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『「うつ」は病気か甘えか。』刊行記念 村松太郎×斎藤環対談

2018.06.23 公開 ポスト

「ストレスでうつ病になる」はおかしい!?【リバイバル掲載】村松太郎/斎藤環

 「ストレスでうつ病になる」は本当か?

村松 そういう言い方もできますね。もちろん法廷にはそれにきちんと反対する医師の意見も出されるのですが、世の中が「ストレスでうつ病になる」という流れなので、そちらのほうが裁判官にも納得されやすい。

斎藤 今はメンタルヘルスの重要性がしきりに言われているわりには、パワハラが減ったようには見えないし、ブラック的な体質も抜けないなど、メンタルヘルス的な配慮が企業社会に普及しないですよね。それに対するカウンターだと考えると、言いがかりのようなうつ病訴訟が増えるのも仕方がないのかもしれない。企業体質がなかなか変わらない状況の中では、一定の意味があると言えるでしょう。訴訟リスクを考えたら、企業はきちんと社員のメンタルヘルスに配慮しなければいけない。

村松 ただし私の印象としては、きちんと社員のメンタルヘルスを考えている企業ほど、逆に腰が引けちゃって、訴訟リスクを考えすぎているように感じます。いわゆる「ブラック企業」は、そんなこと気にしていないように見える(笑)。

斎藤 どうして鈍感なままでいられるんでしょうね。それが一番の謎なんですよ。敗訴したら、かなり大きなダメージを受けますから。中小企業の場合、そのせいで経営が成り立たなくなってもおかしくない。それでも社員のメンタルヘルスに無頓着なのは、「一か八か」なんでしょうかね。あるいはヤンキー体質なのか(笑)。

村松 裁判で負けると思ってないのかもしれないですね。

斎藤 いずれにしろ、曖昧なボーダーを広げないようにするには、医師の啓蒙も重要だと思います。たとえば、うつ病が約10年間で2倍になったという統計がありますよね。これは、「うつは心の風邪」みたいな製薬会社の宣伝に医者が乗ることで増えてしまった部分が多いと思います。その背景には、「治療=薬物」という図式がある。つまり、精神医療が薬物に依存しているんです。「これはうつ病じゃないから診ない」と言う医師の多くが、「私は精神療法ができませんから」と言ってるように私には聞こえてしまうんですよ。薬物療法以外の選択肢はいっぱいあるのに、なぜかそれはあまり考慮されず、「薬物療法の適応でない患者は治療ができない」という“常識”が定着している感がある。こういう日本の精神医療の遅れが、結果的にうつ病患者の増大を招いているのではないでしょうか。

村松 薬物に頼りすぎというご指摘はそのとおりですが、日本の精神医療が国際的に見て遅れているかどうかは、何とも言えないと思います。たとえばアメリカは日本より選択肢が多いかもしれませんが、お金がモノを言う。お金を払える人しか、いろいろな治療を受けられないわけです。その点で比べると、日本の医療は世界的には水準が高い。

斎藤 それはそう思います。アメリカはお金が物を言うし、一方で医療費が無料のイギリスは、患者が数ヶ月とか数年とか待つ期間が長いなど、アクセシビリティが悪い。ただ、イギリスが掲げる理念やガイドラインには尊重すべきところがあると感じます。イギリスのNICEガイドラインでは、「初期の軽症のうつ病には薬は出さない」と明確に打ち出してますよね。薬物を使わずに、禁煙や禁酒など生活習慣の指導から始める。これは日本も参考にできると思うんですよ。生活習慣の改善やカウンセリングを含めた精神療法の導入などが、もう少し広まったほうがいい。たしかに日本の患者だけが不幸だとは私も思いませんが、まだ改善の余地があるのではないでしょうか。

村松 おおむねおっしゃる通りだと思いますが、うつ病をひとまとめにして、内因性うつ病でも「軽いから薬は出さない」となるのは、非常に危険だと思います。内因性のうつ病とそうじゃないものをきちんと分けて、薬が必要な患者には、たとえ軽くても最初から出すべきでしょう。

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『「うつ」は病気か甘えか。』刊行記念 村松太郎×斎藤環対談

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村松太郎/斎藤環

村松太郎(むらまつ・たろう)
1958年、東京都生まれ。慶應義塾大学医学部卒業。慶應義塾大学医学部精神・神経科准教授。医学博士。日本精神神経学会精神科専門医。日本医師会認定産業医。刑事・民事事件精神鑑定なども行なう。主な著書に『認知症ハンドブック」(共著、医学書院)、『統合失調症という事実(ケースファイルで知る)』(監修、 保健同人社)、『名作マンガで精神医学』(監修、中外医学社)、『現代精神医学事典』(共著、弘文堂)、『道徳脳とは何か』(訳、創造出版)、『思春期臨床の考え方・すすめ方 前頭葉機能からみた思春期の病理』(共著、金剛出版)、『臨床神経学・高次脳機能障害学 -言語聴覚士のための基礎知識』(共著、医学書院)、『レザック神経心理学的検査集成』(監訳、創造出版)、『よくわかるうつ病のすべて』(共著、永井書店)など多数。

斎藤環(さいとう・たまき)
1961年、岩手県生まれ。筑波大学医学研究科博士課程修了。医学博士。爽風会佐々木病院等を経て、筑波大学医学医療系社会精神保健学教授。専門は思春期・青年期の精神病理学、「ひきこもり」問題の治療・支援ならびに啓蒙。漫画・映画・サブカルチャー全般に通じ、新書から本格的な文芸・美術評論まで幅広く執筆。日本文化に遍在するヤンキー・テイストを分析した『世界が土曜の夜の夢なら』にて第11回角川財団学芸賞を受賞。著書に『社会的ひきこもり―終わらない思春期』 (PHP新書)、『生き延びるためのラカン』 (ちくま文庫)、『関係する女 所有する男』 (講談社現代新書) 、『思春期ポストモダン―成熟はいかにして可能か』 (幻冬舎新書)、『承認をめぐる病』(日本評論社)など多数。

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