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前進する日もしない日も

2019.04.09 更新

週末那覇ひとり旅益田ミリ

午前零時前。週末の那覇、国際通り。遊び足りない観光客がわんさか歩いている。わたしはそれをスタバの窓からながめていた。

東京の今年の花粉はすさまじかった。目にきた。涙が止まらず、そのせいで目の下の皮膚がかぶれてしまったほど。

花粉から逃避して訪れた那覇。原稿用紙も持ってきた。漫画の原稿を描くのは深夜と決め、日中は外をのんびりぶらぶらすることに。

 

那覇にはお気に入りのカフェがたくさんある。今年はじめて行って気に入ったのは、デパート「リウボウ」に入っている「楽園」というカフェ。老若男女が集っている、というのが心地よく、日に二度三度と利用した。そこで読んだ多和田葉子さんの小説『百年の散歩』が美しすぎて、ものすごい多幸感に包まれたのだった。

クルトシュのカフェにも行った。クルトシュはハンガリーの焼き菓子で、見た目は長いバームクーヘンだが薄くてパリッとしている。デニッシュパンの上側を剥いだようなものとでも言おうか。わたしはこれをチェコの街角で食べたことがあった。東欧で食べられているお菓子なのかもしれない。この店では長居して本を読むというより、焼きたて熱々のクルトシュをささっと食べ、お茶は次のカフェという感じ。

映画館、桜坂劇場の一階のカフェも、滞在中、何度も行った。ここもまた老若男女が集っている。東京のオシャレなカフェでおじいさんを見かけることはなかなかないけれど、桜坂劇場のカフェにはいる。いい感じだ。好きな感じだ。

ここでよく飲むのはホットチャイ。スパイスが効いて、甘くてほっこりする。甘い飲み物は普段飲まないようにしているけれど(カロリー的に)、旅の間くらいはと解禁。お茶のあと、桜坂劇場で「サタデーナイト・チャーチ」を観たのが土曜日の夜だった。映画の中で、お母さんが泣きながら息子に言ったセリフがよかった。あなたが自分のことを好きじゃないとしたら悲しい。そんなセリフだった。

映画館からホテルに戻る途中に寄ったスタバはほぼ満席だった。海外の観光客、結婚式の二次会帰りの若者たち、わたしのようにひとりでいる人。今、ここにいる人々が今夜見る夢は、ほんの少し似ているのではないか。二度とこのメンバーでこのスタバに集まることはないけれど、同じ時代に地球にいるという意味ではいつも集まっているようなものだと思った。

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前進する日もしない日も

仕事の打ち合わせ中、まったく違うことを考えてしまう。ひとり旅に出ても、相変わらず誰とも触れ合わない。無地の傘が欲しいのに、チェックの傘を買ってくる。〈やれやれ〉な大人に仕上がってきたけれど、人生について考えない日はない。そんな日々のアレコレ。

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益田ミリ イラストレーター

1969年大阪府生まれ。イラストレーター。主な著書に漫画「すーちゃん」シリーズ、『週末、森で』『きみの隣りで』『世界は終わらない』『今日の人生』『僕の姉ちゃん』『沢村さん家のこんな毎日』『泣き虫チエ子さん』などがある。またエッセイ『女という生きもの』『47都道府県 女ひとりで行ってみよう』や、絵本『月火水木金銀土日 銀曜日はなにしよう?』(共著)など、ジャンルを超えて活躍する。最新刊は小説『一度だけ』。

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