2020年秋、作家・中川右介(60歳)は、91歳の母わかを引き取り、介護生活に入った。
わかは身体は丈夫だったが、記憶の衰えが激しくなり、要介護1となっていた。ケア・マネージャーや地域の人の支援でひとり暮らしを続けていたが、90歳を過ぎたところで、ケア・マネージャーから「これ以上のひとり暮らしは難しいので施設に入れるか、一緒に暮らしたらどうか」と言われ、どうにか部屋をひとつ用意し、引き取ったのである。
介護殺人事件が珍しくない昨今、自分もいつか母を殺してしまうのではないかと不安になった中川は、介護日記を書くことにした(リアルタイムはFacebookにて)。ストレスの発散とともに、友人・知人たちにアドバイスや励ましをもらいながら介護生活を送っている――。
■10月27日 火曜日
<介護初日>
というわけで、
今日から、91歳の母、
時をかける老女と暮らすことに。
33年ぶり。
はたしてどうなるか。
■10月28日 水曜日
<介護2日>
今日はデイサービスへ、面接と契約。
そのあと、西友へ行き、デイサービスのための上履きを買う。
疲れたのか、8時に寝てしまい、平穏な夜。
しかし、夜中に起きられると面倒だな。
明日から昼間はデイサービス。
どうなるか。
予感通り、夜中1時に起き、「ここはどこ」。
家中を見て回る。
落ち着いて寝る。
■10月29日 木曜日
<介護3日>
6時半に起きたらすでに起きてテレビを見ている。
「ここはどこ」はなかったが、「いつまで、ここにいるの」の確認。
引っ越したと、とりあえずは理解。
こうして3日目は始まるのだった。
持ってきたアルバムを見つけ、見ている。
何度も海外旅行をした人だが、何も覚えていない。
過去のない老女。
自分の親兄弟姉妹のことは、かろうじて分かるが、私の妻や、弟の妻、孫は分からない。会えば思い出すが。
大雑把に、平成30年間の記憶が失われている。
今日から週5日のデイサービス。
10時50分に迎えが来て、15時20分に帰ってくる。
頼めば、8時半から5時までも可能だが、
介護保険でカバーできる単位に上限がある。
週の回数と一回あたりの時間を考えなければならない。
本人は楽しそうに帰ってきたが、昼に何を食べたかは思い出せない。
すでに引っ越したのに、「いつ、引っ越すの」と言い出し、相変わらず、時をかける。
逆行してるから、TENETばあさんか。
「あなたの中川右介は本名? なんで、そんな名前なの」と言いだす。こっちが聞きたい。
何度も「あなたは私が産んだ子よね」と確認。
出生の秘密があるのかも。
テレビはニュース、ワイドショー系のみ。
ドラマには興味がない。5分前の記憶がないから、誰が誰でどんな話か分からないからだろう。俳優の名も顔も分からない。
スポーツもダメ。
そうかと思えば、「トランプさんは、今度は負けるわよ」と大予言。
8時半に寝た。また夜中に起きるかいなか。
* * *
※連載は終了しましたが、著者への感想、コメントはしばらくの期間、こちらのフォームで受け付けています(非公開)。これまでも様々なご感想をお寄せいただき、誠にありがとうございました。
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