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平成精神史

2019.08.15 公開 ツイート

昭和・平成・令和をたどる

【大きな旅・小さな旅】安岡正篤に見る、戦前と戦後の連続性<片山杜秀×白井聡>再掲 片山杜秀

「反共」を紐帯とした戦後日本の権力構造

片山 ちなみに安岡の考え方は、創価学会の「人間革命」と似たところがある。共産党と公明党は不倶戴天の敵ですが、この両者が絶対に共闘できないのは、「資本主義のまま人間の心が変われば、このシステムを変えなくても道義的な社会が実現する」というのが創価学会の人間革命思想だからです。

安岡は創価学会とは関係ないし、日蓮主義でもないんだけど、ある意味の人間革命思想なんですね。たとえば日本浪漫派の林房雄もそうですが、戦後の保守派は、いかに明治・大正・昭和の実業家が立派な人物だったかをやたらと語りました。渋沢栄一を称揚するのもその路線ですよね。あれはつまり「経済人が道義的存在であれば社会主義革命は必要ない」と言いたいわけです。

安岡も戦前の段階で、左翼的な労働運動に対抗して、神野信一(かみのしんいち)を担いで日本主義労働運動を推進しました。「労使協調」「報国精神」をモットーに、天皇の下で資本家も労働者も大日本のためにいっしょに戦うんだという話です。

 

そうやって「反共」を紐帯としてつくられたのが戦後日本の資本主義であり、親米路線でした。白井さん的に言えば、それが「戦後の新しい国体」になったわけです。共産主義を入れずに、天皇を守り、日本の資本主義を維持するには、アメリカを楯にするしかない。そんな路線で結合した集団ですね。

白井 戦後日本のもっともファンダメンタルな権力構造のメインストリームは、実はそのへんにあったと思います。

 

*第2回に続く。

(構成 岡田仁志)

白井聡『国体論 菊と星条旗』

いかにすれば日本は、自立した国、主体的に生きる国になりうるのか? 鍵を握るのは、天皇とアメリカ――。誰も書かなかった、日本の深層! 自発的な対米従属を、戦後七〇年あまり続ける、不思議の国・日本。 この呪縛の謎を解くカギは、「国体」にあった!  「戦前の国体=天皇」から「戦後の国体=アメリカ」へ。 気鋭の政治学者が、この国の深層を切り裂き、未来への扉を開く!

 

関連書籍

片山杜秀『平成精神史 天皇・災害・ナショナリズム』

度重なる自然災害によって国土は破壊され、資本主義の行き詰まりにより、国民はもはや経済成長の恩恵を享受できない。何のヴィジョンもない政治家が、己の利益のためだけに結託し、浅薄なナショナリズムを喧伝する――「平らかに成る」からは程遠かった平成を、今上天皇は自らのご意志によって終わらせた。この三〇年間に蔓延した、ニヒリズム、刹那主義という精神的退廃を、日本人は次の時代に乗り越えることができるのか。博覧強記の思想家が、政治・経済・社会・文化を縦横無尽に論じ切った平成論の決定版。

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片山杜秀

1963年、宮城県生まれ。慶應義塾大学大学院法学研究科後期博士課程単位取得退学。思想史家、音楽評論家。慶應義塾大学法学部教授。専攻は近代政治思想史、政治文化論。『音盤考現学』『音盤博物誌』(ともにアルテスパブリッシング、吉田秀和賞とサントリー学芸賞受賞)、『未完のファシズム』(新潮選書、司馬遼太郎賞受賞)、『「五箇条の誓文」で解く日本史』(NHK出版新書)、『平成史』(佐藤優氏との共著、小学館)など著書多数

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