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想像してたのと違うんですけど~母未満日記~

2023.04.26 公開 ポスト

保育園2年目、子育てと仕事の今のあれこれ。夏生さえり

つい先日、テレビでジャニーズのライブを見ながら「ハッピーニューイヤー!」なんて騒いだはずなのに、気づけばもう桜が咲いている。さすがにおかしい。まだ雪が降っていてもいいはずなのに、降っているのは、桜。ちらちら舞い落ちる花びらの中を電動自転車で突っ切りながら「ほら、さくらだよ」と息子に教えると、たどたどしい口調で「サクラ」と繰り返し、「サクラ イッパーイ オチタ。チップップ(チューリップ) ナーイ」と教えてくれた。よく話すようになってきた息子は、今日で1歳11ヶ月になった。これまた、はやすぎる。

 

一年前、憂鬱な気持ちではじまった保育園通い。心の底から納得してスタートできればよかったのだけど、実際は「本当に預けるべき?」と考えているうちに保育園の募集が始まって、とりあえず見学に行って、とりあえず申し込んで、とりあえず入園通知を受け取り……と、止まってくれない時間の中で「ちょ、まだ、まだ考えてるんですけど、ちょ……あの……」とボソボソぶつぶつ呟いているうちに、4月を迎えてしまった。冷たい雨の中、息子を園に連れて行きながら、これからどうなるのだろう、私は大きな間違いをしているのではないか、こんなにかわいい子を預けて本当に仕事なんかしていいのだろうか、なんて考えていた入園日。

一年経ってみて、どうだったかというと……。

保育園、最高。

仕事、最高。

そんで、そう言えるからこそ、育児、最高!! って感じ。

まあ、やっぱり最初は大変なことも多かったのは事実で、息子は熱を出しまくり、家族にうつしまくりで、仕事は滞りまくり。それに夜泣き、夜と明け方の授乳で、自分の体力の限界を感じることも多々あった。仕事で多くの人に迷惑をかけることも辛かったけれど、それよりも、これだけ熱を出すということは園では全く泣かない息子にも本当はストレスがかかっている証拠ではないかとも思い、そっちのほうが心苦しく、やっぱり無理があるのではないか、なにかを諦めねばならないものかと、アッツアツに発熱した息子を抱いて、思わず「ごめんね」と言いそうになった日もあったように思う。でも永遠に続くと思われた日々も、やっぱり前へ前へと進んでいるもので。年明けから、息子はほとんど熱を出さなくなって、ついでに夜泣きもなくなって、2月に完全に卒乳して以来、私も朝までぐっすり眠れるようになった(嬉しすぎ)。

いまでは、同僚から「育児と仕事の両立って、どうですか? やっぱり大変ですか?」と聞かれたときに、食い気味に「いや、最高ですよ。楽しさばかりです」と答えてしまうくらいに、満ち足りている。「働きながらの子育ては、超大変で我慢ばかり!」と思い込んでいた私にとって、これは最高の大誤算なのだった。

まず、仕事。

復帰して半年くらいは「9-17時しか働けないし、時間の融通はきかないし、夜のmtgは出られないし、子どもが熱を出すこともあるし、体調不良でmtgをキャンセルさせてもらうこともあるし、すみません……」って負い目があるような、そんな気分だったのだけど、つい最近、自分の仕事量を振り返る機会があって、仕事履歴を見てびっくり。私、めちゃくちゃ仕事してる! なんなら、独身~子無し時期よりも圧倒的に仕事をしてる!? どんな時間トリックよ!?!? と思ったけど、まあなんのことはない、「切羽詰まって、鬼気迫る勢いで働いていたら、仕事の効率が爆裂あがった」のだった。

これまでは、どこか「いつでも仕事できて、夜も土日も関係ないし……だから今日は……ま、いっか」って感じでのんびりだらだら仕事していたのだけど、土日は保育園は休み、平日の仕事時間はたった8時間のみ、しかも息子はいつ熱を出すかわからない! という追い詰められた状況になったせいで(おかげで?)、1分1秒を無駄にしてたまるかと、朝から夕方までみっちり集中して取り組むようになった(独身の時期から、そうできていればよかったのだけど……ははは……)。いつ熱を出してもいいように、できる限り前倒しで取り組み、朝決まった時間から始業して、決まった時間まで昼休みを惜しんでがっつり仕事。と、このリズムが体に馴染んでくると、仕事の効率も質も量もこれまでもよりもグーンとあがって、いまが人生でいちばん働いている? ってくらいに不思議な状態になったのだよね(もちろん「あと1時間あれば……」「あと30分あれば……」「土日も仕事ができれば……」と悔しい気持ちになる日だらけだけど)。おんなじように、子が体調を崩せば誰かに迷惑をかけてしまうし、予定がうまく進まず謝り倒す日もあって、ダメな部分ばかりにとらわれるのだけど、よく考えてみたら、あら、びっくり! 仕事のパフォーマンスが超UPしてました! って人、意外とたくさんいるんじゃないかしら。

で、そうやって私が仕事を楽しんでいる時間、息子は保育園で過ごしている。と思えば思うほど、朝や夜の短い時間は、息子と超ウルトラ楽しく過ごすぞ! とめちゃくちゃ思う。心の底から思う。ちょっと血眼になるくらいに深刻に思う。だから息子と歌って、踊って、一緒に絵本を読んで、楽しい時間を目一杯詰め込むようにして過ごすし、食事を手づかみで床にぶちまけても、イヤイヤ! と文句を言われても、朝と夜の短い時間だけじゃないか……と、多少は寛容にもなれて(多少はね)、育児もすっごく楽しめている。って具合で、今のところは好循環。保育園様様。そしてなにより保育園生活を受け入れてくれている息子様様で、感謝しかないエブリデイ。

子が生まれたら、やりたいことをやれずに我慢が必要なのだと思っていたけど、ちがった。仕事も頑張りたいし育児も頑張りたいし生活も頑張りたい。でも時間はたったの24時間しかなくて、なのに好きなものが増えすぎて、やりたいことだらけの中で必死にかき集めて抱きしめて、それでも何かを取りこぼす悔しさをのみこむときに「我慢」が必要なのだ。結局のところ、大好きなものがぎゅうぎゅうに詰まっているなかで、わずかに取りこぼしたものを嘆いているという、まあじつに贅沢な日々なのだよね。育児と仕事をすることで、光り輝くような日々になるなんて、本当に、知らなかったよ。

子育ての先輩たちは、口々に「保育園、最初は寂しいけど、すぐ慣れる!」と笑っていたけど、私にとっては「慣れる」というよりも「変わっていく」が近かった気がする。寂しかった。不安だった。でも、息子は、そんな私なんて御構い無しにおそろしい速度で成長して、息子に引っ張られるようにして、私も、生活も、なにもかもが、変わっていった。

先生にされるがまま教室に入って行った息子はもういなくって、「アーケーテ! アーケーテ!」と教室のドアを開けるように催促する息子になった。毎日抱っこ紐を着け、まるい額にキスを浴びせながら「保育園、どうだった?」と話しかけていた道のりも、いまでは電動自転車で爆走しながら、前のカゴに座っている息子の背中にむかって「保育園で何して遊んだのー?」と大きな声で聞く。「アゥー」とか「ンマンマン」とかしか答えなかった息子は、いまでは「サンリンシャ!」とか「センセイ、ガタンガタン!」とか、なにかしら1日の記憶(だと思われるもの)を答えてくれるようになり、ヘルメットをかぶった息子の後頭部に向かって「ちゅーしちゃお!」と顔を寄せれば、「イヤ!」と拒絶されて、頭突きされる始末。

玄関で一緒になるたびによく話しかけてくれていた子は卒園して、今日、ランドセルを背負って着飾ったお母さんと一緒に歩いていく姿を目撃した。息子が通っていた教室には、ふにゃふにゃの0歳児たちが入園して、ぎゃーすか泣いているのが聞こえてくる。ピカピカのランドセル。場所が変わった教室。新しく入園した子。空の抱っこ紐を腰につけたまま、不安げに園を後にするママ。つい昨年は、私が、あのママだった。大きな流れに組み込まれて、私も、息子も、あのママも、あの子も、螺旋階段をのぼっていくのと同じように、一歩ずつ、一歩ずつ、前へ進む。永遠に続くように思える景色も、同じことの繰り返しに思える景色も、一歩進めばもう、戻ってこない。

息子は、足も速くなった。きゃははと弾ける声を振りまいてバスを追いかける息子の後を、「待って、待って」と、一緒に走る。仕事を抱きしめ、暮らしを抱きしめ、きみを抱きしめ、必死で走る。きみが、なんにも心配せずにどんどん前へ進んでいけるように、ママも、日々を必死に走るよ。

正直、目が回るほど忙しくて、季節が過ぎるのははやすぎて、「サクラ」と見上げた木々はもうすっかり緑で、地面に積もった花びらも、どこかへ去った。繰り返される景色の中で、どんどん変わっていく息子を追いかけて、私もどこまで変われるだろう。置いて行かれないように、一緒に走るね。だからきみは。振り返らずに、どこまでも走ってね。

関連書籍

夏生さえり『揺れる心の真ん中で』

不安な夜も、孤独な朝も。 愛を信じられるようになりたい――。 【“あの日”の自分を思い出して涙が止まらない(28歳女性)】 【最後の言葉に救われました(19歳女性)】 SNSフォロワー22万人超! 恋愛ツイート等で若い女性たちの共感を集める 夏生さえりさん、2年ぶり待望のエッセイ集! WEBマガジン「幻冬舎plus」大人気連載書籍化。

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夏生さえり

山口県生まれ。フリーライター。大学卒業後、出版社に入社。その後はWeb編集者として勤務し、2016年4月に独立。Twitterの恋愛妄想ツイートが話題となり、フォロワー数は合計15万人を突破(月間閲覧数1500万回以上)。難しいことをやわらかくすること、人の心の動きを描きだすこと、何気ない日常にストーリーを生み出すことが得意。好きなものは、雨とやわらかい言葉とあたたかな紅茶。著書に『今日は、自分を甘やかす』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『口説き文句は決めている』(クラーケン)、共著に『今年の春は、とびきり素敵な春にするってさっき決めた』(PHP研究所)がある。Twitter @N908Sa

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