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2021.09.22 公開 ツイート

AIやDX、自分の言葉で語れますか? 加藤晃/ロバート・フェルドマン

定年まで同じ会社に勤めあげる「一所懸命」モデルは崩壊、これまで誰も体験したことのない「人生100年時代」の到来など、技術革新によって、私たちの働く環境は激変しました。

さらに加速するDX時代においては、過去に学んだことの賞味期限はどんどん短くなっていきます。

DX、AI、SDGs、MOTなど、わかっているようで理解できていない言葉の数々、さらにデータの正しい捉え方やエネルギー革命など、現代を生きるビジネスパーソンとして必要なテーマをまとめた一冊『盾と矛 2030年大失業時代に備える「学び直し」の新常識』の刊行を記念して、内容を一部抜粋してお届けします。

*   *   *

(写真:iStock.com/shironosov)

売上が下がった時ほど、人と技術に投資せよ

「学び直し」を考えたとき、まず必須なのが「AI」と「DX(デジタルトランスフォーメーション)」と言っていいでしょう。本章では、ビジネスパーソンが避けては通れない「AI」および「DX」について、単なる用語としてではなく、その本質を考えていきましょう。

「必要は発明の母である」とよく言われますが、私は、発明の本当の母は「苛立ち」だと考えます。なぜなら、困ったことがあって初めて、人間の創意工夫が働くからです。

 

典型的な例は「米百俵」の話です。戊辰戦争で敗れた長岡藩は、7万4000石から2万4000石に石高を減らされ、藩士は窮地に陥ります。長岡藩の支藩にあたる三根山藩はその窮状を見かねて、米百俵を贈りました。

日々の食事にも事欠く藩士たちは、この米を分けてもらえると期待します。ところが長岡藩の大参事である小林虎三郎は、米を売却し、藩の学校を設立すべきだと決断しました。小林は、つめよる藩士たちにこう語ったといいます。

「百俵の米も、食えばたちまちなくなるが、教育にあてれば明日の一万俵、百万俵となる」

困窮する今こそ、教育、すなわち未来へ投資すべしという考え方でした。現代のビジネスで言えば、困ったときこそ人材育成、研究開発、技術進歩、イノベーションを促進させるべきであるということでしょう。今でも感動する前向きな哲学ですね。

 

19世紀後半から20世紀初期にも、人々は技術によって問題に取り組み続けました。アジア諸国に比べて西洋諸国が有利だった一つの理由は、簡単に誰でも読める、誰でも書ける文字を使っていることでした。特に、電報においては文字の種類は少ない方が有利です。だからこそ、西洋にはタイプライターおよびモールスコードが発達したのです。漢字を利用する中国・日本では、西洋のようにはいきません。どのようにすれば漢字で電報が打てるのか。また漢字タイプライターの開発は、東洋だけでなく西洋の発明者も加わっての大競争になりました。

 

電報については割と簡単でした。各漢字に番号を与え、番号をモールスコードで送信し、受信する人は番号を漢字に戻せば良いからです。少し面倒ですが、筆で書いて、馬で手紙を送るよりは遥かに楽です。

タイプライターは電報よりも格段に難しかったのですが、あるアイデアがドイツからもたらされました。当時のドイツ語は英語より文字も若干多く、タイプライターが使いにくかったのです。そこで開発されたのが、活字を縦横に配置して、その位置を指定すれば活字を打つことができる機械でした。

 

問題はサイズが極めて大きい活字版であったことでした。40年間の工夫の末、日本の杉本京太氏および中国の周厚坤氏がほぼ同時に、同じようなデザインを完成させました。1910年代半ばから1980年代半ばにかけて、この和文タイプライターの技術が主流となります。活字版を覚えて和文タイプライターを使いこなすには数年間を要するため、タイピストという専門職が生まれました。

 

1980年代になると、コンピューターが発達し、「一太郎」などのソフトが開発され、1990年代には「Word for Windows」の日本語版が発売されました。ひらがなで「くるまで」と入力すれば、「車で」という意味か「来るまで」という意味か、という選択肢がスクリーンに表示され、書く人が選ぶというやり方です。

せっかく、数年間をかけて活字版を覚えたタイピストたちの努力は価値がなくなってしまいました。職を守るには、新たにワープロ、パソコンを覚えるしかありませんでした。

これらの例における共通点は、さて何でしょうか。

どうする!? キャッシュレス・レジの使い方を覚えない客

筆者(フェルドマン)の義理の母が、技術進歩の本質を教えてくれました。彼女の父親は、よくこう言っていたそうです。

「勉強しなさい! 勉強しなければ『溝掘り』になるしかないよ!」

当時の「溝掘り」は大変な仕事でした。ショベル一本で一日中溝を掘って、疲れ切るまで働いても賃金が安かったのです。現代の「溝掘り」はそうではありません。一人の労働者が大型掘削機を操作し、高い賃金を稼ぐことができます。すなわち、「溝掘り」という仕事は、「資本装備率」が高まったのです。資本装備率とは、労働量に対する資本量の比率です。Kが資本、Lが労働であれば、K/Lです。ショベル一本と大型掘削機ではK量が全く違います。

 

労働市場は、大型掘削機ができてどう変わったでしょうか。一人の労働者が掘削機を操作し、生産性が高まったことで、高い賃金を稼ぐことができるようになりました。ショベルを使って溝を掘っていた人たちはどうでしょう。彼らは「溝掘り」の仕事を失いましたが、掘削などの建設工事のコストが低くなり、極めて効率的になった結果、経済が成長し、学び直すことによって他の仕事でより高い賃金を稼げるようになりました。

 

今のコンビニでも、全く同じことが起きています。今から2、3年前、通勤途中に最寄り駅の近くのコンビニに入りました。キャッシュレス・レジは2台ありましたが、誰も使っていません。対して、1台の有人レジには5、6人が並んでいました。私が誰も並んでいないキャッシュレス・レジで、すいすいと買い物を済ませると、並んでいる人たちが横目で見ています。「なんてずるい外国人! 並ばない!」という顔でした。私はむしろ、「機械の使い方を覚えたら得だよ。なんで並ぶの?」と思っていました。

コンビニは技術進歩によってキャッシュレス・レジを導入した結果、同じ売上を少ない労働者数で達成できています。問題は、客がキャッシュレス・レジの使い方を覚えないことです。使いやすいキャッシュレス・レジであれば問題ないのですが、使いにくいものの場合、顧客の待ち時間がかえって長くなり、他の店に行ってしまうようになるでしょう。

 

すなわち、資本装備率を高めることには、新しい資本に合う労働訓練と労働配分、同時に顧客の教育が必要です(ところで、私の場合はキャッシュレス・レジの使い方は難しくなかったのですが、商品を素早くレジ袋に入れることの方が難しかったのです。今は、上手になりました)。

この二つの例は技術革新の一種に過ぎません。いわゆる「プロセス・イノベーション」です。すなわち、新しい技術によって、同じ商品(溝掘り、小売の決済)をより効率的に扱うことです。このようなイノベーションにおいて、経済が成長していない状態では職を失う人が出てきます。雇用を減らしますが、また新たな職業を生む可能性もあるのです。

雇用を破壊するイノベーション・生み出すイノベーション

「プロセス・イノベーション」とは別の技術革新として、「プロダクト・イノベーション」があります。新しい技術によって、これまでなかった商品を発明して売ることです。経済史には、プロダクト・イノベーションの例もあふれています。

存在しないものを頭の中で想像すること、お客様の声を聴くということはビジネスの鉄則ですが、「プロダクト・イノベーション」の場合は必ずしも当てはまりません。この事実を教えてくれたのは自動車会社フォード・モーターの創業者、ヘンリー・フォードです。

 

フォードは「顧客ニーズを顧客から聞きますか」と尋ねられた時に、「聞かない。顧客にニーズを聞いたら、より速い馬が欲しいというだけだ」と答えました。すなわち、新しい技術の可能性を理解するのはお客様ではなく、アントレプレナーだということです。お客様の潜在的ニーズをつかみ、新しい技術を利用することで、より快適に潜在的ニーズに応える新商品を開発し、顧客に使い方とその利便性を教え売り込むのが、アントレプレナーです。

良い発想があっても、開発は思うほど簡単ではありません。その要因は、大きく分けて四つあります。

 

(1)どの商品も、必要とするインフラがあるからです。馬が走れる道路と自動車が走れる道路は違います。

(2)外部経済・不経済(すなわち、全く関係ない人が得したり、損したりすること)の存在もあります。自動車は、馬による大きな外部不経済を解決しました。つまり、馬の排泄物が大都市の問題でしたが、自動車が導入された結果、解決されました。ただし、自動車が多くなると排気ガスによる別の外部不経済の問題を引き起こしました。

(3)従来からある産業がイノベーションを邪魔することもあります。こうした場合、公正・公平かつ迅速に問題を解決する必要があるため、行政の関与が不可欠になります。民間と行政が協力して初めて新しい技術が普及するのです。

(4)事故が発生した時に、責任分担を決めるのは法律問題となるからです。

 

では、現代のIT、AI、深層学習などは、どのようなプロセス・イノベーション、どのようなプロダクト・イノベーションをもたらすでしょうか。そして、どのようにしてこれらのハードルを越えていくのでしょうか。

*   *   *

続きは書籍『盾と矛 2030年大失業時代に備える「学び直し」の新常識』でお楽しみ下さい。

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盾と矛

テクノロジーの発展や、「人生100年時代」の到来によって激変している私たちの働く環境。ロバート・フェルドマンさん、加藤晃さんの共著『盾と矛 2030年大失業時代に備える「学び直し」の新常識』は、DX、AI、SDGs、MOTなど、理解しているようでしていない新しい概念をはじめ、ビジネスパーソンが身につけておくべきテーマをまとめた一冊。激動の時代をサバイブするために、ぜひ目を通しておきたい本書から、内容の一部をご紹介します。

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加藤晃

東京理科大学大学院経営学研究科技術経営専攻(MOT)教授。防衛大学校(国際関係論)卒業、青山学院大学で博士(経営管理)を取得。貿易商社、AIU保険会社、愛知産業大学を経て、2020年より現職。経済産業省ISO/TC322国内委員・日本代表エキスパート、ISO/TC207環境ファイナンス関連規格検討委員会委員、日本証券アナリスト協会サステナビリティ報告研究会委員。単著に『CFO視点で考えるリスクファイナンス』(保険毎日新聞社)、共著に『サステナブル経営と資本市場』(日本経済新聞出版社)、『ガバナンス革命の新たなロードマップ』(東洋経済新報社)、監訳書に『サステナブルファイナンス原論』(金融財政事情研究会)、『社会を変えるインパクト投資』(同文舘出版)。

ロバート・フェルドマン

1970年、米国からAFS交換留学生として初来日、1年間名古屋で過ごした後、イエール大学で経済学/日本研究の学士号、マサチューセッツ工科大学で経済学博士号を取得。1983~89年、国際通貨基金(IMF)でエコノミスト、1990~97年、ソロモン・ブラザーズ・アジア証券会社で首席エコノミストを務める。
1998年、モルガン・スタンレー証券株式会社(現:モルガン・スタンレーMUFG証券株式会社)に入社、チーフエコノミストとして2017年まで勤め、その後シニアアドバイザー。
2000~20年、「ワールドビジネスサテライト」(テレビ東京系列)にコメンテーターとして出演。書籍出版、雑誌寄稿、講演などの対外活動にも積極的。2017年より東京理科大学大学院経営学研究科技術経営専攻(MOT)にて教授を兼業。

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