
急に気温が上がった午後、センパイはどこかうつろな表情。いつもよりも水分補給に気をつけてはみるものの、水分過多にならないかも不安。先週までは「冷えは大敵!」とフリースを着せていたのに……。今年の春は三寒四温が激しすぎやしませんか。いつもと同じように見える、ふわふわの茶色い被毛に覆われた体内で、一体どんな変化が起きているか。あぁ、とても気になります。
頭痛持ちの友人がいました。天気に左右される体調、ひどいときには寝込むこともある。どこに行くにもお守りのように鎮痛薬を持っていました。天気が崩れるとわかると、もう憂鬱になる。そんな彼女を「大変そうだなぁ」と心配しながらも、今思えばどこか他人事でした。
しかし、センパイがおばあちゃんとなってからは、気候と体調は密接であることを再認識。特に、弱った身体は影響を受けやすい。動物も人間も自然の一部なんですよね。センパイは気圧の通過やその高低の変化についていけないようで、夜鳴きが激化します。夜とはいわず、朝や夕方に鳴き続けることも。
「気持ちが不安定になってイライラしたりするのかな」と思っていたけれど、犬も人間と同じように頭痛がしたりだるかったり、肩や首の後ろに凝りを感じたりするようです。身体の不調を訴えたくて鳴いているのかもしれませんね。
それで最近は天気予報を確認しながらお灸や指圧の施術を。見よう見まねながらやり過ぎないように気をつけつつ。すると多少落ち着くような気がして。センパイの様子をみながらの手探りの日々が続いています。
少し前のこと。実は、これまでの動物病院通いにひとまず区切りを付けることにしたのです。13歳の春に血液検査で腎臓と肝臓がよくないとわかり、以来、腎臓の薬を飲んだり、一時期は肝臓の処方食を食べたりもしました。途中からは認知症の薬やサプリメントも飲むようになり、併せて定期的な尿検査と血液検査も続けていました。ここ半年はセンパイ自身が受診することは困難となり、先生に近況を伝え薬を処方してもらうのが私の役目だったのです。
この3年間、老化は進行しても病状に大きな変化がなく過ごしてこられたのは、的確な投薬を指導してくれた獣医師のおかげです。
でもある日ふと「この薬をセンパイは死ぬまで飲むのかな」と思ったのです。
完治することはない腎臓病に著しい進行が見られなかったのは薬の効果があったらだし、認知症の薬も飲んでいなかったら、もっと早い段階でひどいことになっていたかもしれないのだけれど。とはいえ、センパイがカートに乗ってグルグル回り続けることや鳴き叫ぶことが認知症の症状であるなら、もうそれはかなり極まっているのではないかとも思え……。
そういえば、母も認知症の薬を何年も飲んでいました。それを見ていて私は気休めでしかないように感じていたけれど、飲むのを止めたあとにどうなるのかが怖くて言い出せなかった。亡くなった日も昼食後に薬を飲んでいました。思えば、母が最期に口にしたのは薬だったのです。
センパイについても検査や投薬を止めることにもちろん不安はあるけれど、負担になることはせず、できることならば自然に任せるかたちで支えたい。しばらくもやもやと思い悩んでいたのですが、思い切って獣医師にその気持ちを伝え、今後の相談をすることにしました。
受診の予約を入れ、センパイの同行も試みました。当日は時間に余裕を持って家を出ましたが、途中、突然の絶叫に断念。家に引き返しセンパイを落ち着かせてからの、結局、私ひとりでの受診となりました。「もしできそうだったら久しぶりに血液検査も」なんて考えていたけれど、やっぱり難しかった。絶叫は、センパイが全力で受診を阻止したかのようにも思えて。
「わかりました、センパイちゃんのおかあさんのお気持ちを尊重します」獣医師にそう言ってもらえたときはほっとしました。誤解のないように、率直に慎重に伝えなくてはとずっと緊張していたのです。
この動物病院には最初のワクチン接種からこれまで16年間通いました。ひとまず区切りとしましたがこれが最後ではなく、まだまだお世話になることもあるはずです。これからも何が起こるかわからない。センパイの16年間をずっと見てきてくれて、変化を理解してくれている獣医師がいると思うだけでも心強い思いです。
この決断を後悔しないようにしなくては。今はまだそれなりに食欲も気力もあるセンパイ、これからは自身の免疫力と体力と、心臓とメンタルの強さをフルに活かせるように支えます。天気図を確認しながらあれこれ工夫してみます。毎日おいしくごはんが食べられるように、心地よく眠れるように、どこも痛くないように、苦しくないように。