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冬の狩人

2020.11.18 公開 ツイート

シリーズ24年の歩み。大沢在昌氏特別インタビュー1

新宿のはみだし刑事が帰ってきた。新たな地で巨悪を追う 大沢在昌

長き執筆活動の裏側に迫った。

累計200万部を超える「狩人」シリーズ。6年ぶりの最新作『冬の狩人』が11月18日発売された。

3年前にH県で起こった未解決殺人事件の真相を、新宿署のマル暴・佐江とH県捜査一課の新米刑事・川村が追う警察小説だ。

書籍の刊行を記念して、著者の大沢在昌さんを書評家・杉江松恋さんが直撃。シリーズの魅力をはじめ、創作の裏話や日々の執筆活動、私生活に至るまで、ありとあらゆることが赤裸々に語られるインタビューが実現した。

*   *   *

『冬の狩人』は幻の続編

—本日はよろしくお願いします。狩人シリーズはこれで5作目ですね。

そうなんです。前作の『雨の狩人』で実は終わるつもりでいました。お読みになられた方にはわかると思いますが、主人公の佐江には前作でこの世から消えてもらうつもりでいたんです。けど、最後の最後に、変な仏心が自分の中に起きて、死なせませんでした。

—いやあ。死なせなくて良かったですよ。

良かったのか悪かったのか。ただ未練ですよね。なんか急に佐江と別れるのが惜しくなっちゃいました。ただ生かしてはおいたけど狩人シリーズはもう、おなかいっぱいだなという感じが正直ありましたね。

新宿を舞台に極道が出て来て、ドンパチやってという話はもう、これまでにいっぱい書いたなと思っています。読者が同じようなものを読みたがるのはわかるんですけど、書き手としては同じものを書いていくのは嫌なんでね。

だから当分ドンパチする話はいらないなと思っていて。今回新聞連載の話を幻冬舎さんからいただいたときも、正直どうしようかなと思っていました。シリーズとはまったく違うものを、描くというのもあるなって考えていたんです。

—事件が起きたのはH県本郷市。東京から離れた土地が物語の舞台となるのは、シリーズで初めてですね。

連載媒体の主体が地方紙ということもあってね。「地方を物語の舞台にして」と担当に言われたときに、ああ、佐江を新宿じゃない場所に連れて行けるんなら、まだ書けるかもしれないなと。

ですから、それは一体どういうパターンでいくのか。それを考えるのが楽しみになって。

タイトルに込められた意味とは

—一作目から順番に『北』、『砂』、『黒』、『雨』。そして今回は『冬』です。その意図はどういったものですか?

(3年前に未解決事件が発生した料亭)冬湖楼からですよ。『北』『砂』『黒』『雨』ときて、お気づだきと思うんですけど、それぞれバラバラなんですね。方位であったり、鉱物であったり、色であったり、気象であったり。似たようなタイトルは避けたくて。それで今回『冬の狩人』。

『北の狩人』とか『冬の狩人』って演歌チックというかね、ありふれたタイトルだと思うんです。一方で、それぞれが関連しない文字を『狩人』に付けていくという意味では、冬湖楼からとって『冬の狩人』。今度は季節というのも悪くないなと。

ですから、狩人シリーズのタイトルって、わりと子供っぽいタイトルになってしまうんです。

「狩人」シリーズの主戦場は新聞連載

—狩人シリーズは、これまでも新聞連載の作品が多かったと思います新聞連載に向けて書いたという意識はありますか?

全然ないですね。前回の雨の狩人なんて連載が始まってすぐ、すごい抗議の手紙が新聞社に来たとか。朝から反社会勢力の話なんか読ますんじゃない、とか。女の子が覚醒剤漬けになって売春婦にされる話なんて、読んでて胸が悪くなるとか。お前のところ(新聞社)の良識を疑う、という投書がバンバン来たらしい。

ところが、連載が終わる3か月ぐらい前になったら、もう毎朝3時に起きて郵便受けの前で続きを待っているとか、一体単行本はいつ出るんだとか。今度は最初とは真逆の問い合わせがすごかったと聞きました。

—そんなことがあったんですね。おもしろい。

新聞の担当者が自ら、東京新聞にエッセイで「こんなに180度評価が変わった連載小説は初めてだし、正直、新聞の連載小説ってあまり反応がないことが多いんだけど、良くも悪くもすごく反応が強い連載小説だった」と書いていました。

大体の場合、連載の始まりの打合せのときに「地方紙の読者は年配の方が多いんで、新聞社サイドからはあまり残酷なシーンは……」というふうに言われるんですよ。だけど、そのあと幻冬舎の担当からは「全然気にしないで書いてくださいよ。ガンガン書いちゃっていいですから」って、必ず言われる。

—新聞小説ならではのエピソードですね。

ただ『冬の狩人』は、流血シーンに関して食傷していたというのもあって、あんまり激しいそういうシーンはなし。むしろ謎解きにシフトした中身でね。

本格ミステリ+ハードボイルド

—近刊の『暗約領域 新宿鮫Ⅺ』でもそうでした。大沢さんの作品を読んでいると、謎が少しずつ様相を変えながら読者を牽引していくというのがよくわかります。

本格ミステリだと何と言っても「How」が読ませどころになるんだけど、僕の書いているものはハードボイルドだったりアクションだったりするので、「How」よりは「Why」になっていると思うんですよね。それぞれの人間が事件に関わっていく動機、そこの解明というものが中心になるわけで。

—最初に「なぜか」ということが出てきて、それが形を変えながらも最後まで残る。そして、何かが解かれるとまたそれに付随して何か別のことが出てくる。そこが楽しかったです。

一つの「Why」で長編を引っぱるには、あまりに弱いと思うんです。それで長いものをさんざん読まされた挙げ句、いや、これが答えでしたよ、と言われても、えっ、それにここまで付き合わされたのかよって。読者はガッカリしちゃう。

まず佐江が重要参考人の護衛役に指名されたという「Why」があって、(重要参考人の)阿部佳奈が現場からいなくなった「Why」があったり。そして途中から阿部佳奈の正体をめぐって、いろんなものが出て、「Who」というのも出て来るんだけど。

そういう意味で、おっしゃるように謎が最後まで牽引する。一つの謎で引っぱるのはちょっと不安というかね。持続力に自信がないというか。途中から、手を替え品を替え、いろんな謎を出していくことで、より面白くしていくというね。まぁ方法論というか、それが自分の中にある。

—途中で犯人が何択かになる場面がありました。あれはフーダニット(Who done it)の関心を引く場面だと思うんですけど、今作ではその印象が特に強かったです。

そうね。わりとなんちゃって本格と言っていいのかな……。

本格っぽい衣裳をまとわせて、中身はハードボイルドっていうね。書いててそういうのも楽しいし、基本的に好きなんですよね。よく言いますけど、僕は小説を書くときに、素材は考える。料理に例えれば豚肉があって、中華でいくの?和食でいくの?それともイタリアンにするの?って考えるのと一緒ですね。『冬の狩人』では、ちょっと本格風の味付けを入れるというのを考えました。

作品のつながりを知ればさらに楽しめる

—『黒の狩人』に登場した野瀬という女性が重要な役割で出てきましたね。

読者は全員が過去の「狩人」シリーズを読んでいるとは限らないけど、読んできた人が多いと仮定して、ニヤッとできるというか。これを読み終わった後に『黒の狩人』を読み直してみようと思わせるような仕掛けをするのが楽しい。

いたずらと言ったら言葉が悪いけど、そういう考えはある。

—いたずらと言えば、新宿の別の刑事に言及するシーンもありました。

あったっけ。そんなの。

—「展覧会の絵」のバーのシーンですよ(笑)

はいはい。それはそうだ。「展覧会の絵」は確かに鮫島と晶がデートに使っているバーだったから。忘れてたね(笑)

あんまりやると楽屋落ちかよってシラけられちゃうけど、ずっと俺の作品を読んでくれている人たちには、ちょっとサービスという感じはありますよ。

(2に続く)

写真/庄嶋與志秀

大沢在昌『冬の狩人』

3年前にH県で発生した未解決殺人事件、「冬湖楼事件」。行方不明だった重要参考人からH県警にメールが届く。新宿署の刑事・佐江の護衛があれば、出頭するというのだ。だが県警の調べで、佐江は辞表を提出していることが判明。そんな所轄違いの刑事を“重参"はなぜ指名したのか?

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冬の狩人

累計230万部を超える大人気「狩人」シリーズ!! その最新作『冬の狩人』を紹介します! 3年前にH県で発生した未解決殺人事件。行方不明だった重要参考人からH県警にメールが届く。新宿署の刑事・佐江の護衛があれば出頭するというのだ。だがH県警の調べで佐江は、すでに辞表を提出していることが判明。“重参"はなぜ、そんな所轄違いで引退間近の男を指名したのか? H県警捜査一課の新米刑事・川村に、佐江の行動確認が命じられた――。

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大沢在昌 作家

1956年、愛知県名古屋市生まれ。79年『感傷の街角』で小説推理新人賞を受賞しデビュー。91年に『新宿鮫』で吉川英治文学新人賞と日本推理作家協会賞長編部門を受賞。94年『無間人形 新宿鮫IV』で直木賞、2014年に『海と月の迷路』で吉川英治文学賞を受賞する。その他に『北の狩人』『砂の狩人』『黒の狩人』『雨の狩人』『漂砂の塔』『帰去来』『暗約領域 新宿鮫Ⅺ』など著書多数。(著者近影:塔下智士)

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