カメラマンのキッチンミノルは本を買う決断が早い。雑談の話題に上った本、ふと目についた本など、「これ、買います」と即決でカウンターの上に積み重ねていく。つまり本屋としてはありがたい客なのだが、これはあくまでもわたしの想像でしかないが、キッチンは買った本の半分も、まともに読んでいないのではないか。
先日、BSで『ヒグマを叱る男~世界遺産・知床~』というドキュメンタリーを放映していた。熊と共存して暮らしている知床半島の番屋(漁師が漁場近くに作る、作業所兼宿泊所)を追った番組を見ながら、発売時に買ったまま放置していた本があるのを思い出した。本棚の奥に埋もれていた『熊を彫る人』を引っ張り出して読んでみたら、先ほどのドキュメンタリーと重なる箇所も多く、「これはいま読むべき本だったなあ」と深く納得した。
「買うからにはどこかしら自分の興味に沿った本なのだが、差し迫って読まなければならないものでもないので、本棚に並べて満足する」。わたしには、そういうことがよくある。そのとき、読んでいない本は「開かれてはいないが、何かしら関りのあるもの」として、そこに並べられることになる。本棚は自分の外に取り付けた脳みそのようなものなので、それを太らせることで、そこにある知や感情の総量が増えてくる(運がよければ先ほどの『熊を彫る人』のように、本を深く理解できるタイミングで取り出すことができる)。
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◯連載「本屋の時間」は単行本でもお楽しみいただけます

連載「本屋の時間」に大きく手を加え、再構成したエッセイ集『小さな声、光る棚 新刊書店Titleの日常』は、引き続き絶賛発売中。店が開店して5年のあいだ、その場に立ち会い考えた定点観測的エッセイ。お求めは全国の書店にて。Title WEBS
◯2026年10月9日(金)~ 2026年10月27日(火) 本屋Title2階ギャラリー
本と果物
異なる重力と文法で存在する
二つの有機体の出合い
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本屋Titleでは久しぶりとなる、nakabanの個展を開催します。
丸いりんごを見つめてみると、それ自体がひとつの小宇宙のような、吸い込まれる魅力を感じます。そして齧ってみるとどこまでも甘く、その甘さにはなつかしさも含まれている。
それならばイチジクはどうでしょう? 洋梨は? 葡萄なら?
農家により丹精に育てられた果物は宝石のようだとnakabanさんは言います。
本展では、そうした果物の隣に本を置きました。本も小さな紙の束に無限の世界を宿しているからです。実際にnakabanさんが描いてみたところ、個性的な装丁の新刊よりは、少しくたびれた古い本のほうが向いていたようです。
会場のキャプションには、果物とその隣にある本のタイトルを明記します。
絵に寄せた無名の数篇の詩も展示します。その意外な響き合いをお楽しみください。
◯2026年10月30日(金)~ 2026年11月16日(月) 本屋Title2階ギャラリー
中央線沿線が気になって最初に住んだのは西荻窪。それから2回引越しをして、30年以上この界隈に住んだ。なかでも長く住んだのは吉祥寺で、井の頭公園は目を瞑っても歩ける気がする。
中央線は高尾や奥多摩から遠くアルプスまで私を運んでくれた。山へ行くようになったのは、ここに住んでいたからかもしれない。
この春、そんな住み慣れた武蔵野を離れた。その頃を想いながら制作し、カレンダーを作りました。
秋の武蔵野に足を運んでいただけましたら幸いです。
◯【お知らせ】
新刊『本とねこと青い自転車』が発売されました。
著:辻山良雄
挿画:坂本千明
版元:信陽堂 /208P 四六変形判ハードカバー
様々な媒体に寄稿した文章をもとに編んだ小さな随筆集。加筆修正後、書き下ろしも多数加えました。子どものころから本の仕事に出合うまで、様々に関わった街のこと、ともに暮らすもののことなど、わたしという一本の木が育つまでのことについて。何度も推敲を重ね持てる力を注ぎ込みました。ぜひ読んでみてください。たくさんの挿画を寄せてくださった、坂本千明さんの版画もすばらしいです。
NEW!!〈わたし〉の声を探す──加藤典洋と黒人神学から学ぶ自己探求の読書
|〈わたし〉になるための読書(11)「MySCUE(マイスキュー)」 辻山良雄
大きな存在(「先生」)との葛藤を通じて、いかにして「じぶん」の言葉を見出すのか。日常から離れ、深く自分を見つめるための2冊を、今回はご紹介します。
NHKラジオ第1で放送中の「ラジオ深夜便」にて本を紹介しています。
偶数月の第四土曜日、23時8分頃から約2時間、店主・辻山が出演しています。コーナータイトルは「本の国から」。ミニコーナーが二つとおすすめ新刊4冊。1週間の聴き逃し配信もございますので、ぜひお聞きくださいませ。
本屋の時間

東京・荻窪にある新刊書店「Title(タイトル)」店主の日々。好きな本のこと、本屋について、お店で起こった様々な出来事などを綴ります。「本屋」という、国境も時空も自由に超えられるものたちが集まる空間から見えるものとは。

本と果物
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