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私がオバさんになったよ

2021.08.22 公開 ポスト

将来のビジョンはなくていい【文庫化再掲】ジェーン・スー

どうやら、人生は折り返してからの方が楽しいらしい。ジェーン・スーと、わが道を歩く8人が語り尽くした本『私がオバさんになったよ』が文庫になりました。今回はラッパーの宇多丸さんとのお話。大学時代のサークル仲間で、付き合いはもはや20年以上。一人っ子、子供おらずで、互いにラジオの仕事に携わる。中年期を生きる二人の目の前には、将来という「得体のない不安」はあるか? はたまた、将来のビジョンは??

──将来の話。得体の知れない不安とかないですか。

宇多丸 得体はわりとある不安ばかりですね。こんなにフラフラ生きてて、歳とったらどうなっちゃうんだろうって、それはむしろ超実体のある不安としてありますよ。

ジェーン 昔はサラリーマンをやっていたから、勤め続けていればよかったと思うことがなくもない。今はなにかミスったらアウトじゃないですか。

あと親が無一文になるという、全く予想もしない出来事が起こったし。どうやって葬式まで出すかっていう。

宇多丸 でもさ、あなたの場合、「お父さんという金脈を見つけた」っていう言い方もできるじゃん。

ジェーン あの原稿料(『生きるとか死ぬとか父親とか』)は全部ストレートに父のところにいってますから。金脈ではありますけどね。

親と言えば、父は今79歳(2017年対談時)なんですけど、電話で話してる時の口の悪さとか元気さとかが、会った時のよぼよぼの歩きと全然違って。これを受け止めていくのは結構キツいですよ。

宇多丸 うちは両親ともに、80超えても今のところまだめっちゃ元気なんですよね。これがまた俺をいつまで経っても子供のままにさせている一因だとも思う(笑)。無論、いずれは色々な現実に向き合わなければならなくなるであろうというのは同じです。

──文京区・一人っ子・男子校、女子校。子供おらず。お二人は似てますね。

ジェーン この歳になるとみんなが子供を育てるってことで忙しくなってるのに、あれ? 私は? ちょっとマンネリ化してきたぞって思うこともありますね。

宇多丸 個人的には、別に里親でも養子でもいいじゃんって思いますけどね。なんか日本は法的に色々難しい、というのも聞いたことあるけど。

ジェーン 私も色々調べたんですけど、ガチの養子縁組とかだと、子供が成人した時に65歳以下である夫婦が望ましいらしくて。できれば養育経験もあった方がいいらしいし。44歳で保育士の資格がない未婚女ではかなり難しい。

宇多丸 なんのためのシステムなんだよ! って言いたくもなりますね。

ジェーン 乳児院の方が、子育て経験のない里親よりいいっていうことでしょうかね。あとどっちかが専業(主婦・主夫)じゃないと難しいとか。

宇多丸 いや~、それは僕、かなり異論がありますね。人が育つ上で必要なものって、そういうことか?

将来のビジョン、ナッシング!

ジェーン 『ブラスト公論』読んでたら「歳をとったら電力館でただで映画観ればいいじゃん」って士郎さんが言ってて、たしかにこの時はまさか電力館がなくなるなんて思いもよらなかった。原発事故なんて考えてもみなかったけど、予想外のことが今後起きることに対しての心構えってあります?

宇多丸 心構え、つったってねぇ……例えば、北朝鮮からミサイル飛んできたらどうする、とか言ったって、じゃあどうしようがあるっていうのよ(笑)。われわれのような一般の国民は、お先真っ暗だとか言われながらも、なんとかその時その時を生き抜いていくしかないんじゃないですか?

ジェーン それこそ貯金しかできることないって思ったこともあったけど、ハイパーインフレ起きたらどうするの? って問われ、たしかにと。今できる最善をやって、かつ臨機応変にやるしかない。

──将来のビジョンは?

ジェーン 私は正直ないんです。やりたいことだけでここまで来たわけじゃないから、信用できる人から「やってみたら」と言われたら、また違うことをやっちゃうかもしれないし。

宇多丸 俺もね、ナッシング!

ジェーン ここまでラッパー続けてると思ってました?

宇多丸 思ってないね。そういうことを考え出すと、一歩も前に進めなくなる。だから基本は、ナッシング!

先のことなんか考えても、わからないもんはわからないんだからさ。それこそ、得体の知れない不安を煽るような脅し方はいくらでもできるだろうけど、そういうのに引っ張られても、たいていは誰かに都合よく利用されるだけだったりするじゃない? 結局は、今この時を必死で生きてゆくしかないんじゃないのと思いますけどね、どっちにしろ。

ジェーン よかった。よく聞かれるんです。今後の夢とかほんとになにもないから。

宇多丸 リスクを避けようとして採った選択が、致命的に裏目に出てしまう、みたいなことだって全然ありうるわけだからさ。なにが正解かなんてわからないし、そもそも生き方に正解なんてものはないですよ。

ジェーン 海外、アメリカに住みたいみたいなのはぼんやりあって。まだ好きなんですよ、アメリカ文化が。それにマンハッタンに「上京」したい。お前は恵まれてていいよな、どうせ東京だろってずっと言われてきたから。「くそうお前ら全員敵だ」みたいなのをやってみたい。

──宇多丸さんは「上京プレイ」願望は?

宇多丸 わかる気もするけど、プレイにしてもやっぱり僕はちょっとキツいな。そう考えると、みんなそこをなんとか乗り越えてきてるんだもんな……大学の頃とか、自分としては周りの人たちをフラットに捉えてるつもりだったけど、現実はそうじゃなかったという。

ジェーン 二十年前と一番変わったところはなにかっていうと、フラットに見えてた世界が全然フラットじゃなかったってわかったことかもしれない。昔は視野が狭かった。

宇多丸 「東京生まれ東京育ちだからあなたはハングリー精神が希薄だ」みたいなことも人からはよく指摘されますけどね。うるせぇよ! っていう(笑)。でも本来さ、インターネット時代の建前上、住んでる場所なんてあんまり関係なくなるはずだったんだけどね。ラジオパーソナリティなんか、地球上のどこにいてもできるはずでしょ。

ジェーン オープニングトークでお天気の話ができないけど。

宇多丸 その程度の情報はネットを見てください! ってことで(笑)。    (聞き手 古川 耕)

関連書籍

ジェーン・スー『私がオバさんになったよ』

「40代女の生き方のバリエーションが増えている」「女の敵は女じゃない」「人間は役に立つことのために生きているわけじゃない」……。もう一度会いたかった8人と語り合い見えてきた生きる姿勢は、考えることをやめない、変わることをおそれない、間違えたときにふてくされない。オバさんも悪くないね。このあとの人生が楽しみになる対談集。

ジェーン・スー『貴様いつまで女子でいるつもりだ問題』

「女子会には二種類あってだな」「ていねいな暮らしオブセッション」「私はオバさんになったが森高はどうだ」……誰もが見て見ぬふりをしてきた女にまつわる諸問題(女子問題、カワイイ問題、ブスとババア問題……etc.)から、恋愛、結婚、家族、老後まで――話題の著者が笑いと毒で切り込む。“未婚のプロ”の真骨頂。講談社エッセイ賞受賞作。

ジェーン・スー/野宮真貴『人生もお洒落も自分の舵を手放さない。』

野宮真貴/ジェーン・スー『美人になることに照れてはいけない。 口紅美人と甲冑女が、「モテ」「加齢」「友情」を語る』

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私がオバさんになったよ

私がオバさんになったよ』刊行記念。ジェーン・スー×光浦靖子 山内マリコ 田中俊之 中野信子 海野つなみ 宇多丸 酒井順子 能町みね子……ジェーン・スーとわが道を歩く8人が語り尽くす「いま」。

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ジェーン・スー

1973年、東京生まれ東京育ちの日本人。作詞家/ラジオパーソナリティー/コラムニスト。音楽クリエイター集団agehaspringsでの作詞家としての活動に加え、TBSラジオ「ジェーン・スー 生活は踊る」をはじめとするラジオ番組でパーソナリティーとして活躍中。

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