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上野千鶴子×國分功一郎対談「上野先生、民主主義はお好きですか?」

2014.02.03 公開 ツイート

第2回

直接民主主義VS.間接民主主義の二項対立発想ではダメ 上野千鶴子/國分功一郎

◆住民投票不成立、そしてこれからどうするのか?

上野 住民投票に関しては自治体ごとにいろんなルールがありますが、小平市では「投票率が50%を超えなければ不成立として、投票結果を開票しないことにする」と、途中で市長がゲームのルール変更を言い出して、それを議会が認めちゃったわけですね。投票率50%、有権者の半分というのは、憲法を変えるよりハードルが高い。憲法は投票数の過半数の賛成で変えられるとなっていますが、投票率の条件はありませんから。こんな首長をそのまま黙って置いておくんですか、小平市民は。

國分 市長のリコール運動をやってもよかったのかもしれませんが、僕は、前向きになれなかったですね。だって、リコールは非常に否定的な運動でしょう、「あいつをやっつけろ」という。それなら道路建設で失われる雑木林の価値を訴える方向の運動をしたいと思った。少なくとも僕はそういう考えでやっていました。

上野 投票した人たちは、住民の何割でしたっけ?

國分 35.17%、3人に1人です。

上野 3人に1人が投票所に足を運んだなんて、すごいです。でも投票率50%を下回ったからって投票箱が開けられることもなく、塩漬け状態なんですね?

國分 市ははじめは投票後90日くらいで捨てると言ってたんですけど、裁判をやっている間は捨てないと言わせました。それは唯一勝ち取った点ですね。

上野 廃棄の差し止め請求をやったら止められるでしょ? 投票は公文書と一緒だから。

國分 廃棄差し止めはしませんでしたが、情報公開請求はして、すぐはじかれました。

上野 はじかれた?

國分 情報公開条例を持っている市なのに、やっていることが訳わかんないですね。

上野 少なくとも投票用紙の廃棄についてはストップをかけられた。

國分 はい。何も言わなかったら廃棄してたと思います。

上野 そうでしょうね。それでこの後、小平市は、どうなるんです? みんな固唾(かたず)を呑んで見守ってると思うんだけど(笑)。

國分 先日、道路問題をめぐるイベントを開いて、吉野川の可動堰建設をめぐる住民投票で尽力された村上稔さんという方に来ていただいたのですが、村上さんがとてもあっさりと、「いやあ、まだまだいろいろやることあるんじゃないですか」とおっしゃった。それでスーッと胸のつかえが取れました。

 住民投票が不成立に終わって、もう打つ手がないんじゃないかと、僕自身、とても落ち込んでいたんです。でも、それを口に出しては言えなかった。運動をやっていた他のメンバーも実は同じだったようで、イベント後の打ち上げで、みんな口々に、「いやあ、ほんとはもうダメなんじゃないかと思ってました」「ずっと落ち込んでました」と。村上さんの話を聞いて、まだできることがあると気がついて、初めて正直な気持ちを言い合えました。

 僕が今、個人的に考えているのは、『来るべき民主主義』の付録1として収録した交通量の話をもっと主張しようということです。東京都が道路建設の根拠として出してきた、「これから交通量が増える」という数字はウソだということを論証しています。僕、この本でいちばん苦労したのが、付録1の数字のところなんですけど、なかなか言及してもらえない。まぁ、2回ぐらい読まないとわからないって言われましたし(笑)。だから、もっとわかりやすくしてパンフレットにしようかなと思ってます。

上野 この部分はエビデンス・ベースドの議論で、とっても社会科学的ですね。

國分 まあ、いちおう社会科学出身なんですけれど(笑)。

上野 50年前はモータリゼーション勃興期でしたから、交通量が増えるという予測でしたが、50年経ったら人口減少社会ですから、交通量予測はほとんど下方修正してますよ。非常に説得力のあるデータだと思いました。

國分 ありがとうございます! 社会学者の上野先生からそう言っていただくと嬉しいです。

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上野千鶴子×國分功一郎対談「上野先生、民主主義はお好きですか?」

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上野千鶴子

社会学者・立命館大学特別招聘教授・東京大学名誉教授・認定NPO法人ウィメンズアクションネットワーク(WAN)理事長。1948年富山県生まれ。京都大学大学院社会学博士課程修了、平安女学院短期大学助教授、シカゴ大学人類学部客員研究員、京都精華大学助教授、国際日本文化研究センター客員助教授、ボン大学客員教授、コロンビア大学客員教授、メキシコ大学院大学客員教授等を経る。1993年東京大学文学部助教授(社会学)、1995年から2011年3月まで、東京大学大学院人文社会系研究科教授。2011年4月から認定NPO法人ウィメンズアクションネットワーク(WAN)理事長。専門は女性学、ジェンダー研究。『上野千鶴子が文学を社会学する』、『差異の政治学』、『おひとりさまの老後』、『女ぎらい』、『不惑のフェミニズム』、『ケアの社会学』、『女たちのサバイバル作戦』、『上野千鶴子の選憲論』、『発情装置 新版』、『上野千鶴子のサバイバル語録』など著書多数。

國分功一郎

1974年、千葉県生まれ。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。博士(学術)。東京大学大学院総合文化研究科・教養学部准教授。専門は哲学・現代思想。著書に『スピノザの方法』(みすず書房)、『暇と退屈の倫理学』(朝日出版社、第2回紀伊國屋じんぶん大賞受賞、増補新版:太田出版)、『ドゥルーズの哲学原理』(岩波現代全書)、『来るべき民主主義』(幻冬舎新書)、『近代政治哲学』(ちくま新書)、『中動態の世界』(医学書院、第16回小林秀雄賞受賞)、『原子力時代における哲学』(晶文社)、『はじめてのスピノザ』(講談社現代新書)など。訳書に、ジャック・デリダ『マルクスと息子たち』(岩波書店)、ジル・ドゥルーズ『カントの批判哲学』(ちくま学芸文庫)など。

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