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ロジカル筋トレ

2021.04.27 公開 ツイート

日本の部活は「ざんねん筋トレ」の温床になっている 清水忍

数々のプロアスリートを顧客に持つパーソナルトレーナー清水忍氏の書籍『ロジカル筋トレ』(幻冬舎新書)が発売即重版となり、話題を呼んでいる。

ここでは本書の一部を抜粋して紹介する。部活動のトレーニングこそ「なぜ」を考えることが必要だ!

*   *   *

(写真:iStock.com/Gyro)

部活動のお決まりのトレーニングは意味がない?

わたしたち日本人には、どうも「なぜ、やるのか」をあまり考えない特徴・傾向があるようだ。

典型的なのは学校の部活動のトレーニングだ。

みなさんのなかにも心あたりがある人が多いかもしれないが、運動部では練習や試合前の筋トレとして、「腹筋30回」「腕立て30回」「スクワット30回」といったメニューを“お決まり”のように行なうことが少なくない。

部活の伝統として、昔から「これだけは必ずやる」というメニューが定められている場合も多いだろう。

でも、そこで「なぜ、腹筋30回なのか」「なぜ、腕立て30回なのか」といった疑問をもつ部員はほとんどいないのではないか。

当然、「このトレーニングをなんのためにやるのか」「このトレーニングが自分のどんな力を伸ばすのか」といったことを考える部員もほとんどいないだろう。

こういった「お決まりの筋トレ」をやっている部員たちを観察していると、みんなつまらなそうな顔をしてだらだらと体を動かしていることが多い。

なかには、ろくに筋肉に力を込めず、かたちだけ体を動かしてやったように見せかけている部員もいたりする。ずっと前から慣例としてやるのが決まっていることだからと、“しかたなく”トレーニングをしているかのようだ。

 

私は、これでは「やる意味がない」と思う

トレーニングは、やるからには意味のあるものでなければならない。「なぜやるのか」を考えず、“やるのが決まりだから”とか“やらないと叱られるから”などといった理由でしかたなく体を動かしているだけなら、最初からやらないほうがいい。

それに、どうやら中学や高校の部活では「なぜなんだろう」と思うことを禁止されているようだ。

みんな「言われたメニューを言われたとおりにやらなきゃ」「与えられたメニューをきっちりこなさなきゃ」といったことで頭がいっぱいなのか、それとも、なにも考えずに黙々とトレーニングをするクセがついてしまっているのか。

大多数の部員が「なぜ?」を考える必要性を感じていない気がする。

もちろん、なかにはちゃんと考えて熱心に取り組んでいる部活動もあるのだろうが、日本中の多くの部活動で行なわれている筋トレでは、ほとんど「思考停止状態」で体を動かしているケースが大多数を占めているように思えて仕方ない。

(写真:iStock.com/kazuma seki)

その腕立て伏せはなんのためにやっているのか

私はある高校に講演に行った際、グラウンドで野球部が練習をしていたのでひとりの部員に声をかけたことがある。

 

「ポジションはどこ?」

部員「ピッチャーです」

「なんで腕立て伏せをやっているの?」

部員「上半身を鍛えるためです」

「じゃあ、なんで上半身を鍛えるの?」

部員「速い球を投げられるようになりたいからです」

「何回やるの?」

部員「50回です」

「50回できれば速い球を投げられるようになるの?」

部員「……」

「速い球を投げたいって言うけど、そのフォームでその回数の腕立て伏せをやっていてもスピードは上がらないよ。腕の力だけを使って体を上げ下げしていても、腕や肩が疲れるだけで、スピードを上げることにはつながらないんだ」

 

その部員は私の言っていることが理解できないようで、ポカンと口を開けてふしぎそうな顔をしていた。でも、私からすれば、「速い球を投げる」ために疑いもせずにそのトレーニングを続けていることのほうがふしぎだったのだ。

ちょっと補足をしておくと、腕立てふせは「ひじを曲げ伸ばしする」のではなく、「2本の腕で地面を押す」のがコツだ。その発想があるとしっかり体幹に力が入るフォームになり、腹や足の力を連動させて地面を押し込めるようになる。

その意識があれば力の伝達能力が向上するため、多少は速い球を投げるのに役立つかもしれない。

腕立てふせのコツは、2本の腕で地面を押すこと。(イラスト:中村知史)

しかし、その部員は体幹に力を入れずにひじの曲げ伸ばしをくり返して、2本の腕の力だけで体をくり返し上げ下げしていた。

ピッチャーは腕を太くすれば速い球が投げられるというものではない。その部員には悪いが、「腕だけを使ったまちがったフォーム」のまま、どれだけ腕立てふせをやったとしても「速い球を投げる」という目的は叶えられない

自分が求める成果につながらないトレーニングはいくらやっても時間と労力のムダであり、日々意味のないトレーニングをがんばっているようなものだ。

つまり、「このトレーニングで自分のどんな能力が高められるのか」をちゃんとわかっていないから、意味のないことやまちがったことをやってしまう。

しかも、「このやり方でいいのか、このフォームでいいのか」と考えていないから、その誤りにさえ気づかないという状態に陥ってしまっているのである。

近年だいぶ改善されてはきたが、日本の部活では、こういった「ざんねんなトレーニング」がごくふつうに行なわれている

思考停止状態で「なぜやるのか」を考えていないため、多くの時間や労力を費やしているにもかかわらず、そのがんばりが成果につながりにくくなってしまっているのだ。

(写真:iStock.com/matimix)

「いいからやれ」「つべこべ言わずにやれ」は時代遅れ

部活トレーニングで多くの生徒が「なぜやるのか」をあまり考えないのには、指導者サイドの問題も大きい

「いいからやれ」「とにかくやれ」「つべこべ言わずにやれ」──こうした言葉を浴びせられた経験がある人も多いだろう。

こうした“決まり文句”を口にする指導者は、選手を自分の思いどおりに動かそうとして、「なぜそれをするのか」を考える余裕を選手たちに与えない

これではまるで「お前たちは思考停止のままロボットのように動いていればいいんだ」と言っているようなものだ。

選手たちもヘタに質問したり逆らったりしたらカミナリを落とされるから、なにも考えず言われたとおりに行動してしまう。

それで「腕立てを何回何セットやれ」「スクワットを何回何セットやれ」と言われたときに、「なぜ」を考えることなく黙々と体を動かすクセがついてしまうのだ

 

しかし、いくらなんでも「いいからやれ式の指導」はもう時代遅れだろう。

心あたりのある指導者は「生徒に考えさせない指導」から「生徒に考えさせる指導」へと転換していくべきだ。

勉強でもそうだが「なぜそうなのか」「リーズン・ホワイ」を考えることは、生徒の成長をうながすとても大きなきっかけになる。逆に言えば、言われたことを言われたとおりにしかやらない生徒は、勉強でもスポーツでも伸び悩むことが多い。

野球でも、自分で考えずに思考停止状態で練習をしてきた選手は、伸びないケースが目立つ。

甲子園で活躍したような選手が、大学の野球部に入って「自分で考えて練習をしろ」と言われたとたん、まったく使い物にならなくなることもある。

高校時代、他人から与えられた練習メニューをこなしてばかりだったため、自分で考えて練習メニューを組み立てることができないのだ。

 

私はどんなトレーニングにも根拠があるべきだと考えている。指導者は生徒に対して「このトレーニングをやれ」と言ったときに、「なぜやるのかの理由や根拠」を明確に持っていなくてはならない

そして、その理由や根拠をいつでも生徒に説明できる状態でなければならない。そう考えている。

また、生徒のほうも、指導者やコーチから「このトレーニングをやれ」と言われたときに「なぜなんですか?」と訊けるようになっていってほしい

「10回3セットやれ」と言われたときに「なぜ10回3セットなんですか?」と理由や根拠を質問するようになっていってほしい。

指導をする側も指導を受ける側も、そうやって「なぜ」の理由や根拠を共有していければ、部活トレーニングはいまよりずっと合理的で風通しのよいものになっていくはずだ

きっと、日々のがんばりが成果に結びつきやすくなり、パフォーマンスを向上させて成長していく選手がグッと増えていくのではないだろうか。

*   *   *

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清水忍『ロジカル筋トレ 超合理的に体を変える』

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ロジカル筋トレ

2021年3月25日発売の幻冬舎新書『ロジカル筋トレ 超合理的に体を変える』(清水忍氏著)の最新情報をお知らせいたします。

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清水忍 健康運動指導士、パーソナルトレーナー

トレーニングジムIPFヘッドトレーナー。アメリカスポーツ医学会認定運動生理学士(ACSM/EP)、健康運動指導士。1967年、群馬県生まれ。大手フィットネスクラブ勤務後、スポーツトレーナー養成学校講師を経て独立。「なぜ」を追求するロジカルなトレーニング指導で、メジャーリーガー・菊池雄星投手らプロアスリートのパーソナルトレーナーとして絶大な人気を誇る。ダイエット指導歴35年以上。NESTA JAPANエリアマネージャー、菊池投手考案の複合野球施設「King of the Hill」アドバイザー。「Tarzan」監修など多くのメディアで活躍中。最新刊『ロジカルダイエット』のほか『ロジカル筋トレ』『超宅トレ』など著書・監修書多数。

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