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絵になる子育てなんかない

2020.08.26 更新 ツイート

#1 「子育て」を苦しいものにしない考え方 小島慶子/養老孟司

産院選びから始まり、幼児教育、お受験、仕事との両立、義理の両親とのつき合い……。「失敗は許されない」というプレッシャーに追いつめられているお母さんは多いはず。その心を軽くしてくれるのが、解剖学者の養老孟司さんとフリーアナウンサーの小島慶子さんによる対談集、『絵になる子育てなんかない』です。お二人が子育てについてさまざまな角度から語り合った本書より、一部をご紹介します。

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子どもと文明社会は折り合わない

小島 私は三〇歳で初めて出産しましたが、実際に子どもを産んでみたら、子育ての先輩や私の親世代の方たちからのアドバイスがとても息苦しくて、戸惑ったんです。

(写真:iStock.com/takasuu)

それは実は産む前から始まっていて、例えば、まず、どの産院を選ぶか。いざ産まれたら今度は、幼児教育をどうするか、どの学校に入れるか、習いごとは何をやらせるか。まるであらゆる選択において常に「正解」を選び続けない限り、子育ては失敗するのだと言わんばかりのアドバイスばかりでした。

母親は子どもが生まれた途端、これから先は一歩も間違えてはいけないというプレッシャーにさらされる。どうしてこんなに苦しい子育てになってしまうんでしょう?

養老 だって、子どもをこうしよう、ああしようというのは、人が考えること、すなわち「意識」でしょ。その意識というのはいつごろ生まれたものなのか。

地球の歴史が四六億年と言われています。恐竜が出現したのが約一億年前。恐竜も子育てしていたかもしれないけれど、それはいくらなんでも古過ぎるだろうというのなら、恐竜が滅びたのが六〇〇〇万年以上前で、その後、哺乳類の時代になる。哺乳類はずっと子どもを育ててきました。

小島 子育ては一億年、少なくとも六〇〇〇万年前から始まっているんですね。

養老 そうです。われわれホモ・サピエンスの発生は二五万年前。現在のヒトが登場しました。「意識」というものができたのもそのころです。

六〇〇〇万年以上やっている「子育て」を、たかだか二五万年前にできた「意識」でどうにかコントロールしようにも、そんなことできるはずもないんです。

ヒトは遅れてやってきたのに、万物の霊長だなんて言って一番偉いと思っているでしょ。あたかも当然であるかのごとく大先輩たる自然を破壊し、コントロールしようとする。これはヒトの脳が生み出した「意識」というものの悪いクセです。現在の文明社会・都市社会なんてまさに、アタマで考えてつくったものですね。

そもそも意識というものは身体より後から生じたものですから、ヒトは身体が基盤、すなわち自然が基盤なんです。子どもは典型的な「自然」です。子どもは現代社会のような、意識がつくった設計図のとおりにできたものではない。

こういう子どもをつくりたいと思ってもできないんです。六〇〇〇万年前から設計図なしにできて、育っているんです。それを、「こう育てればこうなる」と意識で思っているなんて間違い。そんなものは文明社会・都市社会のただの思いこみですよ。

子どもの世界と現代社会はどうしても折り合わないんです。

育児が「趣味」のように扱われている

小島 妊娠したら急に、街なかにいる母子や子どもたちの姿が目に入ってくるようになって、子育てをするうちに、日本では子どもは親の私有財産扱いなんだなということも感じました。

(写真:iStock.com/itakayuki)

養老 そうなんですよ。

小島 とくに働きながら子どもを持ってみて気づいたのが、育児が「趣味」みたいに扱われているということです。会社を休むとき、「子どもが病気なので休みます」は「ダイビングの免許を取るので休みます」というのと同じ。お前の持ち物の不都合で会社を休むとは、どういうことだよ、という考え方がまかり通っている。お前が好きでセックスしてつくって、好きで子育てしているんだろ、と言わんばかり。

企業の理屈に合わないということなのか、とにかくすべて個人のわがままということになってしまうんです。

養老 この問題も奥が深いですよ。たしかに日本では子どもは母親の一部なんです。それは中絶問題を考えたらわかります。鎌倉の長谷寺の階段を上がっていくと踊り場のようなところがあって、そこは一面、水子地蔵だらけです。

そこに外国人を連れていって地蔵の説明をすると、みなショックを受けて十分以上黙りこんでしまいます。キリスト教圏でもイスラム教圏でもあれだけ問題になる人工中絶が、日本では一切問題になっていない。なぜ倫理問題にならないのか。

それは日本人自身も気づいていないと思いますが、要するに、日本では胎児は母親の身体の一部なんです。だから、自分の身体をどうしようが自分の勝手だろうという考えが根底にあるんですよ。

しかも胎児だけでなく、生まれた子どもも母親の一部なんですね。だから母子心中はアメリカでは普通の殺人より重い罪になりますが、日本では悲劇として涙を誘います。こういう特殊な日本の社会の構造を指摘したのが歴史家の故・阿部謹也さんでした。

関連書籍

養老孟司/小島慶子『絵になる子育てなんかない』

育児休業中に「子どもは自然。大人の思いどおりになんかならない。子育ては田んぼの手入れのようなもの」という養老先生の子育て論に感激し、「先生と子育ての本を出したいんです」と、養老先生の自宅に押しかけた小島慶子さん。それから8年が経ち、ついに念願の対談が実現。理想の子育て像に縛られて自分を追い詰めてしまうイマドキのお母さんたちに、モノにもお金にも学歴にも会社にも頼らない、親と子のあたらしい幸せを提案します。

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絵になる子育てなんかない

産院選びから始まり、幼児教育、お受験、仕事との両立、義理の両親とのつき合い……。「失敗は許されない」というプレッシャーに追いつめられているお母さんは、きっと多いはず。その心を軽くしてくれるのが、解剖学者の養老孟司さんとフリーアナウンサーの小島慶子さんによる対談集、『絵になる子育てなんかない』です。お二人が子育てについてさまざまな角度から語り合った本書より、一部をご紹介します。

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小島慶子

1972年オーストラリア生まれ。エッセイスト、タレント。学習院大学を卒業後、1995年TBSに入社。アナウンサーとしてテレビ・ラジオに出演。1999年第36回ギャラクシーDJパーソナリティ賞を受賞。2010年退社。テレビ・ラジオ出演、連載多数。著書に『女たちの武装解除』『解縛(げばく)〜しんどい親から自由になる』などがある。

養老孟司

1937年、神奈川県生まれ。東京大学医学部卒業。専攻は解剖学。東京大学名誉教授。2003年に刊行された『バカの壁』(新潮新書)は400万部を超えるベストセラーに。「脳」「身体」「自然」をキーワードに、現代人が見失った人間と社会の本質について思索を続ける。『養老孟司の大言論』(全3巻、新潮社)ほか著書多数。昆虫採集は幼少期以来のライフワーク。

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