチを考えたようですが――。

着物

気分がバシっと切り替わる、自己肯定感が上がる

ここ「幻冬舎plus」で読書コラムを書かせてもらうようになって、2回目の春が来た。

 

セーフティ・ゾーンの中で保守的に生きてきた私が、本を片手にもぞもぞガサガサ七転び八起きするさまを、結構赤裸々に書いてきた気がする。あまりに赤裸々すぎるのでは……と思うようなことも、自分の無名性を笠に着て、「ま、いいか」と綴ってきた。

この一年ふとしたときに思い出していたのは、ちょうど一年前に書いたもののこと。

嵐の年度末に実感する「麻薬の自己犠牲」より「真の健康管理」の必要性 

大忙しの年度末を終えて、「働き方改革が必要!」という思いのたけを書いた。当時は本当に、今が人生で一番大変くらいに思っていたが、現実はそんなに甘くなかった。そう、2024年度はその倍は辛かった……。仕事って不思議だ、やればやるほど増えていく。どういう生命体なのかしら。

そんなこんなで、「働き方を見直すって心に決めたのに……」と自分を不甲斐なく思いながら過ごした1年だった。仕事があるのはありがたいことだし、頑張った自分を否定したくはないけれど、これでまた「来年度は働き方を……」と書いたら私はアホだ。

ということで、今年度は力技を使うことにする。はい私、着物始めました!

 

「はい?」と思った方も多いことだろう。着物と働き方に、どんな関係があるというのか。ハッキリ言って、直接関係はありません。職場には相変わらず、だいたい白い服を着て出かけています。着物を着るのは休日です。

心が疲れていた時期に相談した方から、「寝る時間や休日は、仕事のことを考えずにしっかり気分を切り替えないと」とアドバイスをもらったことがある。案外小心者で気にしいな私は、気分の切り替えが結構苦手。心配事があるとついついそのことばかり考えてしまって、夜眠れなくなったり、休日も家に引きこもったりしてしまう(そして読むのはビジネス書ばかりになる)。

そこで着物が登場する。普段の無味乾燥な洋服から、着物という若干非現実的な衣装に着替えたら、バシッと気分が切り替わるのではないか……?

弟の結婚式で振袖を着たのが、私の最後の着物体験。着物の人を見ると「素敵だな」と思うし人並みに興味はあったものの、面倒くさがりな性格や収納場所、かかるお金・時間を考えて「自分で着物を持つ・着る」ことを考えたことはなかった。

しかし着物を、自分のメンタルをコントロールし、より快適に生きるためのアイディアととらえると。なんだか、できる気がしてきた。というより、今の私にぴったりな気がしてきたのだ。

 

決断力には自信がある私。思い立ったが吉日とばかりに、呉服屋さんを調べ、予約をとって伺ったのが1月の終わりのこと。ベージュの小紋のお仕立てをお願いし、小物もいちから全部揃えて、同じお店で着付けを習った。習ったことを思い出しながら自分で着てみてお店に行き、女将さんにアドバイスをもらう。それを何度か繰り返したら、なんとか一人で着て出かけられるようになった。人間、やればできるのだ。

美しい反物、色とりどりの帯締めや帯揚げなんかを見せてもらっているだけでもうっとりして気分が良い。呉服屋さんの女将さん・大女将さん、居合わせたお客さんたちが「頑張ってるね」「似合ってる」と口々に褒めてくれるから自己肯定感が上がる。たくさんの布や紐を身体に巻きつけると、自分が大切に保護されているような安心感が生まれる。そして何より、着物を着ると心がゆったりと穏やかになる。

これまで表面的にしか楽しめていなかった着物エッセイ・小説も改めて読み直し、着物の世界にうっとりと浸る休日。この「着物作戦」で、今年度こそ仕事に侵食されない自分になるのだ。

着物の悦び きもの七転び八起き 』(林真理子/新潮文庫)

もちろん私は洋服が大好きで、これからもたくさんのものをまとうだろうけれども、着物は“思案”の多い分だけ、洋服よりさらに奥深く、魔力を秘めているようだ。――『着物の悦び きもの七転び八起き』より

おしゃれが大好きな作家の林真理子さんは、着物の愛好家でも知られる。着物雑誌で連載をもったり、イベントに着物で登壇されたりと、華やかな着物ライフを楽しむ林さんだが、その裏側には試行錯誤の日々があった――。着物初心者が陥りがちな失敗や、呉服屋さんでの振る舞い方など、ご自身の失敗談もユーモアを交えて紹介。季節や文化に対する知識がつくと、更に楽しくなる着物の世界。その魅力をイキイキと綴った、素晴らしい入門書。

きものが着たい 』(群ようこ/角川文庫)

正しい着物の情報が届いていない代わりに、どうでもいいといったら何だが、着物に付随するネガティブな情報ばかりが、耳に入っていることが悲しかった。――『着物が着たい』より

着物を愛好し、着物生活にまつわる著書を多数執筆している作家の群ようこさん。本書では、群さんは何人もの「着物初心者さんたち」をサポートし、着物生活の後押しをする。多くの人が持つ、着物への憧れと不安というアンビバレントな気持ち。そのギャップの大きさに胸を痛め、人々の誤解を少しでも正して、着物への扉を開いてあげようという先輩からの激励が詰まっている。

きものは、からだにとてもいい 』(三砂ちづる/講談社+α文庫)

駆り立てられて生きることは、本当はとてもつらい。小さくて確かな幸せ、(村上春樹さんは文字通り“小確幸”と書いていた)は分相応なところにしか、ないような気がする。
きものでは、分相応が学べる。――『きものは、からだにとてもいい』より

着物を着るために必要なのは「着物を着る」決意と助言者(メンター)の二つだけ、と書くのは女性の身体について研究する疫学者・三砂ちづるさん。「着物の着付けって難しそう」「帯に締め付けられて苦しそう」「草履で歩けるのかな?」という読者の不安と疑問に、三砂さんの実践と理論を通じて「きものは心地よいものです」と軽やかに答えてくれる一冊。

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コンサバ会社員、本を片手に越境する

筋金入りのコンサバ会社員が、本を片手に予測不可能な時代をサバイブ。

 

 

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梅津奏

1987年生まれ、仙台出身。都内で会社員として働くかたわら、ライター・コラムニストとして活動。講談社「ミモレ」をはじめとするweb媒体で、女性のキャリア・日常の悩み・フェミニズムなどをテーマに執筆。幼少期より息を吸うように本を読み続けている本の虫。ブログ「本の虫観察日記

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