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夜のオネエサン@文化系

2020.01.10 更新 ツイート

聖者をやらされ続けるくらいならいっそ赤貝になりたい~スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け鈴木涼美

(C)2019 ILM and Lucasfilm Ltd. All Rights Reserved.

年の瀬の映画見納めというと最近は「スター・ウォーズ」の印象が強いので、2019年も今シリーズ最終作「スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け」という新作を見て納めた。そして前二作と同様に「アンパンマン」みたいだった。別にジャム作ったりバイキンと戦ったりするわけではないけど、女性が主人公になると、主人公にツッコミどころが少なく、また精神的な脆さがあまり露呈しないという点で、私は夕方に歯医者とかサウナでかかっている「アンパンマン」を見た時と同様の劣等感を感じがちなのだ。

別に、プリクエル(前日譚)の一作目を初めて劇場で観た16歳の頃から、長く楽しませてくれている「スター・ウォーズ」に今更文句はない。どのシリーズも三作目には結構無理が出てきて駆け足に終わっていた気もするし、その辺はこういった作品にいがちなもっとマニアックに解説してくれる人に委ねるし、みんなルークやアナキンへの思い入れが強く、そのぶんこの新シリーズ主人公のレイにいまいち愛着が持てないのも理解に容易(たやす)い。

でもそれだけじゃなくて、女がヒーローを代替するとどうしてこうアンリアルで人間味がないほど格好良くあらねばならないのだろう、と生身のオンナとしては甚だ不満に思う。男の子の夢を体現していたフィクションを男女同権時代にアップデートするような行為は、近年米国を中心に多くの場面で挑戦されてきたけど、そんな中で人類は、女の欠陥や欠乏を描き込みにくいという問題に直面しているらしい。

 

昔はそんなことなかったような気がする。スカーレット・オハラもホリー・ゴライトリーもなかなかに欠陥だらけだし、アンナ・カレニナもカルメンもボヴァリー夫人も怖い。ただ彼女たちはレイに比べて大変伝統的な、悪くいえば前時代的な女の強さや弱さを体現するキャラクターだという点では共通している。ようは新時代の、男に頼らず生きられる、知識と体力と労働意欲が男並みにあるような女では、かつての女にありがちな欠陥がいまいち描かれない。ルークもアナキンも恋で身を滅ぼしそうになるけどレイはそのあたりも清廉潔白だし。

理由は3つほど考えられると思う。第一に、かつて男性が担っていたヒーローポジションを真の意味で代替するような女は、みんなやっぱり今でもそんなに見たことがない説。だから非現実的でファンタジックだということ。

第二に、新時代の女性がどんな怖さや弱さを持っているか、まだ男のクリエーターが把握できていない説。バリバリ頑張ってる現代女性自体は見たことがあっても、そこにどんなヤバさが潜むのか、歴史が浅すぎてリサーチ不足。

第三に、女に気遣いすぎてる説。色々と知識をつけて色々と社会への不満をぶつける術に達者になった女たちが怖くて、おべっか的な描き方しかできない。

うーん。多分全部かな。

女は男が思っているよりずっと強いし賢いけど、男が思っているよりずっと汚いのだ。恋に溺れて仕事が疎かになるし、ひとの不幸を願ってやまないし、自分の非をなかなか認められないし、悲劇のヒロインぶるし、弱音と愚痴と人の悪口だけでお茶碗5杯はいける。殺伐としてるし、ドラマチックだし、アンビバレントだ。便秘にも下痢にもなるし生理は痛いしメンタルも病む。

そういう私たちの実態を、私たちだってそんなには直視したくないのだけど、情けないところがあってなお輝くに値する、と言ってもらわなければ、いつまでも自分の欠陥から目を逸らしたまま、自己嫌悪と権利主張を繰り返し、気づけば断崖絶壁ギリギリで、誰に頼まれたわけでもないのに追い詰められている。

男のヒーローに情けない一面があるのは、別に人間の複雑さを描くとかヒーローの闇を描くとかいう以前に、弱さを晒さなければ、生きるのが辛くなるだけだからのような気がする。一回強ぶったら、貫くか失望されるかのどちらかに引き裂かれて、自分で自分の息の根を止める気がするから。

そういえば「スター・ウォーズ」を観た翌日に、家でただただ令和元年が終わるのを待ちながら付けていた紅白でビートたけしが「浅草キッド」を熱唱していて、そういえば映画でもテレビで見せる軍団芸でもいつも男の世界を一番香りたつ形で堂々と切り取ってみせる彼が、純愛小説で女を書いたらこの世のものとは思えないほど陳腐な聖母になっていたのを思い出した。

事故という飛び道具を使ってしか女の裏切りを描けなかった彼の、女を汚さない執念はすごい。たしかに「アウトレイジ」のコピー「全員悪人」は、もうちょっと正確に言うと「男全員が悪人」なんであって、たけし軍団よろしく彼らも男同士で情けないところを晒し合う。

映画監督としての北野武は以前テレビ番組で、映画で障害者を描くなら思いっきり悪者で登場させたいというようなことを言っていて、実際に「Dolls」でずる賢い脛齧(すねかじ)りの身体障害を持つ男を登場させた。そして私たち女に今必要なのは、そうやって正面から堂々と汚してくれるような手だと思うのだけど、汚れていない女が好きな男たちが女を汚す気になれないなら、女は誰かに晒してもらえない弱さを、エイヤの勢いで自分で晒して謝っとかないと、このままさらに崖のきわっきわまで追い詰められて、現代的に進化した意味さえ失ってしまいそうだとちょっと思う。

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夜のオネエサン@文化系

夜のオネエサンが帰ってきた! 実は超文化系女子でもある鈴木涼美さんが、映画やドラマ、本など、旬のエンタメを糸口に、半径1メートル圏内の恋愛・仕事話から、世間を騒がしているアノ話題まで、オフレコモードで語ります。

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鈴木涼美

1983年東京都生まれ。蟹座。2009年、東京大学大学院学際情報学府修士課程修了。著書『AV女優の社会学』(青土社/13年6月刊)は、小熊英二さん&北田暁大さん強力推薦、「紀伊國屋じんぶん大賞2013 読者とえらぶ人文書ベスト30」にもランクインし話題に。夜のおねえさんから転じて昼のおねえさんになるも、いまいちうまくいってはいない。

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