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つらいことから書いてみようか

2020.07.17 公開 ツイート

書くことが思いつかない人は「つらい体験」を書いてみよう 近藤勝重

メール、チャット、SNSなどの普及で、以前より「書く力」が求められるようになりました。何をどのように書けば、相手にきちんと伝わるのか。そして、相手の心を動かすことができるのか。そんなお悩みに優しく寄り添ってくれるのが、「魔法の授業」と呼ばれた90分を完全収録した『つらいことから書いてみようか』です。名コラムニストが、小学校5年生に語った文章の心得とは? 大人が読んでもためになる本書を一部、ご紹介します。

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みんな「誰にも書けないこと」を持っている

これまでの話で体験っていうことが文章を書くうえで、とても大切だということがわかってもらえたかと思いますが、それでは良い文章って何だろう。どんな文章なんだろうか、考えたいと思います。

(写真:iStock.com/shironosov)

よく言われているのは「誰にも書けないことを誰にもわかるように書く」ということです。でもそんなの難しいって、みんな思うよね。

それに誰にも書けないことって何だろう。そんなもの、あるかなって、みんな思っているんじゃない?

ちょっと聞いてみます。あるよって人? ……おお、すごい。そんなにありますか、誰にも書けないことが。楽しみだなあ。

それじゃ、私には誰にも書けないことなんかありませーん、持っていませーんって人? ……あっ、いますね、何人か。はい、ありがとう。

実はね、みんなは誰にも書けないことをたくさん持っているんですよ。どういうことかと言いますと、みんな毎日いろんな体験をしているからです。

テレビを見る。ゲームをする。学校への道端で目にしたこと、耳にしたこと、すべて体験です。

でもみんな、こんなことを思うかもしれないな。例えば学校からの帰りに見たものといっても、友だちと一緒だったから自分だけの体験じゃない。誰にも書けないことじゃないって。

テレビのドラマだって友だちも見てるはずだし、みんなゲームもやってるしって。

でも、そう思うのは間違いです。どんなテレビのドラマや映画を見ても、どんな風景を見ても、A君とB君の思うことや感じ方は違います

A君はこう思ったけど、B君はそれとは別のことを思っていた。C君も一緒にいたけど、感じ取っていたことはA君、B君と同じじゃなかった。同じ体験をしても、一人ひとり受け止め方は違うんですね。

そうすると、自分の体験したことを書けば、たとえ友だちと一緒でも自分にしか書けないことが書けるわけです。つまり、体験に基づけば誰にも書けないことが書けるってことになる。わかる? わかりますね。

「相手に伝わる文章」のコツ

それじゃみんなはどういう体験だったら書きたいのか、また書きやすいのか。どうなんだろう。やっぱり胸がどきどきしたことなんか書きたいんじゃないかな。

(写真:iStock.com/itakayuki)

大好きな嵐のニノと握手できたとか、ですね。あるいは、サッカーや野球の試合をして、勝っていっぱい笑ったとか、負けていっぱい泣いたとか。

友だちと大げんかした。お母さんに叱られてとってもつらかった。こういう体験は忘れようにも忘れられないよね。必ず頭の中に残っているもんです。

脳の働きで説明すると、おでこの部分の前頭葉というところから、こういう体験の記憶が必要だと信号が送られると、側頭葉というところに蓄えられている記憶からその体験が引き出されてくる。ずっと残っている体験を長期記憶と言いますが、それは文章を生む竹林の土の中に保存されていると考えていいんですね。

実はきょう、みんなにつらい体験から書いてもらおうと思っています。書く以上は正直に書いてくださいね。そして誰にもわかるように、ということをぜひ心がけてください。

自分のつらい体験を文章に書く。それは一つの作品です。作品となると、書かれたものがみんなにちゃんと伝わり、よくわかってもらえるということ。それが大切なんですよ。

それではどう書けばつらい体験がみんなにわかってもらえるんだろうか。つらい。つらいと思うんだから、きっと理由がある。

でもつらいと書いただけではどうつらいのか、なぜつらいのかがわからない。A君の「つらい」とB君の「つらい」は「つらい」という言葉は同じでも、その理由は違うわけだからね。

わかるように書くにはつらいときの様子を描写する。それが一番よく伝わるんです。つらいという単なる思いや感想だけじゃ伝わりません。わかってもらえません。その場の様子と一緒に、その場で得られた印象、つまり自分の心に深く刻まれたことなどを具体的に書けば、つらい理由がわかってもらえるんですね。

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つらいことから書いてみようか

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近藤勝重 コラムニスト、ジャーナリスト

毎日新聞客員編集委員。早稲田大学政治経済学部卒業後の1969年毎日新聞社に入社。論説委員、「サンデー毎日」編集長、夕刊編集長、専門編集委員などを歴任。毎日新聞(大阪)の大人気企画「近藤流健康川柳」や「サンデー毎日」の「ラブ YOU 川柳」の選者を務め、選評コラムを書いている。10万部突破のベストセラー『書くことが思いつかない人のための文章教室』、『必ず書ける「3つが基本」の文章術』(ともに幻冬舎新書)など著書多数。長年MBS、TBSラジオの情報番組に出演する一方、早稲田大学大学院政治学研究科のジャーナリズムコースで「文章表現」を担当してきた。MBSラジオ「しあわせの五・七・五」などにレギュラー出演中。

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