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「ムセない誤嚥」ほど恐ろしい!
食物などが気管や肺に侵入したとしても、必ず誤嚥性肺炎になるわけではありません。
誤嚥する量が多かったり、高齢だったり、病気で体力が落ちていたり、免疫力が低下していたりすると、誤嚥したものといっしょに侵入した細菌が、気管や肺で増殖して炎症を起こすことがあります。この炎症が悪化すると肺炎(誤嚥性肺炎または嚥下性肺炎)を引き起こします。
ムセたりセキ込んだりするのが誤嚥のサインではあるのですが、ここで気をつけないといけないのは、誤嚥の中にはこうしたサインがない場合もあることです(不顕性誤嚥)。
不顕性誤嚥がこわいのは、高齢者だとだ液や食べ物が気管や肺に落ちて炎症を起こして誤嚥性肺炎になっていても、熱が出ずふだんと変わらない、もしくは少し痰が増えて微熱が出る程度のため、肺炎に気がつかず放置されてしまいがちな点です。
高齢者の誤嚥性肺炎は、元気そうに見えても、肺の炎症がじわじわと続いています。気がつかないうちに肺が少しずつ侵され、治療が遅れて回復が難しいケースも少なくありません。
不顕性誤嚥を繰り返すうちに肺の炎症が広がり、呼吸機能や体力が低下して、さらに嚥下機能も低下して食べられなくなる、という悪循環に陥ってしまいかねません。
また、慢性的に誤嚥を繰り返していると、ムセなくなるという報告もあります。ムセたりセキ込んだりしない不顕性誤嚥は、誤嚥全体の30~70%を占めるとも言われ、知らず知らずのうちに誤嚥していて、いつの間にか誤嚥性肺炎を起こしている人が少なくありません。
肺炎を日本人の死因第3位に押し上げた
日本人の死因は、長年にわたり「1位がん、2位心臓疾患(主に心筋梗塞)、3位脳血管疾患(主に脳卒中)」が不動のトップ3でした。
ところが、2011年に肺炎による死亡者数が、脳血管疾患を抜いて第3位に躍り出て以降、現在まで実質その座をキープし続けています。
肺炎による死亡者数が増えた背景には、誤嚥性肺炎で命を落とす高齢者が増えたことが大きく関係しています。
肺炎で亡くなっている人のほとんどが75歳以上の高齢者であり、高齢者の肺炎の70%以上に誤嚥が関係していると指摘されているのです。
誤嚥性肺炎の急増には、日本人の寿命が延びたことが関係しています。1960年の日本人の平均寿命は、男性は65歳、女性は70歳でしたが、2019年の平均寿命は男性は81歳、女性は87歳ですから、15年以上延びていることになります。
つまりは、寿命がいまほど長くなかった頃は、嚥下機能が低下する前に亡くなっていたとも考えられます。60代、70代であれば、そこまで嚥下機能は落ちていないから、嚥下機能の大切さが問題になることはなかったのでしょう。
誤嚥性肺炎はひっそりと進行する
誤嚥性肺炎のこわいところは、肺の炎症が初期はごく軽いので、症状がないまま、気がつかないうちに進んでしまうケースが多々あることです。
温かく、湿度がある気管や肺の中は、細菌が繁殖する絶好の環境です。誤嚥して気管や肺の中に食べ物が入ると、いっしょに侵入した細菌はそれをエサに増殖します。
細菌の増殖スピードが速ければ、誤嚥したあとすぐに発熱やセキなど肺炎らしい症状が出ます。しかし人によっては、多少、誤嚥してもすぐには肺炎の症状が出ずに、ふだんと変わりなく過ごしているケースもあるのです。
誤嚥したあとで肺炎を発症するかどうかは、個々の体力や免疫力や吐き出す力、誤嚥したものの種類や量に左右されると考えられています。
高齢者や免疫力が低い人は、一見元気そうでも、誤嚥による肺の炎症(気管支炎)が続いていて、体がじわじわとダメージを受けているケースがそれほど珍しくありません。
高齢者は廃用(安静状態が続くことで起こる体の器官や筋肉の機能低下)が速く進みます。なかには、肺炎が発覚してほんの1週間で、以前から寝たきりだったと勘違いするくらい衰弱してしまう高齢者もいるのです。
肺炎は治療が遅れると回復が難しくなります。気がつかないうちに炎症が広がって、肺の呼吸機能や嚥下機能も低下して、食べられなくなってさらに衰弱するという負のスパイラルに陥りやすいことを覚えておきましょう。
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