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[メンタルモンスター]になる。

2023.01.18 公開 ツイート

「歳を重ねると能力が落ちる」は思い込み。長友佑都の老いを力に変える方法とは? 長友佑都

2022年カタールW杯でベスト16を果たしたサッカー日本代表。その支柱として活躍した長友佑都氏の著書『[メンタルモンスター]になる。』は、日本サッカー史上初めてとなる4大会連続でのW杯出場など数々の偉業達成してきた長友氏が激動のサッカー人生を振り返る、集大成の一冊です。一部を抜粋してお届けします。

*   *   *

歳を重ねて失ったものと得たもの

でも、本当に全然違った、と思う。

例えば、このとき僕と真司は、ブラジル大会のときとはまったく違う環境にいた。

僕が所属するのはガラタサライ。トルコの名門としてその名を馳せていたが、かつて所属したインテルに比べれば、注目度は低かった。真司はブンデスリーガの名門、ドルトムントへと戻っていたけれど、なかなか思ったような結果を出せずにいた。

お互いキャリアもベテランの域に達していた。

このときの代表を指した「おっさんジャパン」は「おっさん」をネガティブに表現したものだろう。なんだか、未来がないものだ、と言わんばかりに。

確かに、クラブやデータを見れば、徐々に落ちていく何かはあったと思う。

実際、プレーをしていてそれを感じることもあった。

一番は、リカバリー能力だ。同じスピードで走れ、と言われれば36歳になった今でも走れる自信がある。でも、それを何度も繰り返すと、プレーの質が落ちる感覚があった。

疲労がたまりやすくなったり、試合中でも、1回のスプリントをした後は、若い頃より筋肉や脈が戻ってくる速度が遅い。

アスリートは自分の身体と常に向き合っているから、そうした細かい、小さな変化に敏感になる。

そしてつい「体力が衰えた」と考え始める。

いつかは来るアスリートとしての引退。それは、きっとこの「衰えた」という認識からスタートすると思っている。

では、「衰えた」と認識しなければどうだろう。ロシア大会の後に感じた、「また戻ってくる」という、湧き上がるような熱い感情。「衰え」というネガティブな感情ではなく、ポジティブな感情に、本当は自分の中に強く存在する思いに従ってみたら、未来は開けるのではないだろうか。

湧き上がる感情に従って前を向く。

そんな経験を何度も繰り返しているうちに、「歳を重ねるとパフォーマンスが落ちる」という世の中の常識に支配されて努力をやめてしまうことこそが、一番もったいない、と感じるようになった。

常識的な思考が選手の成長を止めてしまうのだ、と。

確かにベテランになればなるほど ―― 例えば先のスプリントを繰り返すことのように――できないことは増えてくる。だけど、それ以上にできることもまた増えている。

(写真:iStock.com/Drazen Zigic)

かつてはただがむしゃらに走ることで止められた相手を、無駄な力を省き、頭を使いながら効果的に止めることができるようになった。

何より、メンタリティが飛躍的に向上した。

目の前で起きている出来事の見え方、捉え方、考え方。そうしたものをメタ認知して、いろいろな角度からアプローチできるようになった。

きっとこれからも、歳を重ねるごとに僕は成長する。

その自信がある。

僕の人生を変えたワールドカップ

これまで3度のワールドカップを経験した。

日本代表として出場した試合数は11回。ハセさん、永嗣さんに並んで最多らしい。

その3度のワールドカップは、毎回、確実に、僕の人生を変えた。

1度目の南アフリカワールドカップは23歳のとき。右も左もわからない中で、ただがむしゃらにプレーをした。

ずっと背中を追いかけた大先輩・中村俊輔さんに、わからないことがあれば何でも聞いた。自分が下手くそであることを自覚していたから、できるだけ多くのことを吸収したかった。

サミュエル・エトー、ウェズレイ・スナイデル……のちにチームメイトになる、当時すでに世界のトップで戦っていた選手たちとの対戦で「もしかしたらできるかもしれない」「負ける気がしない」、そんな感覚を抱いた。もちろん、そんな簡単なことではなかったのだけど、若い僕に初めて自信を植え付けてくれた時間だった。

それを評価してくれたのが、セリエAのチェゼーナだった。僕は初めて、海外へ移籍することになる。ワールドカップが世界を教えてくれ、世界への扉を開いてくれたわけだ。

2度目、3度目のワールドカップはすでに触れている通り。

ブラジル大会はこれまでで一番、大きな自信を持って臨んだ大会だった。それが単なる過信だったことを知ってサッカーをするのも嫌になった。このときはわからなかったけれど、あの試練を乗り越えたからこそ今がある。

ロシア大会で湧き上がった新たな感情。あの年齢で再び、自分の中に火が付くなんて思ってもみなかった。

あのピッチに立つたびに知らない自分が現れ、「お前はこの試練を乗り越えられるのか?」と問いかけられる感覚。そして、乗り越えれば確実に成長した自分を与えてくれる。

いつからか、こう思うようになった。

「成功は約束されていないけど、成長は約束されている」

(写真:iStock.com/Ruslanshug)

ワールドカップで勝てるかどうか、成功を手にできるかどうかは誰にもわからない。勝負の世界、厳しい戦い、トップオブトップスの意地のぶつかり合い。誰もが、ここを目指して努力してきたのだから、誰が勝っても勝者にふさわしい存在である。

だから、いくら考え、悩み、汗をかき、心身をいじめ抜いても「成功する」とは限らない。報われない可能性のほうが高いくらいだ。

でも、その試練に対して向き合うことさえできれば、必ず「成長」は手にできる。考え、悩み、汗をかき、心身をいじめ抜いた経験は、必ずその人を成長させてくれる。

だから、ワールドカップを目指すことをやめられない。

そして今、僕は4度目のワールドカップに向かって走り続けている。

それはとても幸せなことだ。

関連書籍

長友佑都『[メンタルモンスター]になる。』

日本サッカー史上初めて4大会連続ワールドカップ出場を目指す、長友佑都。2010年南アフリカ、2014年ブラジル、2018年ロシア、そして2022年カタールと12年間にわたり、日本代表のレギュラーとして戦い続けてきた著者だからこそ語れる、予選・本戦を含めた苦闘の歴史と舞台裏。さらに、35歳でトップレベルを維持し続けている秘訣、批判を肥やしにしてエネルギーに変える、著者ならではのメンタルコントロール術など、激動のサッカー人生を振り返る、集大成の一冊!

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[メンタルモンスター]になる。

日本史上初めて、4大会連続W杯出場を果たした著者が激動のサッカー人生を振り返る、集大成! 『[メンタルモンスター]になる。』の情報をお届けします。

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長友佑都

1986年愛媛県生まれ。Jリーグ・FC東京所属。サッカー日本代表として4度のワールドカップに出場、史上初の4度目出場を目指す、鉄人サイドバック

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