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アルテイシアの熟女入門

2020.07.01 更新 ツイート

「渡部の件は不倫問題じゃない」と考えるJJの願いアルテイシア

無理な駆けこみ乗車をしなくなる、これもJJ(熟女)あるあるの1つだ。

中年が無理な駆けこみ乗車をしようとすると、足がもつれて転んだり、電車の扉に挟まったり、電車とホームの間に落ちたりと、命がいくつあっても足りない。

駅の階段を降りる時も手すりにつかまり、そろりそろりと降りている。一段飛ばしで駆け降りていたのは、前前前世のように遠い記憶だ。

80年代にビートたけしの「赤信号、みんなで渡れば怖くない」が流行語になったが、「青信号、点滅しだしたら渡らない」がJJ界の掟である。

44歳の拙者は「注意一秒怪我一生」を座右の銘に、危険を回避して生きている。

 

危険と言えば、小学生の時に男子たちが「高いところから飛び降りる」という根性試しをやっていて、怪我や事故につながると先生に怒られていた。

また「カンチョー!!」とやって、人差し指を骨折した男子を2名知っている。
他人の肛門に指を突きさすなど性的嫌がらせだし、大人がやったら首をへし折られても文句は言えない。

「こんなことできる俺、スゲーだろ!」と競い合う男子を「バカじゃないの?」と女子は冷めた目で見ていた。

男の中で「男らしさ」や「強さ」をアピールしたい、男同士の競争に勝ちたい。
そんなジェンダーの呪いやホモソーシャルな価値観が、あんな幼い頃からあったんだなあと思う。

アンジャッシュ渡部が複数の女性と不倫関係を持っていたニュースを見て、そのことが頭に浮かんだ。

最初は「ワンオペ育児する妻と不倫夫」案件だと思って「貴様には地獄すら生ぬるい!」とケンシロウ顔になったが、「多目的トイレで性行為して、3~5分で解散」という内容に「これは不倫なのか??」とハテナ顔になった。

絶対バレたくなければトイレを選ぶだろうか? もっと安全な方法はいくらでもあるだろう。

彼の潜在意識の中には「こんなことできる俺、スゲーだろ!」という思いがあったんじゃないか。

世間は「失うものの大きさをわかってなかったのか」「渡部ってバカじゃないの?」と呆れているが、彼は失うものの大きさをわかっていたからこそ、その危険な行為にハマっていたんじゃないか。

昔、某男性芸人が「駅弁スタイルでホテルの部屋から出て、廊下にある監視カメラに向かって腰をふります(笑)」とインタビューで話していた。

その彼も中年になって「良き夫かつ父親キャラ」で売っていたが、数年前に不倫報道が出て謝罪していた。

逸脱した性行為を「武勇伝」「ヤンチャ自慢」として語る男性は多い。

私が中学生の時もテレビで男性芸人が「先輩と乱交するためにカキタレを呼んだ」みたいな話をして、周りの男性芸人たちも笑いながら聞いていた。

私はお笑い大好き少女だったが「笑えないし、気持ち悪いな」と感じていた。女性をモノ扱いするセックスに嫌悪感を抱いたのだろう。

それから30年の月日が流れ、ミソジニーとホモソーシャルを煮詰めたお笑いの世界は「見たくないもの」になった。
という話を前回『ナイナイ岡村やおじさん芸人にJJが伝えたいこと』でも書いた。

新地の高級クラブで働いていた女子から「一番タチの悪い客はお笑い芸人の集団でした」と聞いたことがある。

彼らはホステスさんのストッキングを破ったり、グラスにチンポを突っ込んだりして、盛り上がるそうだ。「どれだけ女にひどいことをできるか、男同士で競い合うんですよ」と彼女。

それはいじめの加害者が集団リンチしながら笑う姿と似ている。

弱い者を踏みつける笑いなんて見たくないから、私はテレビをつけなくなった。そんなのは娯楽じゃなく、ただの暴力だ。

渡部の件についても、あれは不倫問題じゃなく、性暴力の観点から考えた方がいいのでは? と思う。

「多目的トイレで性行為して3~5分で解散」、そんなのはセックスと呼べないし、デートDVや性暴力に近いものを感じる。

そんないともたやすく行われるえげつない行為をされたら「スピードはあるが持続力のないスタンド能力だな」と分析するのではなく、自分は道具にされたと感じるだろう。

「愛人」ですらない、人じゃなくモノとして扱われた屈辱感から、彼女らは告発に及んだのだと思う。

「女の方もわかってやってたんだろ」と非難の声が上がっているが、人には感情がある。

尊厳を傷つけられた女性が、良き夫かつ父親キャラとしてメディアに出ている渡部を見たら、復讐したくもなるわいな……と想像する我である。

私も20代前半、10歳年上のクリエイターに夢中になって、発射後即解散プレイの相手をさせられた。

強要じゃなく合意はあったが、あんなプレイはしたくなかった。でも完全に上下関係ができていたため、イヤだと言えなかった。
もし今同じ行為をされたら睾丸を爆破するが、当時は拒否できない心理状態だったのだ。

それで飽きたらゴミのように捨てられて「私、ゴミじゃないのに人なのに……いやひょっとしてゴミだった? 人がゴミのようだ??」とメガネがパリーンするぐらい傷ついた。

振られたことじゃなく、尊厳を踏みにじられた屈辱感から、「あいつが平気で生きてるのが許せない……復讐するは我にあり!!」と頭に懐中電灯を巻きつけた。

私にウンコを爆弾に変えるスタンド能力があれば爆殺していたが、普通のウンコしか出せないので、彼をネタにしたコラムを通算30本ぐらい書いた。それで「元は取れた!!」と昇華できたのである。

それでも、尊厳を傷つけられた恨みは一生消えない。ネットのインタビュー等で彼の健在な姿を見ると「てめえに今日を生きる資格はねえ!!」とケンシロウ顔になる。

男の言う「上手な遊び方をしろ」とは「女を傷つけて恨まれるようなことはするな」という意味だ。それこそ性欲を解消したいだけなら、もっとリスクの低い手段はいくらでもある。

渡部の場合は女性を傷つけること、虐げて支配することが目的だったんじゃないか。その歪んだ欲望を満たすことに依存していたんじゃないか。

 

性加害者の再犯防止プログラムに携わる斉藤章佳氏の著書『男が痴漢になる理由』には、次のような文章がある。

『彼らにとって痴漢行為は“生きがい”なのです。(略)その性的逸脱行為に耽溺し、自分より弱い存在を虐げることで、支配欲や征服欲を満たしてきたのです』

『いじめによって得られるそれと似ていて、相手への支配欲や征服欲が満たされること、あるいは達成感が得られること、ストレス発散ができることなどです。痴漢行為は加害者にとって非常に“得るもの”が大きい行為でもあるのです』

斉藤氏は『(すべての性暴力は)そこに性欲の発動があったとしても、根底には必ず支配欲があります』と繰り返し、『痴漢は、男性優位社会の産物です』と分析する。

『日本以外でも、男女間のジェンダー差が大きい国ほど性犯罪が多いことがわかっています。男性社会が改めていかなければならないこの罪深き、そして悪しき慣習を、痴漢は無意識のうちに利用しているのです』

『社会から男尊女卑の概念がなくならないかぎり、そこにある認知の歪みも是正されることはなく、性暴力加害者は再生産され続けます』

斉藤氏は(痴漢は再犯率がずば抜けて高いことからも)、加害者に罰を与えるだけでは効果的ではなく、再犯防止を狙いとした治療が必要だという。

『ただやみくもに反省の手紙を書かせ、土下座をくり返させるだけでは、再犯防止につながらない』

『「男性と女性は対等である」「女性を下位の存在として、支配してはいけない」という新たな価値観を自分の力で獲得していくのです。(略)男性がこうして学び直していかないと現代社会の秩序は守られません』

渡部の行為は犯罪ではないが、女好きとか性欲ゴリラとか、そんな言葉で済まされるものじゃないと思う。

性を使って女を支配したい。それによって「男らしい、強い男だ」と証明したい。
そんな欲求を無意識に抱えていたのかも? と、本人が己の心と向き合うべきだろう。

インセル問題も「女をモノにできない自分は、男社会で男として認められない」という劣等感から女を逆恨みする、ホモソーシャルの産物だ。(インセル/恋人や性愛のパートナーがいない原因を女性に押し付け、女性嫌悪を募らせている異性愛の男性)

男社会におけるミソジニーとホモソーシャルが、女性への加害につながっている。その典型的な例が、リアルナンパアカデミーの集団準強姦事件だろう。

7人の逮捕者を出した当事件の記事によると、塾生たちはナンパした相手との性交回数をLINEグループで共有し、競い合っていたそうだ。

女性とセックスすることよりも、仲間から称賛を集めること、男同士の勝負に勝つことが目的になっていたという。

塾生は「(塾長の指示に従わなければ)村八分にされると思った」と話し、塾長はミソジニー丸出しの発言を繰り返していた。

吐き気をもよおす邪悪とはッ!! とチンポをバラバラにしたいが、私にブチャラティのようなスタンド能力はないので、こうしてコラムに書いている。

前回コラムで『問題を起こした芸能人に必要なのは謝罪や処罰よりも、人権教育とカウンセリングだと思う』と書いた。

『(ナイナイ岡村1人を)降板処分にしても、あまり意味がないと思うのだ。それよりも性暴力や性差別について学んで、今後、発信していってほしい。その発信は、私のコラムの2兆倍は効果があると思うから』

渡部の件についても、ジェンダーや男性優位社会の問題として論じるべきではないか。告発した女性を責めたところで、世の中は何も変わらない。

かくいう私も女子会で不倫のニュースをネタにして、「杏ちゃんかわいそう」「東出の血は何色だ?」「杏ちゃんの育児を手伝いたい」と好き勝手に話している。

そしてきっと、半年後には忘れている。その頃にはまた新たな不倫のニュースが出ているだろうし。

そうやってただ消費するだけじゃなく、その根っこにある問題について議論したい、と1人の作家としては思うのだ。

『ボーイズ 男の子はなぜ「男らしく」育つのか』には、以下の文章がある。

『若い男性たちのあいだで(略)支配的でタフな男らしさを体現しようとする傾向は、うつ、薬物乱用、いじめ加害、非行、危険な性行為、性的満足度の低さ、パートナーへの虐待などと関連付けられている』

『逆に、男らしさのルールに同調しない男の子たちや、その基準を充分に満たせない、あるいは満たそうとしない男の子たちも、いじめのターゲットになったり、ばかにされたり、排斥されたりというリスクを負う』

こうした男らしさの呪いをとく鍵は、包括的性教育にあるという。

愛情や親密性の育みを大事にする性教育によって、『男の子たちは、楽しいセックスと健康的な恋愛関係は支配とコントロールではなく、敬意と双方の充足感から生まれるのだという意識をもつようになる』そうだ。

オランダなどの国々では、こうした性教育の成果が出ているらしい。

世界一進んだ性教育をしているオランダでは「初性交年齢が高く、十代の出産中絶率も低い」というデータもある。

正しい性知識を教えることで、子どもたちは自分を守れるようになるのだ。

一方のヘルジャパンでは「性知識を教えると性が乱れる」「寝た子を起こすな」と思考停止していて、国が子どもを守る気がない。

「恋人同士でも同意のない性交はレイプ」という基本すら教えず、「男には性欲があるから」と加害者を擁護して、「酔っ払った女が悪い」「ハニートラップでは?」と被害者を責める風潮が強い。

それでは斉藤氏が言うように、性暴力加害者は再生産され続けるだろう。

『父親を殺した犯人は誰だ?』に書いたが、自殺したうちの父親は男らしさの害をじっくりコトコト煮詰めたようなおっさんだった。

子どもの頃、私は父に胸や尻を触られていて、「あれは性加害だったのか」と大人になってから気づいた。
似たような話を複数の女性から聞いたが、子どもは正しい知識を教えてもらわないとわからないのだ。

それどころか、テレビで男性芸人が「幼い娘と風呂に入った時にあそこをイジった」と笑いながら話すのを見て、「父親ってそういうものなんだ」と刷り込まれた。

こうした刷り込みは、今も日常の些細な言葉に潜んでいる。

たとえば「できる男は浮気する」「浮気は男の甲斐性」といった言葉も「モノにした女の数=男の価値」という男社会の発想だろう。

ちなみに『できる男はウンコがデカい』『できる男は超小食』という本を見たことがあるが、超小食でどうやってデカいウンコを出すのか? あとJJが無理にデカいウンコを出そうとすると、脳の血管が切れるので注意しよう。

なんの話をしてたんやっけ? もJJの口癖だが、ウンコウンコ言ってる拙者も44歳の大人である。

私は大人として子どもを守りたいし、全ての人が安心して暮らせる社会に変えていきたい。それが大人の責任だと思うから。

以上が拙者の考えなので、渡部を罰したいとか、人力舎にナマハゲを送りこみたいとか思ってない。

むしろ義によっては助太刀いたす。とまでは言えないが、彼が適切な教育やカウンセリングにつながることを願っている。

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生涯のパートナーを求めて七転八倒しオタク格闘家と友情結婚。これで落ち着くかと思いきや、母の変死、父の自殺、弟の失踪、借金騒動、子宮摘出と波乱だらけ。でも「オナラのできない家は滅びる!」と叫ぶ変人だけどタフで優しい夫のおかげで毒親の呪いから脱出。楽しく生きられるようになった著者による不謹慎だけど大爆笑の人生賛歌エッセイ。

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人生いろいろ、四十路もいろいろ。大人気恋愛コラムニスト・アルテイシアが自身の熟女ライフをぶっちゃけトークいたします!

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アルテイシア

神戸生まれ。現在の夫であるオタク格闘家との出会いから結婚までを綴った『59番目のプロポーズ』で作家デビュー。 同作は話題となり英国『TIME』など海外メディアでも特集され、TVドラマ化・漫画化もされた。 著書に『続59番目のプロポーズ』『恋愛格闘家』『もろだしガールズトーク』『草食系男子に恋すれば』『モタク』『オクテ男子のための恋愛ゼミナール』『オクテ男子愛され講座』『恋愛とセックスで幸せになる 官能女子養成講座』『オクテ女子のための恋愛基礎講座』『アルテイシアの夜の女子会』など。最新作は『40歳を過ぎたら生きるのがラクになった』がある。 ペンネームはガンダムの登場人物「セイラ・マス」の本名に由来。好きな言葉は「人としての仁義」。

twitter : @artesia59

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