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宇宙はどこまでわかっているのか

2019.03.06 更新 ツイート

地球はいずれブラックホールに飲み込まれる運命だ小谷太郎

元NASA研究員の小谷太郎氏が、最新かつ知的好奇心を刺激する宇宙トピックスを解説した『宇宙はどこまでわかっているのか』(幻冬舎新書)が話題です。

ここでは本書より「ブラックホールはいずれ、全ての星を飲み込む」をお届けします。ブラックホールに星が飲み込まれたあとの宇宙はいったいどんな姿になるのでしょうか。

*   *   *

(写真:iStock.com/scyther5)

わたしたちの銀河系の真ん中にある、超巨大ブラックホール

わたしたちの住む天の川(あまのがわ)銀河の中心には、太陽質量の約400万倍の超巨大ブラックホールが存在します。

わたしたちにもっとも近いこの超巨大ブラックホールについて、最新の結果を踏まえて紹介しましょう。

 

銀河とは、恒星が何百億、何千億も集まった群れです。恒星とはわたしたちの太陽のような巨大な星なので、それが何百億も集まってできている銀河は、想像するのもむずかしい巨大な「物体」です。そういう銀河が宇宙には無数に浮いているのです。

そういう銀河を観測してみると、中心部が異常に輝いているものが見つかります。銀河に属する恒星のエネルギーをぜんぶ合わせたくらいのエネルギーが、中心の一点から放射されているのです。

そういう、「クエイザー」とか「活動銀河核」などと呼ばれるモノの正体はいったいなんでしょう。普通の天体現象では説明できません。

研究者は、そういう銀河の中心部には巨大なブラックホールがあるのだろうと推測しました。ブラックホールは、重力が強すぎて光さえも脱出できない異常な天体です。ブラックホールにガスなどが落下する際、ガスが超高温に熱せられて明るく輝くというシナリオです。

われわれは天の川銀河の郊外住まい

図1 銀河系中心(GC)を含む天の川の星景写真。
​​​バツ印のところに巨大ブラックホールがいる? 撮影:大西浩次 (2016/06/11)

天の川銀河は、わたしたちの住んでいる銀河で、1000億個もの恒星が集まったけっこう立派な銀河です。

わたしたちの太陽系は、中心部から2万5600光年ほど離れているので、中心部の方角をながめると、明るい星の集団「天の川」が見えます(図1)。郊外から繁華街をながめるようなものです

天の川銀河の中心部、いて座の方角のA*(エースター)と名づけられた箇所ですが、そこに、もし巨大ブラックホールがいるとしても、現在(正確には2万5600年前)、ガスをのみ込んで光ってはいないようです。

それ以上のことは、天の川銀河中心のような遠方を観測する高性能の望遠鏡がないので、長いこと不明でした。巨大望遠鏡と補償光学技術が進歩するまでは。

大阪の新聞の見出しが東京で読める

ハワイ島マウナケア山頂は、世界の研究機関の天文台が林立する天文台団地です。そのなかのケック天文台は、世界最大級の10メートル鏡に補償光学技術を組みあわせた赤外線観測装置をそなえます。

補償光学技術とは、観測中に大気の擾乱(じょうらん)を監視し、それによる像のみだれを、鏡にリアルタイムで変形をくわえることで打ちけす技術です。

おもわず「本当かよ」と言いたくなるようなしくみですが、高速計算や精密な機械技術などの進歩により、20世紀末ごろから実用化されました。

ケック天文台の装置の場合、これによって達成される最高分解能は0.01秒角(1秒角は3600分の1度)、視力にすると6000、大阪に置いた新聞の見出しが東京から読めるくらいです。

カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)の銀河系中心研究グループは、これをもちいて天の川銀河中心を約20年にわたって連続観測しています。

太陽質量の400万倍もあるモンスターが出た!

図2 天の川銀河の中心のブラックホールSgr A*を周回する恒星の群れ。中心部を周回する楕円軌道を描いている。W. M. Keck望遠鏡による1995年-2017年のデータ。提供: UCLA Galactic Center Group - W.M. Keck Observatory Laser Team.This image was created by Prof. Andrea Ghez and her research team at UCLA and are from data sets obtained with the W. M. Keck Telescopes.

図2は想像図ではなく、何年にもおよぶ観測にもとづくものです。楕円軌道をえがいている光点は恒星で、それぞれがわたしたちの太陽のような立派な星です。

そういう恒星が、まるでちっぽけな惑星のように振りまわされています

ところが図の中央、その重力中心には重力源になりそうな天体が見あたりません。そこには見えない物体、太陽質量の約400万倍の巨大ブラックホールが存在するのです。

このデータが発表されたとき、研究者はひっくり返っておどろきました。ここには、ブラックホールを周回するいくつもの恒星がとらえられています。

2万5600光年の彼方の星を見わけ、しかもその動きを測定できているのだからたいしたものです。(ただしこの図は、撮像された画像そのものではなく、撮像データから求めた恒星の位置に光点をプロットしたものです。)

これらの恒星の中でいちばん中心に近いものは、約16年の周期でブラックホールを周回しています(*1)。軌道長半径は約1000天文単位、わたしたちの太陽系だと、おおざっぱに言って、もっとも太陽から遠い「太陽系外縁天体」の軌道半径くらいです。

2万5600光年離れたところの、わたしたちの太陽系くらいのサイズが観測できていることも驚異的ですが、それほどのサイズの軌道を恒星がたった16年で周回することも、あごが外れそうな衝撃です

わたしたちの太陽から1000天文単位離れた天体は、軌道周回に1万年以上かかるのです。

これらの恒星を振り回している中心天体は、わたしたちの太陽とはくらべものにならないほど質量が大きく、しかも恒星のようには輝いていないことが、この観測データからただちにわかります。

これは巨大ブラックホールの存在の決定的な証拠です。

ここから算出した、中心のブラックホールの質量は、太陽質量の(4.02±0.16)×10^6倍、つまり約400万倍のモンスターです。

*1─Boehle, A., et al. 2016, ApJ

すべての星は順に花火となって吸い込まれる

これらの恒星は今後、ブラックホールにのみ込まれると予想されます。なぜならば、こういう恒星の軌道がいくつも密集する状態は不安定だからです。

恒星どうしが重力で引きあう結果、これらの楕円軌道は乱れ、半径や回転軸の角度が変わっていきます。

その結果、恒星がブラックホールに近づきすぎると、ブラックホールの強い潮汐力(ちょうせきりょく)がはたらき、ばらばらに壊れてしまうでしょう。そして渦を巻きながらブラックホールに吸いこまれるでしょう。

そのときにはきっと、わたしたちの天の川中心部は花火のように明るく輝くはずです。数年~数千年ほど燃え上がる花火です。宇宙にちらばる銀河のうち、中心部が明るく輝いているものは、そうやって光っていると思われます。

 

天の川銀河の1000億個の恒星は、ゆっくり周回しながら、1個ずつ巨大ブラックホールにのみ込まれていき、最後にはすべてなくなるでしょう

それがどれほどかかるか、正確な見積もりはないのですが、仮に3000年に1個が呑み込まれるなら、約300兆年ということになります。

おそらくよその銀河でも事情は似たり寄ったりで、それくらいの年月のうちに、どこの銀河でも星はすっかりブラックホールにのみ込まれ、宇宙はまっくらになることでしょう。

まっくらな宇宙を想像するとさびしく感じるかもしれませんが、そうなるまでに、1000億発ほど派手な花火が天の川銀河の中心から打ち上げられるはずなので、それを楽しみましょう。

 

 

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小谷太郎

博士(理学)。専門は宇宙物理学と観測装置開発。1967年、東京都生まれ。東京大学理学部物理学科卒業。理化学研究所、NASAゴダード宇宙飛行センター、東京工業大学、早稲田大学などの研究員を経て国際基督教大学ほかで教鞭を執るかたわら、科学のおもしろさを一般に広く伝える著作活動を展開している。最新刊『宇宙はどこまでわかっているのか』ほか、『言ってはいけない宇宙論』『理系あるある』『図解 見れば見るほど面白い「くらべる」雑学』、訳書『ゾンビ 対 数学』など著書多数。

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