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私がオバさんになったよ

2021.08.24 公開 ポスト

40代はエアー子育て期【文庫化再掲】ジェーン・スー

どうやら、人生は折り返してからの方が楽しいらしい。ジェーン・スーと、わが道を歩く8人が語り尽くした本『私がオバさんになったよ』が文庫になりました。今回のお相手はエッセイストの酒井順子さん。子供の無い人生について、あらためてその一部を公開します。

ジェーン 今のところ、子供を産まなかったことに対する後悔はまるでないんですよ。欲しくて努力したこともないまま、そろそろ終わるぞって感じで。ご著書もありますが、子供の無い人生はいつ頃から意識されましたか?

酒 井  40過ぎくらいからですか。

ジェーン 30代はもしかしたらっていうのがありますもんね。もしかしてこのままないのではと思った時に後悔とかありましたか。

酒 井  後悔はないんですけど、ただ自分が死ぬ時に姪に迷惑をかけるのかと思うと申し訳なく思いますね。かけたくないといくら言っても、どうしても最終的な処理というか、いろんなことを姪がしないといけないので。

ジェーン この間、独身の叔母が80過ぎで死んだんです。お華の先生で好き勝手にやってきた独立心の強い人で、ホームで楽しくやってました。お葬式やらなにやらは姪たちが全部やってくれて、嫌だって感じは全くなかったですよ。

酒 井  姪御さんは何人かいた?

ジェーン はい。でも代表は一人です。誰か手伝ってほしい時に声をかけたりはするけど、基本は一人の姪です。

酒 井  うちは一人しかいないから、この子の細腕にすべてがのしかかると思うと、本当に不憫。

ジェーン ご結婚するかもしれないし。

酒 井  しっかりした人と結婚してほしい(笑)。

ジェーン 世間の子の無い人に対する視線も、この十年くらいで急激に変わりましたね。

酒 井  当たり前というか、よくある話ですからね。

ジェーン 十年くらい前だとなんで作らないのとか、結構不躾に聞く人もいたし。

酒 井  結婚式のスピーチで、「早く赤ちゃんの顔を」と言う人もいなくなりましたよね。

ジェーン 子を産まなかったことに対しての後悔とか、恥に思う気持ちは全くないので、この状況で喜ばしいのですけど。

酒 井  私は、子がいる人特有の優しさに接すると、劣等感を感じますね。私には「優しくない人コンプレックス」があるので。

ジェーン 親ならではの優しさってどういう感じだろう。

酒 井  作りものではない、自然ともわっと湧き出るもの。

ジェーン 犯人の特徴をもう少しください(笑)。

酒 井  生き物としての、野性的な、自分のマタから子供が生まれた瞬間にぺろぺろなめる的な。それは自分のなかには確実にない。

ジェーン 不出来とか未熟なものに対して距離をとらないという感じでしょうか。

私は最近、週末里親制度に関心があって。二週間おきに施設に行って遊んだり、どこか遊びに連れて行ったりするんですけど。施設って職員も変わるから、施設にいる子供には「あなた2歳の時こうだったのよ」って言う大人がいないそうです。誰かの成長を小さい頃から見守る大人になるという、それをやってみてもいいなと思う。そう思いながら、本当は子供が欲しかったのではないか、と自分に対する疑心暗鬼が生まれたりして。でもどこを探しても、自分が妊娠して子供を産むことに対する興味はない。じゃあなんで私はこんなことをしたいと思うのかと。

酒 井  ペットだと充足させられない気持ちなんですか。

ジェーン それこそ内縁おじさんには「ペットじゃないんだから勘弁してくれ」と言われました。でも人間がいいペットがいいとかいうよりも、家族じゃない人がいいという感じです。血縁ではなくて、完全に自分と別の人格。あと自分自身がなにかの役に立てることがあるならと。

エアー子育てを終えた今

酒 井  “他者のために役に立ちたい欲求”は、ある歳になると確実に出てきますね。

ジェーン 酒井さんもそうでしたか。

酒 井  私も40代で、ラオスに学校を作る活動に協力したりしました。でも、そんな欲求もそのうちしぼんでくるということもわかって。最近同級生の友達と話すと、誰かのために無理してなにかするとか、もうやめようって話になります。一回りして、そこにきた感じ。40代で子供を産んでいない者としては「他者のためになにかしなくては」とムラムラきて、それを充足させたわけですけど、初老の年齢になるとまた自分に戻ってくる。

ジェーン 軽率に人の子を預かっている場合じゃない。

酒 井  もちろん深い愛と責任感を持っている人は継続できると思いますよ。でも、私の40代の「他者のためにならねば」という欲求は、「こんな自分も存在していいのだ」と自分に納得させるために湧いてきたものだった気がします。

ジェーン タイムリープしてきた人がいいことを教えてくれた!

酒 井  われわれはその時期に、エアー出産してエアー子育てをしている。それで今エアー子育ても終わって、「他人のためにならねば」という焦燥感にも一段落ついた。

ジェーン 40代に入って多少余裕が生まれたり、自分のことにばかりかまける生活をしていたりする時に、誰かの役に立てるかもしれないのに、なにもしない居心地悪さが尋常じゃなかった。それにどう対処するかを考えていましたけど、いいことを教わった。

酒 井  エアー子育てが終わって、今は落ち着いてます。

ジェーン どこまでいっても人間は自分自分なんですね。

酒 井  まずは自分がしっかりしていないと、他人に迷惑をかけてしまうし。

40代あるある50代あるある

酒 井  50代はもう少し違うものが見えてくるんですよね。身体的には更年期もあるし、なにしろ私は、紀子さまとか小室圭さんのお母さんと同い歳ですから。子供が結婚して孫ができかねない、つまり墓に入りかねない。

ジェーン 50代あるある教えてほしいです。30代あるあるはいっぱいあって。でも40代からみんなあんまり言わなくなる。なので私はあえて「六時になったら目が閉店」とか「目で見て食べられるのと胃が食べられるのは違う」とか「二軒目に行かなくなる」とか、そういうあるあるを口にしてますけど。あとびっくりしたのは「40代になると楽になるよ、楽しくなるよ」と言ってくれる先輩はたくさんいて、それは間違いではなかったけど、40代は30代より忙しくなるということは誰も言ってくれなかった。これは罠でした。

酒 井  50代は、自分では40代とあまり変わらないと思っているのだけれど、周囲の見る目が違ってくる。「中年」と自称するのが面映(おもは)ゆくなり、やたらと健康ネタが好きになって……。

ジェーン そうなのかもしれません。酒井さんは卓球も続けていますか。まさかコーチをつけてやってるとは知らなかった。

酒 井  実は本を読むより、運動の方が好きなもので。

ジェーン 飽きないんですね。

酒 井  飽きないです。エアー子育てには飽きたのに。

これからも、狭い狭い好奇心を、ずっと持ち続けていくのでしょう。

あとは記憶力の退化とか体力がなくなるとか、そういった初老感も今は物珍しい。

ジェーン 40代との違いはその辺ですか?

酒 井  あちこち悪くなったところを友人に話し、「ねー」と言い合うのが楽しいです。

ジェーン 助け合いの気持ちになるんですかね。

酒 井  ますます友達とは仲良くなりますね。

ジェーン うわーいい話。

酒 井  互いのダメなところとか弱点をこれまで以上に許容し合って励まし合って、リユニオンがさらに進みますよ。

ジェーン それ最高。先のことが少しわかると安心します。酒井順子さんという松明です。

私たちにとって酒井順子さんは、結婚より面白いものがあるというメモを、授業中にこっそり回してくれた存在なんです。回ってきたメモを見なかったことにしてる人もいたけど、私なんかは飛びついた。

酒 井  結婚・出産は重大な責任が伴うことなので、そんな責任を負わずに生きてきたわれわれを見て、「今に不幸になる」と思っていた上の世代もいるかもしれませんが……。

ジェーン そういう人たちが「女の幸せってさ」と結婚出産の醍醐味を説きたくなる気持ちもわからなくもないです。

酒 井  しかし子無し族が増え続ける今、一人で生きていても上手に人生を着地させることができるような道を拓くことが、私世代の今後の役割かもしれませんね。

ジェーン おっしゃる通りですね。このタイミングでお話を聞けて本当によかったです。ありがとうございました。

関連書籍

ジェーン・スー『私がオバさんになったよ』

「40代女の生き方のバリエーションが増えている」「女の敵は女じゃない」「人間は役に立つことのために生きているわけじゃない」……。もう一度会いたかった8人と語り合い見えてきた生きる姿勢は、考えることをやめない、変わることをおそれない、間違えたときにふてくされない。オバさんも悪くないね。このあとの人生が楽しみになる対談集。

ジェーン・スー『貴様いつまで女子でいるつもりだ問題』

「女子会には二種類あってだな」「ていねいな暮らしオブセッション」「私はオバさんになったが森高はどうだ」……誰もが見て見ぬふりをしてきた女にまつわる諸問題(女子問題、カワイイ問題、ブスとババア問題……etc.)から、恋愛、結婚、家族、老後まで――話題の著者が笑いと毒で切り込む。“未婚のプロ”の真骨頂。講談社エッセイ賞受賞作。

ジェーン・スー/野宮真貴『人生もお洒落も自分の舵を手放さない。』

野宮真貴/ジェーン・スー『美人になることに照れてはいけない。 口紅美人と甲冑女が、「モテ」「加齢」「友情」を語る』

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私がオバさんになったよ

私がオバさんになったよ』刊行記念。ジェーン・スー×光浦靖子 山内マリコ 田中俊之 中野信子 海野つなみ 宇多丸 酒井順子 能町みね子……ジェーン・スーとわが道を歩く8人が語り尽くす「いま」。

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ジェーン・スー

1973年、東京生まれ東京育ちの日本人。作詞家/ラジオパーソナリティー/コラムニスト。音楽クリエイター集団agehaspringsでの作詞家としての活動に加え、TBSラジオ「ジェーン・スー 生活は踊る」をはじめとするラジオ番組でパーソナリティーとして活躍中。

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