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いやあ、今年の夏は暑いですねえ。
今撮影中のドラマのロケで、先日水戸に行って来たんですが、その日は40℃まで気温が上がって、おまけに撮影場所の冷房が壊れてて、久しぶりに自分の汗に溺れそうになりました。
17回目のこんにちは! 山野海です。

最近まで立て続けに舞台をやっていて、それと並行してドラマの撮影や執筆の仕事もあり、ずっと忙しくしていましたが、やっと少しだけ落ち着いて休めると思っていた矢先。今住んでいる所が取り壊すことになりまして、急遽引っ越しをする事に。
なので現在は引っ越し準備とドラマと執筆の仕事を並行してやっているわけで。
一体いつになったらゆっくり休めるのでしょう。

 

でも、仕事大好き人間の私に仕事がなくなったら、おそらく廃人と化すると思われ、結局、少しは休みたいと思いながら、ずっとこの忙しさが続くことを願っているのです。

仕事のない苦しさは、子役から成長期に入り、大人になるまで嫌と言うほど味わって来たので、恐怖すら感じています。
だから今、途切れず仕事があることに、心から感謝をしています。

 

前にも書きましたが、私は中学一年生の時に生まれ育った新橋を離れ、祖母と二人で茨城県の牛久という町で暮らしはじめることに。
牛久に引っ越す際に、それまで所属していた劇団若草を辞め、この時期、芸能の世界とは遠ざかっていました。
祖母との不仲もあり、子供の頃から大好きだった役者の仕事も辞め、正にあの頃の私は廃人状態だったのではと、今考えても恐ろしくなります。
ま、そんな事書きながら、牛久で仲良しのお友達も出来たし、何ならちゃっかり初恋まで経験したんですから、根っからの大雑把な性格がこの時は大変役に立ちました。

とは言え、4歳から子役として舞台に立っていた私は芝居をしていない事が本当に苦しく、どうにかしてまた役者に戻りたいと思っていました。
けれど田舎に住む中学生に打てる手などなく。

そんな悶々とした日々の中、ある日、東京で一人働いている母から電話がありました。
新国劇が舞台をやるから、一緒に観に行かないかと。
二つ返事で喜び勇んで、母と一緒に新国劇の舞台に行きました。
久しぶりに観る辰巳柳太郎という大俳優は、震えるほど素晴らしく、私はこの時深く心に決めました。
中学を卒業したら辰巳先生の弟子になるんだと。
もう一度板の上で、この大俳優と共演したいと。
すぐに母にその事を言いましたが、やはりというか当然というか渋い顔。
せめて高校だけは出てほしいと言われ、当時中学3年生だった私は、親にそう反対されるとなす術もなくガックリ肩を落とし、上野から常磐線に乗って、祖母の待つ牛久に帰りました。
けれど、それから何日過ぎても、辰巳先生の弟子になりたいという想いが消えず、むしろその想いはどんどん熱を帯び、私の頭の中を駆け巡っていました。

(写真:iStock.com/Masaaki Ohashi)

ある日、私は意を決して祖母光子にその想いを伝えました。
当然、むちゃくちゃ反対される事を覚悟の上で。

けれど祖母は大賛成してくれたのです。
「他の誰でもない辰巳柳太郎さんの弟子になら、まず間違いない。お婆ちゃんがあんたのママを説得もしてやるし、辰巳先生のところにも、一緒に頼みに行ってやる。役者として生まれてきて、舞台に立てないのがどれほど辛いかは私が一番よく知ってる」と。

そう。当時の祖母の屈託の大半を占めていたのは、若くして女優を辞めたことだったのです。
祖母光子が女優を辞めたのは、自身が28歳の時。
ちょうど私の母が産まれた頃でした。

どうして祖母が女優を辞めたのか、本人のその時の本当の気持ちは今となっては分かりませんが、でもきっと、ずっと後悔していたんでしょう。

 

あんなに毎日いがみあっていたのに、やっぱり血の繋がった祖母と孫。
根っこの部分では私の女優としての気持ちをちゃんと分かっていてくれていたのです。

それから祖母は、言葉の通り母を説得してくれて、辰巳先生のお宅に伺う段取りまでつけてくれました。

 

続く。

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山野海の渡世日記

4歳(1969年)から子役としてデビュー後、バイプレーヤーとして生き延びてきた山野海。70年代からの熱き舞台カルチャーを幼心にも全身で受けてきた軌跡と、現在とを綴る。月2回更新。

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山野海 女優、劇作家、脚本家

1965年生まれ。東京新橋で生まれ育ち、映画女優の祖母の勧めで児童劇団に入り、4歳から子役として活動。19歳で小劇場の世界へ。1999年、劇団ふくふくやを立ち上げ、全公演に出演。作家「竹田新」としてふくふくや全作品の脚本を手がける。好評の書き下ろし脚本『最高のおもてなし!』『向こうの果て』は小説としても書籍化(ともに幻冬舎)。

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