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子供がずっと欲しかった

2021.06.21 公開 ツイート

事実婚を選んだのは、彼の「家」ではなく、「彼」と結婚したかったから【再掲】 はあちゅう

あらためて結婚を考える機会にしたい、「結婚って何?」特集。21日に公開されたはあちゅうさんのご寄稿文とあわせて読んでいただきたい2020年4月の記事を再掲にてお届けします。法律婚と事実婚に思うこと。

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先日公開された、「結婚はスタバのコーヒー、事実婚はドリンクバー」という記事も話題のはあちゅうさん。その裏にある気持ちをもう少し詳しく、4月16日に発売されたは新刊『子供がずっと欲しかった 事実婚妻が体験した妊娠・出産のこと、全部。』よりお届けします。

自分を包んでいた「普通」を疑うようになった

結婚ではなく事実婚を選んだ理由は、これまでにもインタビューなどでたくさん話してきたけれど、良い機会なので、改めて自分の言葉でまとめてみようと思います。

もともと私は、普通に結婚(法律婚)願望を持っていた割とコンサバな会社員だったのですが、それまでの自分の価値観のままでは付き合えなかった夫と付き合うようになってから、どんどん今まで自分を包んでいた「普通」を疑うようになっていきました。

私がそれまで「普通」や「世間の常識」だと思っていたものは、私がいた環境の平均値でしかないのです。その「普通」には「従うのが普通」という思考回路で育ってきて、その「普通」の選択が自分にとって、居心地の良いものなのか、疑問を持ったことさえもありませんでした。

彼と付き合って、反対側の立場から見た時に物事の基準はくるっと簡単に裏返ることを経験して(例えば、彼は職業柄世の中で下に見られてしまうことが多いと思っていたけれど、場所を変えれば、彼は男性たちのヒーローで、中には「恩人だ」と飛びついてくる人や泣き出す人もいます)、普通を疑うクセがつきました。

もちろんそれは時に、自分が育ってきた環境や価値観や経験の逆だったから容易なことではなかったけれど、大人になってから、一から大きな価値観の変化を体験できるなんてなかなかないので、彼と付き合うことで思考が自由になって本当に良かったと思います。

「事実婚」という言葉自体はずっと知っていましたが、ちゃんと調べたのは、彼の名前で不動産の審査が通らなかった時でした。現役A V 男優の彼は、マンションの賃貸契約の入居審査とクレジットカードの審査にめちゃくちゃ弱いのです。一度なんて、無職の友人と一緒にデパートで作れる無料のクレジットカードを作りに行って、友達は審査に受かったのに、夫は秒で落ちた……なんてこともありました。

20年以上のキャリアがある肩書が無職よりも弱い肩書だということで、彼は「ネタが出来た」なんて喜んでいたけど、この時、すでに彼と一生一緒にいたいと思っていた私は「私の社会的信用をある程度守っておかないと、将来困るなぁ」とひそかに思いました。

ちなみにAV業界の人がみんな、審査に落ちるわけではありません。AV女優さんの場合、住まいを事務所が借りてくれることもあるし、女優さんも男優さんもほとんどが芸名なので、そういう時は問題ないのです。審査担当の人も、「この人、AVに出てないか ? 」と思ったとしても、芸名と本名が違えば「気づかなかった」と建前が言えるので、審査を通してくれることが多いらしいです。

けれど、夫の場合は芸名のしみけんが本名を短縮しただけの呼び名ですし、顔もある程度知られているので、不動産担当者も「知らなかった」とは言えないらしいですね。

だから、私の名字も「清水」に変えると、もしかしたらこの先何かの手続きで不都合が出るかもしれない、と考えました。彼が、私の名字を名乗って本名を「伊藤健」にするのも良いかなと思ったりしたけれど、彼は清水という長年使い慣れた名字を気に入っているようですし、同時に名字ってそもそもなんで結婚で変えなくちゃいけないんだろう ?     という疑問が湧きました。

それに加えて、うちは親戚付き合いが濃いわけではなく、薄いからこそ、「どんな人がいるかわからない」という難点があり、彼が伊藤姓になった時、親戚の中で嫌なことを言ってくる人がいるかもしれない、という考えも浮かびました。そんな面倒な親戚がいるとは思えないけれど、血縁関係って、ちょっと自分の手に余るところがあって、「絶対」とは言いきれません。

昔、父親が家系図を見せてくれたことがありましたが、会ったことのないおばさんや、赤ちゃんの時に一回だけ会ったことがあるらしい、続柄の呼び名もよくわからぬ親戚などもいて、そのうちの誰かが夫の仕事を気に入らず気分を害したらそれはそれで嫌だな、と思いました。

また、妹はお付き合いをしていた人から「お姉さんが、AV 男優と結婚するなら、両親が心配するから、僕はあなたと結婚できない」と言われたこともあるそうです。親戚の結婚相手をそこまで気にする人もいるんですね。

念のため付け加えると、職業なんて法律をおかさない限り(反社会的勢力などでない限り)は本人の自由であり、家族はもちろん親戚に怒る権利はないと思います。だから、怒る人がいたとしたら、「そう思うほうが悪い ! おかしい !  」と言って無視するだけなのですが、それでも揉めごとって、煩わしいですよね。私が戦わなくちゃいけないのはもっと広い社会であって、親戚と争っている時間もパワーも、もったいないのです。

結婚というのは、結婚式などで親戚一同を招待するならわしからもわかるように、本人同士と同じくらい、家と家の結びつきであったりします。相手の親の介護が、妻に期待されたりするように、戸籍的に「家族ですよ」となったら、制度の中・外にかかわらず、あらゆる面で責任やら何やらが発生します。

私はそもそも、親戚付き合いも薄いし、両親は熟年離婚しているし、「私の結婚で親戚一同を集めたい」という願望も特になく、自分自身がどちらかというと、親戚付き合いをしたくない性格なので、結婚よりも事実婚のほうが向いていると思いました。

彼の家族が嫌いなわけではないけれど、彼が好きだからといって問答無用で、実質的に他人である彼の両親を好きになれるわけもありません。

私の幼い頃の記憶では、母が親戚に軽くいじめられたり、祖父の葬式に見たことのない親戚が怒鳴り込んできて、祖母が泣いていたり(未だに何があったのかわからないし聞けない)、なんだかんだ、ネガティブな記憶もたくさんあります。

自分の親・兄弟でさえ価値観が合わなかったり、喧嘩したりするのに、親戚となればもうお手上げです。たまに「相手の親戚ともうまくやっている円満な結婚」を目にすると、それはそれで「すごいなー ! 」とか「素敵だな」とは思います。無関係だったもの同士が、結びつき、特別な関係になるってすごいことですよね。

うまくいっているものを否定する 気は全くないのですが、でも、それが出来ない人だっているし、そうじゃないパターンも 世の中には溢れていると思うのです。私の知人は、姑を憎むあまり、その息子である旦那 にまで殺意を抱くようになり、毎晩離婚を考えながらも娘のことを考えて我慢しているそうですし、穏やかではない世界が展開される可能性も大いにあります。

結婚により、名目上親戚になったからといって、その日から無条件に愛せるほど、世界は平和で単純じゃないと思っています。

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続きは『子供がずっと欲しかった 事実婚妻が体験した妊娠・出産のこと、全部。』をご覧ください。

関連書籍

はあちゅう『子供がずっと欲しかった 事実婚妻が体験した妊娠・出産のこと、全部。』

ブロガーの妻、AV男優の夫。事実婚のまま、家族を作るのだ――。 「人生全部コンテンツ」を実践。その生きざまを赤裸々に綴る。

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子供がずっと欲しかった

4月16日発売『子供がずっと欲しかった 事実婚妻が体験した妊娠・出産のこと、全部。』を紹介

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はあちゅう ブロガー・作家

ブロガー・作家。慶應義塾大学法学部卒。電通コピーライター、トレンダーズを経てフリーに。「ネット時代の新たな作家」をスローガンに、媒体を横断した発信を続ける。2018年7月にAV男優・しみけん氏との事実婚を発表。2019年9月に第一子を出産。『仮想人生』『「自分」を仕事にする生き方』『恋が生まれるご飯のために』(すべて幻冬舎)、『旦那観察日記』(スクウェア・エニックス)、『半径5メートルの野望』『通りすがりのあなた』(ともに講談社)など著書多数。
ツイッター・インスタグラム:@ha_chu

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