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キリ番踏んだら私のターン

2022.08.10 更新 ツイート

あんたが持ってるパーツは、そのジオラマ用のやつじゃない 長井短

どのくらいの方がこの連載を読んでくれているかわかりませんが、たぶん一人はいるはずなので、この場を借りてまず言わせてください。

先月はすいませんでした!!!

「キリ踏ん」始まって以来初の休載……あぁ情けない……何をしていたかというと、演劇やったり小説書いたりしてました……そしてハンドル操作ができなくなってしまいました……期待と願望を込めて設定した自分のキャパ、ゆうに超えたわ。みんなも気をつけてくれよな! 成功体験続くと急に落ちるぞ!!

 

そんなわけで申し訳ない気持ちでいっぱいなんですが、それとは裏腹に、私の魂のコンディションは最近鰻登りなわけです。凄く調子がいい。機嫌がいい。自転車を漕いでる時とか、洗濯物を干してる時、そういうなんてことない瞬間に「幸せだな」と思うことが増えた。別に何かが叶ったわけじゃない。ただ漠然と「自分の人生が好きだ」と感じるようになったのだ。

こんな風にいうと、宝くじでも当たったか? って思うかもだけど、本当に特別なことは起きてないの。「もっと仕事が増えても良いのにな」とか「もっと読んでほしいのにな」みたいな拗ねは全然毎日思う。だけどそれも含めて私は、今この地点にいる私のことを気に入っているのだ。

もちろん、羨ましいことは沢山ある。あの人を見たりこの人を見たりして、私の身体は羨ましさにむずむずするし、自分のダメさに落ち込む。

だけど、以前ならその羨ましさの中にもっと苦しさがあった。妬みが私を乗っ取って、きちんと相手を見つめることができなくなること、ほんとめちゃくちゃあったのだ。いつからだろう。どうして私、大きな声で「羨ましい」って言えるようになったんだろう。理由は簡単、幸せだからだろって言う人は、きっと沢山いるはずで、それは私も思う。だけど、幸せって、じゃあ幸せって……何~?!?!

このワンピースはママのお下がりなんだけど、こんなミニ穿いてたんだママ。やるじゃん。立っていると重力で細く見えますが、かなりしっかりとした太ももを持っています。

多くを持っている人は周りに沢山いる。私より仕事があったり、お金があったり、家族が増えてたり、なんか色々。だけどじゃあ、その人たちが必ずしも幸せそうかっていうとそうでもなくて、幸せを形作るパーツはいっぱい持ってるのに、なんか全然組み立てが上手くいっていない人もいる。何故だろう。満ちているのに乾いている人は、心で何が起きているんだろう。

思い返すと、私にもそういう時があった。仕事を始めたばかりの頃、嘘みたいに軌道に乗れた私は側から見たらきっと順風満帆だっただろう。それなりにモテたし、それなりに友達もいたし。だけど心は超カサカサで、あの頃私は自分を全然気に入ってなかった。不幸だったわけじゃない。ただ、とにかく今に、自分に、全然納得できなかったのだ。今ならそれが、何故なのかわかる。私の幸せのパーツは、組み立てるとスペースマウンテンになるディアゴスティーニなのに、そのパーツでシンデレラ城を作ろうとしてたんですね~! 上手くいくわけねー!!! そんなもん一生完成しないよ!

幸せって言葉は、みんな知っている。だけどその形は、全然人によって違う。同じ形の人なんていない。これってめちゃくちゃ当たり前のことだけど、私たちは、誰かの完成間近のジオラマを見て、あれを作れば良いんだと考えがちだ。そんなはずないのに。ていうかできっこないのに。そもそもあんたが持ってるパーツは、そのジオラマ用のやつじゃないんだよ! って、過去の私に言ってあげたい。足りないパーツを、お金とか、人気とか、そういうもので必死に補完しようと躍起になるけど、どれだけこねくり回したってそれらはパーツにならないし、残った手垢は空虚だった。

自分のジオラマが何かわかったのは、散々人の真似をしたあとだった。あの子みたいにクラブで遊んだり、あいつみたいに大人しくしてみたり、あの人みたいに背伸びしたりもした。それは、無駄ってわけじゃなかったなって思う。おかげで私は、私に似合わないものを知れたから。ガンガンガンガン心にまとわりついた他人の生き方、不必要な羨ましさをぶち壊していくことで、私はだんだん自分を知って、そうしてたぶん、納得したんだと思う。

できることと、できないことがある。変えられることと、変えられないことがある。それは凄くしんどい時もある。だけど、分からないまま人の幸せを追いかけることと比べたら、こっちの方がマシだと思う。だって、納得できるから。

良いことが起きても、悪いことが起きても、そのパーツがないとジオラマは完成しないと考えれば、積み重ねるほかない。捨てたら完成しないんだから。で、そうなると、どんな嫌なことでもそこに置く瞬間は、納得して置きたいと思うのだ。必要なことだと、納得した上で組み立てたい。

起きた事象は変えられないけど、私の認識は変えられる。感受性だけは、私の手綱。これは、本心に嘘をつくこととは違う。嫌なことを、嫌なことのまま放置しないだけだ。私たち、コロッケ食べてコロッケのまま排出しないじゃん? うんちにするじゃん? それと同じで、納得は消化なのだ。それができるようになると、もう、自己肯定感とか、承認欲求とか、いらなくなる。自分の評価も他人の評価も正直なんでもよくて、自分と向き合うことで忙しい。私は、その時間が好きだ。

今でももちろん、消化がうまくいかなくて変な風になることはある。そういう時はお粥を食べるみたいに、安心できる友達に会えばいい。調子が整ったらもう一度、自分の気持ちを考える。繰り返すうちにきっと、納得に辿り着く。私は今幸せで、でもそれは、ジオラマが完成したからじゃない。何を作れば良いかがわかったからだ。羨ましいことは沢山あるけど、自分の幸せは他所にはないから。あなたに毎週、ディアゴスティーニが届きますように。

三年前くらいに買ったフィルムカメラ、故障で風景モード縛りになったせいで全然撮りきれないまま随分時間が経った。これがどこの何か、なんで撮ったか、全く思い出せない。つっても96年は嘘だろ。

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キリ番踏んだら私のターン

相手にとって都合よく「大人」にされたり「子供」にされたりする、平成生まれでビミョーなお年頃のリアルを描くエッセイ。「ゆとり世代扱いづらい」って思っている年上世代も、「おばさん何言ってんの?」って世代も、刮目して読んでくれ!

※「キリ番」とは「キリのいい番号」のこと。ホームページの訪問者数をカウントする数が「1000」や「2222」など、キリのいい数字になった人はなにかコメントをするなどリアクションをしなければならないことが多かった(ex.「キリ番踏み逃げ禁止」)。いにしえのインターネット儀式が2000年くらいにはあったのである。

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長井短

1993年9月27日生まれ、A型、東京都出身。

ニート、モデル、女優。

恋愛コラムメディア「AM」にて「長井短の内緒にしといて」を連載中。

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