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冬の狩人

2020.12.16 公開 ポスト

「狩人」シリーズ26年の歩み。大沢在昌氏特別インタビュー4

小説にとって一番の読者は作者大沢在昌(作家)

累計200万部を超える「狩人」シリーズの最新作『冬の狩人』。3年前にH県で起こった未解決殺人事件の真相を、新宿署のマル暴・佐江とH県捜査一課の新米刑事・川村が追う警察小説だ。書評家・杉江松恋さんによる著者の大沢在昌さんへの特別インタビュー最終回の第4回目では、小説を書く上での心構えに迫った。

*   *   *

アクションを書くには時間とエネルギーが必要

—大沢さんの書く警察小説って、説明が少ない反面で背後にある人間関係や真相なんかをしっかり解き明かしていく形になっていますよね。

堕落ですね。

—いや、なんで堕落なんですか。

堕落だと思う。正直、身内の話にしたり過去関係の話にするのは作家として堕落。リアルタイムで進行していくものの面白さをやはり読ませたいのでね。過去の因縁だなんていうのは、金田一耕助の時代からそうだろって話になっちゃうわけで(笑)。そこにいくのは作家としての堕落だと思う。そうせざるを得ない決着もありますけど、そんなものばかり書いていたら終わりだなと思っています。

—たとえばシリーズ二作目の『砂の狩人』はアクションが多い、リアルタイムの小説ですよね。その動きだけでどうやってサバイバルをするかという関心だけで引っ張っていく内容。そういった小説はやはり書いていて充実するものですか?

『砂』は疲れた。だっていつも登場人物が「てめえ殺すぞ」とか怒鳴り合っているし、いつも撃ち合っているし、いつも殴り合っているし。ほぼ千枚、ずっと血飛沫が飛んでいるような小説だったので(笑)

でも『砂』が好きだって言ってくれる人が多いんですよね。お前らそんなに血が見たいのかよって思うんだけど。

—ははは(笑)。でもあんなテンションで続く物語なんて、読者もほとんど読んだことがなかったんだと思いますよ。このレベル、このテンションのままこの枚数を書けるんだと思いました。

いや、あの頃は私も若かったですよ。読んでも疲れると思うんだけど、書いてる方は相当疲れたからね。今はもう、死んじゃいますよ。そんなことをやったら。

でもね。時々ちょっと食指が動くんですよね。次の『鮫』(「新宿鮫」シリーズ)はまた、『毒猿』ばりのすげえアクションものにしてやろうかな、なんて思ったりしてね。でもそれは口が裂けても担当には言わない。

—間違いなく、やってほしいと言われますもんね(笑)

いった瞬間、バックリ食いついてくるのがわかるからね。だからそこは一応、思っているだけで実際に書き始めたら枯淡の境地みたいな話になっちゃうかもしれないけど(笑)

この前も光文社の人間と釣りをしてたときに、途中で『鮫』の話になったんだけど、口に出かかった。いや、絶対だめだ。これは絶対に言っちゃダメだと(笑)

—言ったら間違いなく言質とられますね。そういうテンションの高い小説はやはり体力がないと無理というのがあるんですか。

いや、そうでしょう。正直、他の仕事をしなければね。集中していればいいかもしれないけど。結局『毒猿』の時だって書き下ろしで、他のものは書いていない。あれ一本でやったところがあったのでね。今は食べていくことも含めて考えると、常に連載を抱えている状態なので、なかなか難しいですよ。特に書き下ろしは絶対に書きたくないし。

もういい、もう嫌だという気持ちの方が強いんですよね。もうほんとに俺、いっぱい書いてきたからって言いたいわけ。たとえばシリーズの短編もこんなにいっぱい書いた人間はいない。大体、小説を読み切りのつもりで書いても必ずシリーズにされちゃうわけですよ。この主人公でもう一本、もう一本……。それじゃあ本になるまでやりましょうって。

だから単発だけで書きたいものを書くということを今でもやっていますし、それを書いているとシリーズは当分書きたくないと思う。シリーズは違うことをやらなきゃいけない。さっき話したように料理なら違う味付けとか、違う作りにしなくちゃいけないから考えるのも大変。僕に言わせればシリーズの方が辛いんです。

—なるほど。そう言われると難しそうですね。

『鮫』なんかはもう十本もあって、それでまた違うのってなると大変だよ。そういう感じになるので、やっぱり書きたくねえなって感じになっちゃう。光文社の人間が聞いたら怒るだろうけど(笑)

—ちょっと釘をさしておきましょう。だめですよ(笑)。佐江はある程度違うんですか?

キャッチボールの相手がいるから、これがなくなるんですよ。

それと「魔女シリーズ」なんかだと、星川という性転換した刑事がいるじゃないですか。あいつの本当にくだらないやり取りを書いているのがめちゃくちゃ楽しい。あれだけで一冊延々とかけちゃうみたいな(笑)

そういうのがあるのでシリーズを続けられる。だからいちばん辛いのは『鮫』ですよね。キャッチボールの相手がいないので。ちなみに佐江は次、どんなキャラクターを相方にするかというと……。まあやめとこう。あんまり言うのは。これ聞いている担当が後でうるさいだろうから(笑)

筆が止まっても、悩み続ければ答えは見つかる

—最初のころは佐江が新宿のもう一人の刑事という言われ方をするじゃないですか。それはどの程度意識していたんですか?

佐江の話として新宿署を書くときには、もう鮫島がいた。佐江を書けば、お前も新宿署なの?って読者は絶対に思うだろう?その中で似て非なるものでは、しょうがねえなというのはありましたね。やっぱり全然違うキャラにしなきゃいけない。

鮫島に比べると佐江はむしろダーティなイメージ。完全に自分の中ではキャラクターとしては別のもの。それでも芯は同じでしょう。鮫島も佐江もね。僕が作るキャラだから。

—魂とか。そういうものですね。

そう。鮫島の方が格好いいんだけど、佐江は格好いいかと言われると違う。でも、二つを比べたり『新宿鮫』を読んだ人が、「鮫」は読み切ったからしょうがねえ、「狩人」読むかっていうのも嫌だ。

つまり行きたいラーメン屋が閉まっているから、じゃあ隣のラーメン屋でいっか、って感覚は嫌だというのがあるわけですよ。だったら「狩人」は炒飯を売りにしようじゃねえかと。同じ町中華だけど「鮫」がラーメンなら、「狩人」は炒飯だっていう。

北の狩人』から『新宿鮫』のイメージを払しょくするために、ああいうバディものにしたというのもあるんです。まあこれだけ「狩人」シリーズが支持されていることを考えると、みんなも二つのシリーズを一緒だよ、とは思っていないはず。誰を書いてもみんな同じという作家もいる中で、そうはなりたくないと思っている。

なにより違うものを書いていればこっちが飽きない。作者が書いているのに飽きるものは、たぶん読者も途中で飽きる。つまり一番の読者は自分なんですね。それってすごく無責任かもしれないけど、お前この先どうなるんだよって思いながら書いているわけなので。

—前に大沢さんから聞いた中で、よく思い出すお話があります。部屋に入ってもドアを開ければ必ず外へ出られるから、そこは心配をしないで書き続けると。

袋小路に入ると出口のないトンネルに入っちゃう、なんて思ったら負けですよ。袋小路に入っても、とにかくドアを開けまくる。場合によっては壁をぶち破る。そこで止まったら物語は停滞するし、負けですからね書き手として。

ある時期、僕は自分の仕事机に「物語を動かす」という標語を書いて貼っていたことがある。書いているものが停滞しがちな時期に、これはいかんと思って、とにかく動かせ、と自分を戒めるために書いていました。数年前のことです。スランプなんていう上等なものではないけど、自分が書くものが、なんかぬるいなって感じていた。

でも文学を書いているわけじゃないんだから、偉そうに悩んでいるなんて何言っているんだと思いました。面白くなりゃあいいんだよと。お前が読者だったら、どう読んだらおもしれえんだよって。それさえ考えていれば必ず突破口はあるんですよ。最後、宇宙人が出てきたっていい。もちろん、程度の問題やルールもあるけど、こっちはそう思っている。芸術家じゃねえんだからなにを偉そうに構えてるんだよと。


—最後に次回作の『柩の狩人』について教えてください。タイトルが『柩』ということは何かアイデアがあると思うんです。

笹沢佐保さんの『死人狩り』って知ってる?荻原健一さん主演の『乗っていたのは二十七人』てタイトルで、テレビドラマになった。これ二十七人が乗っているバスが事故を起こして大量の乗客が死ぬわけですよ。そこにある男の妻が乗っていた。でもその妻がなぜそのバスに乗っていたのか理由がわからない。その謎を解くために、夫が一生懸命調べる。

これがヒントです。

—なるほど。いいですねえ。ちなみにこのお話、ここで言ってしまっていいんですか?

そうですね。『柩の狩人』ってもう決まっているので。『柩の狩人』を書かないんだったら、もう『狩人』は終わりだからね。いつのことだかわからないですけど、いつかね。いろいろ次の作品、各出版社の流れもありますし。というか、どう考えたってすぐには無理だもの。

—でもこのシリーズはオリンピックじゃないですけど、数年に一度、あっ出るぞ。という感じでみんな楽しみにしていますよ。

まあ八年ぶりの刊行だった『新宿鮫』のときは、やっとかよ、みたいな声がすごかったね。サイン会をやっていたとき寒かったから、並んでいた人に「すみません。お待たせしました」って言ったら「はい。八年待ちました」って普通に言う人がものすごくいっぱいた(笑)。まあそこまでの期間にはならないにせよ、待っててくれる人がいたら嬉しいですよ。

—そうですね。本作も久しぶりに「狩人」シリーズを読む読者は楽しみだと思いますよ。それに、何と言っても警察小説として凄く面白いので、シリーズはもちろん初めて警察小説を読む人にも入りやすいのでおすすめしたいです。

そうですね。これはまあ間口が広いので。シリーズの中でも、これがいちばん入りやすいと思う。

—それに上下に分かれずこれで一巻。この文量で密度も凄いので、ぜひ読んでいただきたいと思っています。

それはもっと僕じゃなくてね。周りの人に言っていただかないと(笑)

写真/庄嶋與志秀

お知らせ

『冬の狩人』の発売を記念して12月17日(木)19時半より、大沢在昌さんのオンライントークイベントを開催します。書籍購入者は参加費無料、未購入者もホームページから書籍を購入いただくことで参加が出来ます。詳細・お申し込みは幻冬舎大学のページからどうぞ。

さらにTwitterでは「あなたが大沢在昌作品のキャラクターになる! #冬の狩人 キャンペーン」も開催中です。詳細はこちらから。

大沢在昌『冬の狩人』

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冬の狩人

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大沢在昌 作家

1956年、愛知県名古屋市生まれ。79年『感傷の街角』で小説推理新人賞を受賞しデビュー。91年に『新宿鮫』で吉川英治文学新人賞と日本推理作家協会賞長編部門を受賞。94年『無間人形 新宿鮫IV』で直木賞、2014年に『海と月の迷路』で吉川英治文学賞を受賞する。その他に『北の狩人』『砂の狩人』『黒の狩人』『雨の狩人』『漂砂の塔』『帰去来』『暗約領域 新宿鮫Ⅺ』など著書多数。(著者近影:塔下智士)

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