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宗教と日本人

2022.11.20 公開 ポスト

「パワースポット」8割は神社 自治体による観光利用が政教分離に反さない理屈岡本亮輔

世界屈指の「無宗教の国」とされる日本。しかし初詣は神社に行き、結婚式は教会で、葬式は仏式で、というのは一般的です。日本人にとって宗教とはどのようなものなのでしょうか。伝統宗教から新宗教、パワースポットや事故物件、縄文などの古代宗教。さまざまな観点から日本人と宗教の不思議な関わりを解き明かす『宗教と日本人』(中公新書)より、一部を抜粋してお届けします。

「パワースポット」の中で圧倒的に多いのが神社

パワースポットという和製英語が当たり前のように使われて久しい。2010年の朝日新聞では、スピリチュアル・カウンセラーの江原啓之や手相芸人の島田秀平が広めた概念で、「全国に点在し、富士山(山梨・静岡)や屋久島(鹿児島)などの「自然系」、明治神宮(東京)や厳島神社(広島)などの「宗教系」が多い」と説明れている(徳島県版9月9日朝刊「パワースポット、花盛り? 自治体も便乗、マナー違反に苦言も」)。

聖地という言葉がエルサレムやメッカのような本格的な信仰の場を想起させるのに対し、上の記事でも宗教系とは別に自然系という区分が立てられているように、パワースポットは宗教よりも裾野が広い印象を与える。そこに行けば何か良いことがありそうで、活力をもらえるかもしれないといったところだろう。

(写真:iStock.com/y-studio)

パワースポットめぐりという形での寺社訪問は、日本社会にすっかり定着している。その宗教学的な意味やパワースポットが作られるメカニズムについては拙著『聖地巡礼──世界遺産からアニメの舞台まで』を参照して欲しいが、本章でまず注目したいのは、パワースポットとされる場所だ。有名寺社からありふれた峠や岬まで、様々な場所がパワースポットと呼ばれるが、数として圧倒的に多いのは神社である。

 

20代女性をメインターゲットにする情報誌『Hanako』では、2009年頃から年末発売号で、毎年、聖地や寺社参拝の特集が組まれている。2018年1月11・25日合併号では、23都道府県の100近くの寺社が取り上げられているが、内訳は、神社が72に対し、寺は17である。

また、神社仏閣へのバスツアーを提供する「四季の旅」のウェブサイトには、同社のツアーで行けるパワースポットの一覧が掲載されている。五十音順に200以上の場所が挙げられているが、そのうち約170が神社である(2020年8月時点)。いずれにおいても、パワースポットの約8割が神社なのである。

8割という数字に深い意味はないが、寺よりも神社の方がパワースポット化しやすい現実があるようだ。当然ながら、右の雑誌や旅行会社は、神道の布教宣伝を目的としていない。スイーツ特集やトレッキングツアーと同じような感覚で神社を取り上げているのだ。

 

前章で見たように、寺院は、基本的には家という閉じられたコミュニティを支持基盤とする。それに対して神社は、鎮守の森のような形で、より広範な地域コミュニティの核としてイメージされ、時にそれが日本全体に拡張される。

たとえばインスタグラムをハッシュタグ「心のふるさと」で検索すると、寺よりも圧倒的に神社が多く表示される。伊勢神宮の公式アカウントでは、どの写真にも「心のふるさと」や「SOUL_of _JAPAN」というハッシュタグが添えられている。

観光資源としての神社 「政教連携」は「政教分離」に反さない?

こうした動向の中で注目したいのが「政教連携」なる概念である。2017年7月に開催された「インバウンド・ジャパン2017」(日経BP社主催)のパネルディスカッション「神社仏閣インバウンドの未来~伊勢市モデルの可能性」で出た言葉である。神社をいかに観光化するかという趣旨の公開討議で、伊勢市役所や神社本庁の担当者が登壇した。

パネリストの間で意見が一致したのは、地域にある神社仏閣がそれぞれ持っている物語性こそが最大の観光資源であり、その魅力を発信するために自治体と宗教法人が連携する「政教連携」の重要性だ。パネリストとして登壇した伊勢市役所産業観光部の須崎充博氏が「市町村などの自治体は政教分離の原則を過度に恐れず、観光客の目線で必要なことは何かを考えて取り組むべき」と語れば、神社本庁教化広報部広報国際課の岩橋克二氏も「夏祭りや初詣でなど、多くの日本人にとって神社は宗教というよりも、精神に結び付いた伝統文化の場だ」として、伝統文化を伝えるという趣旨での「政教連携」が必要だと同調した。(日本経済新聞電子版2017年7月25日「「政教連携恐れず」、伊勢市や神社本庁が観光で議論」)

「物語性」という言葉が用いられているが、要するに、寺社の由緒・伝承・ご利益などを観光資源として利用するということだろう。そして具体的な政教連携として、たとえばユーチューブへの動画投稿があるという。「伊勢神宮の協力で素材提供を受け、伊勢市が構成・編集したうえで「伊勢神宮公式チャンネル」を設けて」動画が投稿されるのだ。さらに海外への情報発信でも、神社本庁と伊勢市は協力しており、かなり踏み込んだ関係と言えよう。

パネルに登壇した神社本庁職員によれば、「政教分離の観点から大丈夫なのか、という懸念もたくさんもらった」という。それにもかかわらず、なぜ「自治体は政教分離の原則を過度に恐れ」る必要はないのだろうか。

記事によれば、神社本庁が海外で説明する際には「religion(宗教)」ではなく「Japanese faith(日本人の祈り・信仰)」という表現を用い、夏祭り・七五三・初詣などは「宗教である以前に、日本人の精神的な伝統文化」だと説明する。つまり、神道は日本人にとってあまりに根源的であり、宗教の枠内に収まりきらないものだというのである。

(写真:iStock.com/olli0815)

こうした語りは、神社非宗教論と呼ばれるものと通底する。第1章でも紹介した神社本庁ウェブサイトの「神道への誘い」の末尾は、次のようになっている。

神道は、日本の民族宗教といわれ、日本人の暮らしにとけ込んでいます。たとえば、初詣や厄除、初宮参りや七五三、結婚式や地鎮祭など、神道の行事は日常生活のいたるところに見かけることができます。しかし、一般の日本人は、あまりにも身近なせいか、神道について知らないことが多いのも事実でしょう。

神道は日本人として生きることと不可分であり、したがって宗教として特段に意識されることもなく、日本社会の隅々まで浸透しているというのだ。あえて自らの曖昧さを明言することで、神道は特定宗教を超えるものであり、神社は日本人全てのための場所であるという理屈を導いているのである。

*   *   *

この続きは中公新書『宗教と日本人』をご覧ください。

岡本亮輔『宗教と日本人 葬式仏教からスピリチュアル文化まで』

信仰を持たない人が大半を占める日本人。しかし他方で、仏教や神道、キリスト教などの行事とは縁が深い。こうした日本の不可思議な状況をどう見ればいいのだろうか。本書は、新宗教の退潮や、現代の葬式や神社、そしてスピリチュアル文化などを位置づける。日本の宗教の現在地と今後を示す試み。

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世界屈指の「無宗教の国」とされる日本。しかし初詣は神社に行き、結婚式は教会で、葬式は仏式で、というのは一般的です。日本人にとって宗教とはどのようなものなのでしょうか。伝統宗教から新宗教、パワースポットや事故物件、縄文などの古代宗教。さまざまな観点から日本人と宗教の不思議な関わりを解き明かす『宗教と日本人』(中公新書)より、一部を抜粋してお届けします。

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岡本亮輔

1979年、東京生まれ。北海道大学准教授。筑波大学大学院人文社会科学研究科修了。博士(文学)。専攻は宗教学、観光学。著書『聖地と祈りの宗教社会学』(春風社、2012年、日本宗教学会賞受賞)、『聖地巡礼』(中公新書、2015年、英訳『Pilgrimages in the Secular Age』〔JPIC〕)、『江戸東京の聖地を歩く』(ちくま新書、2017年)。共編著『宗教と社会のフロンティア』(勁草書房、2012年)、『フィールドから読み解く観光文化学』(ミネルヴァ書房、2019年、観光学術学会教育・啓蒙著作賞)、『いま私たちをつなぐもの』(弘文堂、2021年)。

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