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作家の人たち

2019.04.27 更新

試し読みその5。

「らのべっ!」倉知淳

本格ミステリ作家・倉知淳さんが本格的に“ふざけた”(!?)最新刊『作家の人たち』から「らのべっ!」の試し読みです。

隆盛を誇るライトノベル界でヒット連発の雷神文庫副編集長・祐天寺。矢継ぎ早にパッショネイトにスマートに流麗に仕事をこなす、彼のような編集者に業界は支えられているのだ。

*   *   *

優秀な編集者の条件・五ヶ条

・本のタイトル、帯の惹句などを適切に決定できる

・売れっ子のスケジュールは常に把握し、積極的にオファーを出す

・何事も迅速に行動する

・新人作家へのアドバイスは具体的かつ熱意を込めて

・結果的に売り上げの上がる本作りをする


「さて、次は──」
と、独り言をつぶやきながら祐天寺一彦は、片手を箱の中に突っ込んだ。箱は、クジ引きなどに使う小型の紙箱である。上部に丸い穴が開いていて、手を入れられる構造になっていた。商店街のセールの三角クジなどで用いられる物だ。

箱の中から手探りで、カードを二枚引き出す。見ると、一枚には“幼なじみ”、もう一枚には“偏差値”とキーワードが書かれていた。

祐天寺は、ほんの数秒間、頭を巡らせてからデスクの上のノートに殴り書きのメモをした。

『隣の幼なじみが毎朝起こしに来る俺のリア充偏差値って47くらい?』

淡々とそう書きつけると、祐天寺はまた箱に手を入れカードを引き出す。今度のキーワードは“キャラ”と“妹”だった。

再び数秒考えた後、祐天寺は手早くメモを取る。

『妹が萌えキャラなんて現実にあるって信じられるか?』

祐天寺は少し、首を傾げた。二回続けて疑問形のものができてしまった。思考に偏りが出ているのかもしれない。これはいかんな、もっとフラットに考えよう、頭を空っぽにして──そう思いながら、また祐天寺はカードを二枚抜き出す。キーワードは“アニメ”と“お嬢様”。

祐天寺はほとんど何も考えないまま、ペンを走らせて、

『お嬢様、それはアニメの中でのお話です、現実と混同なさってはいけませぬ』

さすがに長いか? と、自分で苦笑しつつも、祐天寺は繰り返し箱の中のカードを取る。

“ハーレム”と“生徒会室”。これは一秒たりとも考える必要はない。ほぼ脊髄反射だけでメモを書く。

『生徒会室が俺専用のハーレムになっているんだけど何か質問ある?』

といった具合に、二枚のカードのキーワードからの連想で、タイトル案を考える祐天寺であった。カードはあらかじめ祐天寺自身が箱に入れておいたものだ。ありがちなキーワードでもランダムに組み合わせれば、予想外のタイトルが思い浮かぶ、という仕組みである。

そうやって祐天寺はカードを引いて、いくつかのタイトル案を捻り出す。

『異世界に転生したら俺が女子高生だった件』
『裸族の娘が我が家にホームステイしていて目のやり場に困るんだが』
『ゆ、雪菜さん、そ、それはパンツじゃないですかっ』
『エッチなお兄ちゃんなんてもう知らないっ!』
『エロと恋との境界線を発見する旅に出るぜ』
『異世界メイドは電気アンマの夢をみるか』
『先生でエロいことを妄想した人は今すぐ手をあげなさい』
『コミュ障でもモテモテの俺の人生、イージーモードすぎるんだが』

飽きてきた。まあ、とりあえずこんなものか。祐天寺は特に感慨も満足感もなく、クジの箱をデスクの上に放り出した。

こうしたタイトル案は、もちろんすべて使えるわけではない。あくまでもラフなイメージであり、実際に本になるのはほんのひとつかふたつといったところだろうか。ただ、ストックはいくつあっても困らない。だからこうして、祐天寺は少しでも手が空くとタイトル案の考案作業に取りかかる。箱のカードを引いて、頭を空っぽにしてメモを取る。片手でポテチをつまみながら、編集部の自分のデスクでできる軽作業だ。本のタイトルを作るのも編集者の大切な仕事である。

作家は手綱を緩めると、すぐにスカしたタイトルをつけようとしやがる。『螺旋機構』だの『ミッシング ポイント』だの『幻想虚飾城』だの、分不相応な気取ったものをつけてくる。そういうのは、もちろんボツだ。ライトノベルでそんなのが売れるはずもない。そこでちゃんとしたタイトルに改題するのが祐天寺の役目である。

『螺旋機構』は『萌え萌え美少女 回転ずし状態』に、『ミッシング ポイント』は『俺だけ透明人間になっても学園ハーレムって作れるものか?』になり、『幻想虚飾城』は『別世界に召喚された俺と美少女騎士軍団 くんずほぐれつ大作戦』に生まれ変わる。判りやすくないと読者は手に取ってくれないのだ。理想は、タイトルだけで内容が全部判るもの。例えば『クラス全体で異世界転生したら俺だけ全能力チートになっていてやれやれだぜ』、これでいい。内容が一発で判る。安心して読める。何だったら読まなくてもいい。読者が読んだ気になってくれれば、それで構わないのである。

(続きは単行本で)

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