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[メンタルモンスター]になる。

2023.01.15 公開 ツイート

香川真司と過ごした沖縄の旅。勝利と敗北の決定的な違い 長友佑都

2022年カタールW杯でベスト16を果たしたサッカー日本代表。その支柱として活躍した長友佑都氏の著書『[メンタルモンスター]になる。』は、日本サッカー史上初めてとなる4大会連続でのW杯出場など数々の偉業達成してきた長友氏が激動のサッカー人生を振り返る、集大成の一冊です。一部を抜粋してお届けします。

*   *   *

縮こまった胸を思いっきり張ろう

あのとき、この戦いをともにしたチームメイトたちに伝えたいことがあった。

僕だけでなく、この日までの日本代表は、監督、チームメイトにとっても苦しいものだった。とにかく批判された。大会前のテストマッチでのふがいない成績と、3カ月前に起きた前(バヒド・)ハリルホジッチ監督の解任。

ベテランが多く選出されたメンバー構成は「おっさんジャパン」と言われ、32歳を迎えていた僕はその中心にいた。

きっと、多くの選手の胸は「縮こまって」いた。

誰も口に出さなかったけれど、結果を出して見返すしかない、とみんなが思っていた。

2大会ぶりのグループリーグ突破という結果、そして力の差を見せつけられた「劇的な敗戦」。それがどう評価されるのか ――。賞賛か、はたまた批判か、まったく見当もつかなかったけれど、そんなことは気にならないくらい「やれることはすべてやった」と言い切れる自分がいた。

それはチームメイトがいたからで、みんなの力だった。

だから伝えたかった。

「縮こまった胸を思いっきり張って日本に帰ろう」

(写真:iStock.com/allanswart)

真司とのつまらないバカンス

このロシア大会で、鮮明に記憶しているシーンがある。

初戦のコロンビアを2対1で破り、次戦のセネガルに2対2の引き分け。グループリーグ突破のかかった3戦目はポーランドに0対1で敗れたものの、ライバルのセネガルがコロンビアに敗れ、僕たちはベスト16入りを果たした。

初のベスト8進出をかけたベルギー戦の結果は前述した通りだ。

「あの沖縄旅行、つまらなかったな」

ロストフのホテルに戻り、ジャグジーのある風呂へと向かった僕と(香川)真司は、4年前のことを思い出していた。

 

2014年7月。僕と真司はシーズンオフのバカンスに出た。場所は、沖縄。

当時、セリエAでプレーをしていた僕にとって、日本を満喫できるのはこの7月とウインターブレイクがある年末年始くらいだ。真司の場合、プレミアリーグのマンチェスター・ユナイテッドでプレーしていたから、夏だけになる。

シーズンの疲れを癒し、翌シーズンに向けた心身の調整を図る。日々の激しい戦いから解放される数少ないタイミング。

毎年、この時間を楽しみにしていた。

なのに――この夏の沖縄は何ひとつ心が躍らなかった。それは、沖縄のせいではない。直前に終わったブラジルワールドカップの失意が心の中に沈殿していたからだ。

ブラジルワールドカップ、グループリーグ最後の試合はコロンビアだった。初戦のコートジボワールに敗れ、ギリシャに引き分け。

この第3試合に勝てば、わずかではあるが、グループリーグ突破の可能性があった。何より、自分たちのサッカーを見せなければ。このままでは終われない。俺たちは、こんなもんなのか――。

僕たちのチームには、マンチェスター・ユナイテッド、ACミラン、インテル、名だたるビッグクラブに所属する選手と、ブンデスリーガで2年連続二けた得点を記録したストライカーがいる。

「優勝を目指す」と豪語していた。

過信だったのか――。

コロンビア戦の試合終了のホイッスル。それは、僕たちのワールドカップの終了を告げていた。思わずピッチに座り込んだ僕は、身動きが取れなかった。

コロンビア代表でインテルのチームメイトであるフレディ・グアリンが、しのぎを削りあったフィオレンティーナのストライカー、フアン・クアドラードが、僕を抱え込むようにして声を掛けてきた。

1対4。惨敗。

残酷とは、こういうときに使う言葉なのだろう、と思った。

いま思えば、それは何より自分たちの実力であり、責任であったわけだけど。

(写真:iStock.com/mm)

「あのときは、つまんなかったなー」

真司が笑った。

「コートジボワール戦の後も話したな」

ロシア大会の初戦を終えたときの言葉だ。2014年は負けた。今回は勝った。それも、あの惨敗を喫したコロンビアに。

ブラジル大会のコロンビア戦はPKで先制された。クアドラードがゴールのど真ん中にグラウンダーで決めた。今回の先制は僕たちのPKだった。真司はそれと同じように、ゴールど真ん中に、グラウンダーで決めた。

「全然、違うな。勝つのは」

まだ、何も決まったわけではなかったけど、ひとつ先に進めた感覚があった。そして4年前ずっと一緒にいて苦しみを胸に抱き続けた真司との「この時間」は、忘れられないロシアのハイライトのひとつだった。

関連書籍

長友佑都『[メンタルモンスター]になる。』

日本サッカー史上初めて4大会連続ワールドカップ出場を目指す、長友佑都。2010年南アフリカ、2014年ブラジル、2018年ロシア、そして2022年カタールと12年間にわたり、日本代表のレギュラーとして戦い続けてきた著者だからこそ語れる、予選・本戦を含めた苦闘の歴史と舞台裏。さらに、35歳でトップレベルを維持し続けている秘訣、批判を肥やしにしてエネルギーに変える、著者ならではのメンタルコントロール術など、激動のサッカー人生を振り返る、集大成の一冊!

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[メンタルモンスター]になる。

日本史上初めて、4大会連続W杯出場を果たした著者が激動のサッカー人生を振り返る、集大成! 『[メンタルモンスター]になる。』の情報をお届けします。

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長友佑都

1986年愛媛県生まれ。Jリーグ・FC東京所属。サッカー日本代表として4度のワールドカップに出場、史上初の4度目出場を目指す、鉄人サイドバック

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