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上野千鶴子×國分功一郎対談「上野先生、民主主義はお好きですか?」

2014.02.05 公開 ツイート

第3回

「民主主義イコール多数決」ではない 上野千鶴子/國分功一郎

前回の記事:直接民主主義VS.間接民主主義の二項対立発想ではダメ
 

◆「ときどき確信犯的に法律違反しています」(上野)

上野 間接・直接の二項対立で考えるのをやめたら、その間にさまざまな民主主義が考えられます。たとえば「熟議型民主主義」とか、シャンタル・ムフの言うような「ラディカル・デモクラシー」とか。これは山崎君の受け売りなんだけど、さらにそれを超える、「ポスト代表制民主主義」というものもあるんじゃないのか。

 現状のリベラル・デモクラシーが機能不全であるという状況認識だけは共有されているんですが、代替案がなかなか見つからない。今、政治学者たちの構想力が問われているところだと思うんだけど、哲学者もそこに参入しますか。

当日は、池袋コミュミティ・カレッジのなかでも一番大きいコミカレホールが満員になりました。

國分 僕は「熟議型民主主義」というのは、いったいどんな場でどう熟議するのかがよくわからないんです。だから本では、議会制民主主義は非常に一元的な発想に基づいた体制なので、それに関わる人の発想も一元的になってしまっていると強調しました。熟議について考える上でも、まずはこの一元的発想をどうにかしないといけない。複数のプロセスと制度を設けて、そこで熟議の機会と可能性を広げるというならよく分かります。

上野 たしかにハバーマスのいう「熟議型民主主義」って合意形成について楽観的すぎますね。意思決定を複数化できると言えば、私は、民主主義が多数決の原理だとは、少しも思ってないんです。たとえ多数が決定したことでも、私が同意しないことに私は従う必要がないと思いますから、ときどき確信犯的に法律違反しています。

國分 法律違反してるんですか!?(笑)

上野 それを私は、「市民的不服従」と呼んでいるんです。

國分 いいですね、市民的不服従。

上野 はい。今沖縄で、オスプレイの配備に反対して道路を占拠している人たちだって、道路占拠という道路交通法違反をしている。経産省前にテントを張って脱原発を訴える行為だって、国が法律に訴えれば、違法行為になっちゃう。だけど市民的不服従として、非暴力直接行動をする権利を私は決して失わない。たとえ多数派が何を決めようと。……と思っておりますが、いかがでしょう?

國分 いいと思います(会場、笑)。

 それに関して言うと、法律というのは当たり前ですが運用されるものだから、いつも同じように適用されるわけじゃない。もしこれに適用したら、みんなが怒りそうだと思ったら、権力はそれをしないわけです。だから、うまくそこらへんの雰囲気をつくるということが、非常に大切なんですね。市民的不服従をするときも、「私はそうなのよ」と訴えつつ、同時に、「この人に今この法律を適用してしょっぴくとまずいな…」と思われるような雰囲気をつくっていくとか。それは、僕が言論に関して注意しているところです。まぁ、僕は法律違反はしてないと思うんですけど(笑)。

上野 順法闘争ですね(笑)。

國分 どっちかっていうと順法闘争派ですね。マゾヒストなので(笑)。

上野 そうなんですか。じゃあ、小平でもこれから順法闘争をなさる?

國分 順法というか、まあ、合法的闘争ですかね(笑)。

上野 沖縄に米軍基地を建設するとき、木を伐り出したでしょう。その木に体を縛りつけて抵抗したおばあちゃんの話とか聞くと、やっぱり感動するよね。

國分 そうですね。それも雰囲気の問題はあると思うんですよ。たとえば小平はあちこち畑だらけの田舎なんですけど、都心に通っている都市生活者が多く住んでいて、地域コミュニティがないわけではないが、バラバラ度が高い。そういうところでは、やっぱりマイルドな政治戦略が必要になってくる。どういう度合いの政治戦略でいくかは、現場の雰囲気を見ながら決めなきゃいけないと思いますね。

上野 たとえば市民が雑木林を活用しているという実績をつくっていくやり方もありますね。反対というネガティブなやり方じゃなくて、何か新しい仕掛けをつくるというポジティブなやり方。たとえばキッズパークをつくって、学生さんたちをボランティアで送り込む。いつもそこに子どもがいたら、そりゃあ工事はできまへんわ。

武蔵野美術大学と小平市共催の「小平アートサイト2013」。雑木林のあちこちに、彫刻学科の学生さんたちの作品が展示されました。

國分 そういうことは、かなり熱心にやってます。いろいろ団体があって、親子向けのイベントを開いたり、あと、「森の哲学講義」と称して僕がそこで話をしたり。正確には森じゃなくて林ですが、カッコいいから「森」にしてる(笑)。

 あと、武蔵野美術大学がここを使って、毎年1回、彫刻作品を展示してるんです。これはとてもいいですよ。今年は、道路計画の事業認可が下りた後だったので「使えません」と言われたのを、学生がすごく頑張って交渉して、「じゃあ、今年はいいですよ」と言わせたんですね。

上野 誰が「いいよ」と言ったり、「ノー」と言ったりするんですか。

國分 学生との交渉に当たっているのは小平市の窓口です。

上野 雑木林の管理者?

國分 そうですね。あまりにも学生が熱心なので、小平市の職員は東京都におうかがいを立ててOKと言わせたそうです。これには感動しました。

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上野千鶴子

社会学者・立命館大学特別招聘教授・東京大学名誉教授・認定NPO法人ウィメンズアクションネットワーク(WAN)理事長。1948年富山県生まれ。京都大学大学院社会学博士課程修了、平安女学院短期大学助教授、シカゴ大学人類学部客員研究員、京都精華大学助教授、国際日本文化研究センター客員助教授、ボン大学客員教授、コロンビア大学客員教授、メキシコ大学院大学客員教授等を経る。1993年東京大学文学部助教授(社会学)、1995年から2011年3月まで、東京大学大学院人文社会系研究科教授。2011年4月から認定NPO法人ウィメンズアクションネットワーク(WAN)理事長。専門は女性学、ジェンダー研究。『上野千鶴子が文学を社会学する』、『差異の政治学』、『おひとりさまの老後』、『女ぎらい』、『不惑のフェミニズム』、『ケアの社会学』、『女たちのサバイバル作戦』、『上野千鶴子の選憲論』、『発情装置 新版』、『上野千鶴子のサバイバル語録』など著書多数。

國分功一郎

1974年、千葉県生まれ。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。博士(学術)。東京大学大学院総合文化研究科・教養学部准教授。専門は哲学・現代思想。著書に『スピノザの方法』(みすず書房)、『暇と退屈の倫理学』(朝日出版社、第2回紀伊國屋じんぶん大賞受賞、増補新版:太田出版)、『ドゥルーズの哲学原理』(岩波現代全書)、『来るべき民主主義』(幻冬舎新書)、『近代政治哲学』(ちくま新書)、『中動態の世界』(医学書院、第16回小林秀雄賞受賞)、『原子力時代における哲学』(晶文社)、『はじめてのスピノザ』(講談社現代新書)など。訳書に、ジャック・デリダ『マルクスと息子たち』(岩波書店)、ジル・ドゥルーズ『カントの批判哲学』(ちくま学芸文庫)など。

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