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つらいことから書いてみようか

2020.07.16 更新 ツイート

視・聴・嗅・触・味…「五感」を駆使するのが文章のコツ近藤勝重

メール、チャット、SNSなどの普及で、以前より「書く力」が求められるようになりました。何をどのように書けば、相手にきちんと伝わるのか。そして、相手の心を動かすことができるのか。そんなお悩みに優しく寄り添ってくれるのが、「魔法の授業」と呼ばれた90分を完全収録した『つらいことから書いてみようか』です。名コラムニストが、小学校5年生に語った文章の心得とは? 大人が読んでもためになる本書を一部、ご紹介します。

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「いい文章」はこうして生まれる

僕がときどきお母さん方から相談を受けるのは、みなさんの夏休みの日記についてです。

(写真:iStock.com/Wpadington)

子どもの日記を読んだら、「プールへ行って楽しかったです」としか書いていない。どういうふうに教えたらいいんですか、といった相談がけっこう多いんですね。

「きょうは○○へ行きました」とか、「お父さんと○○に行って楽しかったです」で終わりというわけです。

みんなはどうなんだろう。そんな日記、書いていませんか? お母さん方にはこう言っています。目で見て感じたこと。耳で聞いて感じたこと。鼻でにおって感じたこと。ふれて感じたこと。味わって感じたこと。つまり五感、五つの感じを一つ一つ聞いていったらどうですかって。

プールに行って楽しかったと書いているのなら、「プールにはどのくらい人がいたの?」と聞けば、その子からは目で見たとおりの答えが返ってくるはずです。君たちだったら「ちょっと泳いだだけで人にぶつかったよ」とか、「泳ぐところなんてないほどだった」とか答えるかもしれないよね。

耳はどうだろう。「みんな、わーわー言ってたでしょ」とお母さんに尋ねられれば、「バシャバシャ水しぶきもすごいし、近くに寄らないと、友だちが何言ってるのかぜんぜん聞こえなかったよ」なんて、答えるかもしれない。

次に鼻。これはプールの水のにおいや、まわりにお店があればそこから漂ってくるにおい。そして、ふれて感じたことは、水が肌にあたった感触とか、人と肌がふれたときの感じとかね。

「味」は、うっかり飲んじゃったプールの水の味でもいいし、泳いだ後に食べた食べ物の味でもいいよね。

そういうことを書いていけば、「プールに行って楽しかったです」だけじゃすまないでしょ。みんなはお父さんやお母さんに、そんな一つ一つのことを聞かれなくても、そうだ、五感、五つの感じがどうだったかって、思い出しながら書けるよね。

それからみんなにもう一点、言っておきたいことがあります。こういうことです。

まわりを視て、自分の心がどう動いているかを見る。まわりの音を聴いて、ドキドキしている自分の心の音を聞く。まわりにふれて、自分の心に感じたことを確かめてみる。つまり五感は自分を自覚するためのものでもあるのです。においや味も当然、自分自身とかかわります。

そのことを念頭に置いて、五感を生き生きと働かせてくださいね。

「どう思ったか」を書くのは難しい

うなずく子どもたちを見つつ、ふと気になったことがあります。それは「○○へ行きました。楽しかったです」という日記を見て、子どもにこう聞くお母さん方が多いことです。

(写真:iStock.com/metamorworks)

「思ったこと、もっとあるでしょ。ほかにどう思ったの」

あまりあっさりしていると、ほかにどう思ったの? と親が聞きたくなるのも無理はありません。

でもこの質問への答えは難しいんです。なぜかと言いますと、思うというのは胸の中での判断ですから、言葉に表しにくいのです。

僕自身も文章を書いていて、ふと手が止まるのはどう思ったかと自問するときです。

藤沢周平氏のエッセイ集『ふるさとへ廻る六部は』の中に「さまざまな夏の音」と題した文章が収められています。

「盆踊り歌や太鼓の音を聞くと、いまも気持が浮き立つ」とあって、続けて「なにか非常に原始的な情緒をゆり動かされるような気がする」と氏は思ったことに少しふれています。

「遠い町の盆踊りの音」については「私はそのかすかなざわめきに耳を傾けながら、もうけものをしたような、小さな幸福感に心を満たされている」と書いています。

なるほど、こういうぐあいに書けばいいのかと参考にはなりますが、言葉で書いて読み手にわかってもらうとなると、かなりの筆力がいるような気がします。

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近藤勝重『つらいことから書いてみようか 名コラムニストが小学5年生に語った文章の心得』

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つらいことから書いてみようか

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近藤勝重 コラムニスト、ジャーナリスト

近藤勝重(こんどう・かつしげ) 早稲田大学政治経済学部卒業後の1969年毎日新聞社に入社。論説委員、「サンデー毎日」編集長、専門編集委員などを歴任。毎日新聞(大阪)では大人気企画「近藤流健康川柳」の選者を務めている。10万部突破のベストセラー『書くことが思いつかない人のための文章教室』ほか、『必ず書ける「3つが基本」の文章術』(ともに幻冬舎新書)など著書多数。毎日新聞夕刊に長年連載してきたコラムや著書の一部が中学校の教科書(道徳)や灘中学校をはじめ中高一貫校の国語の入試問題に使用されるなど、わかりやすく端正な文章には定評がある。MBSラジオ「しあわせの五・七・五」にレギュラー出演中。

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