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先日、フジテレビ取材班が第64次南極地域観測隊に同行することが発表された。同局でお天気アナウンサーを務めるガチャピンも取材班の一員として南極に上陸するという。

ガチャピン本人は「どーも。ガチャガチャピンピン、ガチャピンです。なんと! ぼく、南極大陸に上陸することが決定しました! はじめての上陸にドキドキワクワクです。」と、ご機嫌なコメントを出している。

 

 

このニュースを聞いて、私はしばし固まってしまった。

そのときちょうど南極を舞台にした小説を書いているところだった。そういえば先日、角川春樹事務所で角川社長とお会いして、南極で麻雀をした話を聞いたばかりだ。角川社長は南極で映画を作っていたことがある。滞在中、しばしば船上で麻雀をしていた。対戦相手が国士無双という大きな手を張っている様子だったのだが、船が氷床にぶつかった衝撃で、山が崩れ、ノーゲームになったそうだ。「国士無双はこうやって潰すんだ」と角川社長ははにかんだ。さすが角川春樹、麻雀の戦術スケールからして違う……。つい、角川春樹伝説を挟んでしまった。何の話か分からなくなってきたが、ガチャピンが南極に行く話である。

 

色々なところで話しているが、私はガチャピンが好きだ。というか尊敬していて、心の中では「ガチャピン先輩」と呼んでいる。

 

ガチャピンをはじめて意識したのは、中学生のときだ。同じクラスの男の子から「お前、ガチャピンに似てるな」とからかわれた。言われてみれば、確かにちょっと似ている。丸い目と重いまぶたが特に似ているし、当時の私は今よりもさらに出っ歯で、前歯が飛び出しているところも似ていた。そのときからガチャピンに親近感を抱くようになり、無意識にガチャピングッズを目で追うようになる。

ガチャピン熱が再燃したのは、2018年、ガチャピンのYouTubeチャンネルが開設されたときだ。長年出演していたポンキッキーズが終了し、進退を心配する声もあがるなか、UUUM社と協業して、公式YouTubeチャンネル「ガチャピンちゃんねる【公式】」を開設したのだ。

「やってみた」系の定番YouTubeネタを押さえつつ、ムックとのほっこりストーリーや、お得意の歌やダンス動画も多数上がっている。

 

ガチャピンがYouTubeを更新しはじめた時期は、ちょうど、私が小説を書き、新人賞への投稿生活を始めた時期と重なる。自分なりに試行錯誤をしていた頃だ。

新人賞への投稿結果は振るわなかった。実は私は、『このミステリーがすごい!』大賞を受賞するまで、一度も一次選考すら通ったことがなかった。新人賞投稿者界隈では、「オレ、〇次まで行った」と戦績でマウントを取ってくる人もいる。創作関係の書籍では「最低限、他人が読める内容になっているなら一次選考は通るはず」などと書かれている。なぜ自作が一次選考も通らないのかと悩んだし、凹んだ。自分なりにどんどん上達している実感はあったので、そのうち結果は出ると思っていた。だが心が折れそうになることがある。

 

あるとき、小説教室の宴会で元編集者の方とお話した。小説教室のテキストには私の小説が掲載されている。元編集者の方はテキストを持っていたし、一部の作品には目を通しているようだった。「機会があったら私の作品も読んでもらえると嬉しいです」と伝えると、「僕は江戸川乱歩賞の最終選考に残ったレベルの人しか相手しないよ」と言われた。「僕は君の作品を読まないし、今後も読むことはない。作品を読んでいない人と話すことはない」と。私も思わず、「それじゃ、もう話すことないですね」と返した。その後は、その人が過去に担当した作家の誰々はアソコが大きかったなどという下ネタを語られた。

私は宴会を抜けて、トイレでこっそり泣いた。

作品を読んで酷評されるのならいい。作品を読まれていないのもいい。だが、君の作品を今後も読むことはないと業界の人から宣言されたのはショックだった。

家に帰ってからガチャピンのYouTubeを見た。動画の中でガチャピンは語る。「努力とは、未来をみすえて今を生きること」。その言葉が胸に刺さった。

 

ガ、ガチャピン先輩……! 運動神経が抜群で、スキージャンプもスキューバダイビングもできる。フリークライミング、ジェットスキー、スノーボード、カンフー、空手、フィギュアスケートなど、これまで30種目近くのスポーツに挑み、いずれもプロ級の腕前を見せつけてきた。富士山に登ってみたら案外楽勝だったから、ヒマラヤ山脈にも登ったというツワモノである。当然ながらダンスも上手だ。さらに歌もめちゃくちゃうまい。声が可愛いだけでなく、音程もリズム感もばっちりなのだ(皆さん、YouTube「ガチャピンチャンネル【公式】」で是非確かめて欲しい)。こんなにすごいガチャピン先輩も、つらく思うことがあるのだろうか。ポンキッキーズ終了からYouTuberへの転身、日々のYouTube撮影、大変なことはたくさんあるだろう。ガチャピンも努力しているんだなと思うと、心を強く持てた。

 

幸運なことに、私の投稿生活は二年ほどで終わった。デビュー後、ガチャピンも出演したラジオTOKYO FM「JUMP UP MERODIES TOP 20」に呼ばれたことがある。パーソナリティの鈴木おさむさんからガチャピンのお話を聞き、雲の上の存在だったガチャピンが「現実に存在している」ということを意識するようになる。

そして「いつかガチャピンに会いたい!」というのが、いつの間にか自分の夢のひとつになっていた。

↑JUMP UP MERODIES TOP 20出演時。パーソナリティの鈴木おさむさんと、陣さん(THE RAMPAGE from EXILE TRIBE)と。

私の作品がフジテレビの月9枠でドラマになった際、フジテレビのスタジオを訪ねる機会が何度かあった。ガチャピンはフジテレビのキャラクターである。ばったりどこかで会えたりしないだろうかとキョロキョロしながらスタジオに向かう。だが、ドラマを撮影しているスタジオとニュース系の収録をしているスタジオは異なるらしい。ガチャピンどころかムックの気配すらない。

↑フジテレビのスタジオにて。「タイプライターズ~物書きの世界~」出演時。収録は楽しかったが、ガチャピンには会えなかった……。

こうなったら汚い大人の知恵を働かせるしかない。私は、局関係者との打ち合わせで「ガチャピンが本当に好きで、ガチャピンに会うのが夢なんです」と食い気味に言って回ることにした。局関係者は皆「ガチャピンですか? 比較的簡単に会えますよー」とニコニコするのだが、一向に会わせてくれる気配はない。こうなったら、ガチャピンに会えるまで、フジテレビに貢献し続けるしかない。そんなことを考えていたのだ。

 

ところが、そのガチャピン先輩は南極に行くという。いくら追っかけでも、南極までは追っていけない。憧れの人にちょっと近づいたかと思うと、その人はずっと遠くまで行っている。でも、そんなところも好き……。

南極大陸でも「ガチャガチャピンピン、ガチャピンです」とかまして欲しい。そしてどうか無事に帰ってきてください。ガチャピン先輩の安全で楽しい旅を、陰ながら祈っています。

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帆立の詫び状

原稿をお待たせしている編集者各位に謝りながら、楽しい「原稿外」ライフをお届けしていこう!というのが本連載「帆立の詫び状」です。

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新川帆立

1991年2月生まれ。アメリカ合衆国テキサス州ダラス出身、宮崎県宮崎市育ち。東京大学法学部卒業。弁護士。司法修習中に最高位戦日本プロ麻雀協会のプロテストに合格し、プロ雀士としても活動経験あり。作家を志したきっかけは16歳のころ夏目漱石の『吾輩は猫である』に感銘を受けたこと。2020年に「このミステリーがすごい!」大賞を受賞した「元彼の遺言状」でデビュー。

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