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絵になる子育てなんかない

2020.08.29 公開 ツイート

#2「早期教育」はしょせん抜け駆けの不毛な競争 小島慶子/養老孟司

産院選びから始まり、幼児教育、お受験、仕事との両立、義理の両親とのつき合い……。「失敗は許されない」というプレッシャーに追いつめられているお母さんは多いはず。その心を軽くしてくれるのが、解剖学者の養老孟司さんとフリーアナウンサーの小島慶子さんによる対談集、『絵になる子育てなんかない』です。お二人が子育てについてさまざまな角度から語り合った本書より、一部をご紹介します。

*   *   *

「英語教育」は本当に必要か?

小島 小さいうちから、ネイティブみたいに、英語で発想をさせようとするより、日本語できちんと考えられるようになっておいたほうがいいですね。

(写真:iStock.com/taka4332)

養老 私の同級生にもアメリカに行ったきり帰ってこないやつが何人もいますけれど、そうしたいんだったら、それは結局バイリンガルではないでしょう。アメリカ人になっているわけだから。それはあまり意味がない。アメリカ人なら日本人よりたくさんいますから(笑)。

小島 自分の子どもをアメリカ人にしたいと思うんだったら別だけど(笑)。

養老 うん。それならそれで別に止めやしませんけど。

何か本当に世界に役立つようなことをしたら、日本語だろうが何だろうが、向こうが勝手に翻訳してくれますよ。そこに至る前に、一生懸命英語で紹介する必要なんかないです。

小島 言語が違っても、価値のあるものには、向こうからやってくるわけですよね。例えば日本には世界シェア七割なんていう町工場がたくさんある。それこそが真のインターナショナルですね。

養老 だからインターナショナルだのグローバルだのと言われても、私には実感が伴わない。

小島 日本では外国人に仲間に入れてもらえているというのがインターナショナル、グローバルだと思われている。

養老 あいつら、仲間なんかじゃないのにね。私が普通に親しくできるのはC・W・ニコルさんみたいな人ですよ。自分でウェールズ系日本人だと言って威張っていますけど、完全に日本人ですよね。彼はほかの外国人のことはフライ人呼ばわりしています。

小島 フライ人?

養老 震災の後、飛行機に乗って母国に逃げちゃった人。

小島 ああ、なるほど(笑)。

「何の得にもならない」と親が理解する

養老 一生懸命英語を習わせたり、受験教育を受けさせたりして、なんとか子どもを東大に入れたとする。しかし、私が東大で学生を相手にしていたとき、東大合格者の数をやたらと伸ばしている新興の進学校から入学した学生というのは、要注意だったんです。五月病になるのはそういう学生でした。

(写真:iStock.com/jaimax)

高校としては合格率を上げたいので、徹底的に受験勉強させて無理やり押しこんでくる。それをやられてしまうと、合格させた大学も入った学生も困るんです。学生がすぐ授業についていけなくなってしまう。

そもそも入試って、全員が同じように怠けたら結果は同じなんですよ。自分が勉強したら他人を出し抜けるかもという欲があるから、誰かが受験勉強する。そうすると誰もが同じことをするから、横並び一線で全体が上がって、結果は同じ。いつまでたってもこの繰り返しです。

早期教育なんていう、いわば抜け駆けをしてみたところで、長い目で見れば結果は同じ。何の得にもならない。親がみんなそう理解すれば、受験なんかちっとも大変でなくなるんですけどね。

小島 先生、その「抜け駆け」という表現は、言い得て妙ですね。

養老 東大の入試では、同級生の受験票を二枚預かって、それを川に捨てた受験生がいましたよ。

小島 ライバルを二人だけでも減らそうとしたんですか。

養老 そんな事件、よく起こるんですよ。その受験生が悪いというよりも、子どもをそういう状況に追いこんでしまうことが問題なんです。

小島 私は早期英才教育、お受験対策というものに対して違和感が強いんです。自分も中学受験を経験していながら、親になってみたら疑問がわいてきて。

先日、本屋さんで小学校四年生と思われる男の子が、時事問題から基礎教科まで、持ちきれないほどの問題集を買っているのを見かけたんです。こんな小さな子は、まだ鼻たらしてジャングルジムから落ちたりしているぐらいでちょうどいいだろうに、これをやるのか、そんなことは中学、高校になってからやればそれで十分なのに、と思いながら見ていました。

そうやって早くから英才教育を施していい学校に入れるべく、子どもに集中してエネルギーを費やしている親からは、それが間違っているかのように言われるのは不当だ、理不尽だ、なんていう声も耳にします。

養老 ま、世の中というのは理不尽なものですからね(笑)。

小島 親のほうでは教育熱心な自分を褒めてもらいたいと思っているのに、非難されるのは心外なようです。

養老 褒められなくて当たり前だ。お前が勝手に産んだんだろう、産んだ以上、責任とれ、で終わりです(笑)。

関連書籍

養老孟司/小島慶子『絵になる子育てなんかない』

育児休業中に「子どもは自然。大人の思いどおりになんかならない。子育ては田んぼの手入れのようなもの」という養老先生の子育て論に感激し、「先生と子育ての本を出したいんです」と、養老先生の自宅に押しかけた小島慶子さん。それから8年が経ち、ついに念願の対談が実現。理想の子育て像に縛られて自分を追い詰めてしまうイマドキのお母さんたちに、モノにもお金にも学歴にも会社にも頼らない、親と子のあたらしい幸せを提案します。

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絵になる子育てなんかない

産院選びから始まり、幼児教育、お受験、仕事との両立、義理の両親とのつき合い……。「失敗は許されない」というプレッシャーに追いつめられているお母さんは、きっと多いはず。その心を軽くしてくれるのが、解剖学者の養老孟司さんとフリーアナウンサーの小島慶子さんによる対談集、『絵になる子育てなんかない』です。お二人が子育てについてさまざまな角度から語り合った本書より、一部をご紹介します。

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小島慶子

1972年オーストラリア生まれ。エッセイスト、タレント。学習院大学を卒業後、1995年TBSに入社。アナウンサーとしてテレビ・ラジオに出演。1999年第36回ギャラクシーDJパーソナリティ賞を受賞。2010年退社。テレビ・ラジオ出演、連載多数。著書に『女たちの武装解除』『解縛(げばく)〜しんどい親から自由になる』などがある。

養老孟司

1937年、神奈川県生まれ。東京大学医学部卒業。専攻は解剖学。東京大学名誉教授。2003年に刊行された『バカの壁』(新潮新書)は400万部を超えるベストセラーに。「脳」「身体」「自然」をキーワードに、現代人が見失った人間と社会の本質について思索を続ける。『養老孟司の大言論』(全3巻、新潮社)ほか著書多数。昆虫採集は幼少期以来のライフワーク。

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