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宇宙はどこまでわかっているのか

2019.02.24 公開 ポスト

重力波の到来で研究者はなぜ狂喜乱舞したのか?小谷太郎

元NASA研究員の小谷太郎氏が、最新かつ知的好奇心を刺激する宇宙トピックスを解説した『宇宙はどこまでわかっているのか』(幻冬舎新書)が話題です。

ここでは本書より「重力波がLIGOを揺らし、宇宙業界は揺れに揺れた」をお届けします。2017年のノーベル物理学賞は「LIGOと最初の重力波検出」に対して与えられました。2015年9月にとらえられた最初の重力波は、いったいどこがすごかったのでしょうか?

*       *    *

ルイジアナ州のLIGO Livingston。提供:Caltech/MIT/LIGO Lab

奇妙な信号に研究者は大興奮!

2015年9月14日9時50分45秒(協定世界時)、人類の観測装置が初めて「重力波」をとらえました

アメリカにある2台のレーザー干渉計重力波観測装置「LIGO(ライゴ)」が、宇宙から到来した重力波を検出したのです。

得られた重力波は、2個のブラックホールが衝突・合体した場合に予想される波形と合致しました。

2個のブラックホールが約13億年前に合体し、そのすさまじい衝突によって放射された重力波が13億年かかってわたしたちの銀河系に到達し、ごくわずかにLIGOをゆるがし、検出されたのです。世界の研究者は狂喜乱舞しました。

さて、どこかの装置が奇妙な信号を受信したことが、どうして大ニュースなのでしょうか? 研究者はどこに興奮しているのでしょう? そのポイントを解説しましょう。

 

驚きその1 アインシュタインのすごさがまた証明された

相対性理論は20世紀初めにアルベルト・アインシュタインが作りあげた重力理論です。

相対性理論によると、わたしたちの住むこの時間と空間(あわせて「時空」)は、微妙に伸びたり、しわが寄ったりするのです。

そのしわが寄った時空を物体が横ぎる際には、まっすぐ進めずに軌道がまがり、すなわちこれが重力に引かれた物体の運動だというのです。

時間と空間にしわが寄るとは、考えると脳にしわが寄りそうな奇妙な主張ですが、相対性理論は太陽のちかくを周回する水星の軌道などをうまく計算できました。

重力がきわめて強いところの物体のふるまいは、ニュートンの万有引力の法則では説明できず、相対性理論が必要になるのです。

相対性理論は、その後に見つかった中性子星(ちゅうせいしせい)、ブラックホール、超新星や、今回の重力波などの現象にも適用され、今なおその有効性はゆらぐことがありません。

このような完成度の高い独創的な理論をほぼ独力で完成させた天才アインシュタインにはあらためて驚かされます。

 

驚きその2 重力波を検出できるほど精巧な実験装置

重力波はきわめて微弱な波動です。LIGOは検出部の長さが4kmある巨大な装置ですが、重力波によって、この検出部の長さが〈原子のサイズの100万分の1のそのまた1000分の1〉程度変化します。

重力波が検出部を通過すると、微妙に空間が伸びちぢみし、検出部の長さの変化となってあらわれるのです。

この、あるんだかないんだかわからないような、わずかな変化の検出には、非現実的なほどの超高精度が必要です。

そのため研究者のだれもが「自分が生きてるうちは無理かな……」と思っていたのですが、それが本当に成功するとは! というのが驚きです。

重力波研究グループは、頑丈な地盤に巨大な実験施設をきわめて精密に建造し、振動をおさえ、低温に冷やして熱雑音を取りのぞき……その他かぎりない工夫をこらします。

それでも発生する雑音の原因を探り、改善する作業を何年もおこない、次第に装置の感度を上げていきました。

そのはてしないとも思えた努力が2015年9月、成果として実ったのです。

ワシントン州のLIGO Hanford。提供:Caltech/MIT/LIGO Lab

驚きその3 ブラックホールは本当にあったんだ!

ブラックホールは、しばしばSFに登場するので名前は有名ですが、その正体は超強大な重力をもつ天体です。その強い重力のために光さえも脱出できず、まっ黒に見えます。

これもまた相対性理論からみちびかれる常識はずれの存在です。

あまりに常識はずれなので、その実在をうたがう研究者も大勢いました。

ブラックホールの研究は、「そんなふざけたもんあるわけないだろ」という否定派を、状況証拠の積みかさねで説得してきた歴史があります。

これまでの証拠は、ブラックホールに落ちこむ高温ガスが形成する「降着円盤」といった周辺の現象が主で、ブラックホールを直接観測したものではありませんでした。本体は光も出さないのだから、しかたありません。

しかし、2015年9月に観測された重力波はブラックホール本体から放射された直接証拠です。もう存在をうたがうことはできません。ブラックホールは実在したのです。

 

驚きその4 いままで見つからなかった中規模のブラックホールだった

これまで発見されたブラックホールらしき天体は、太陽質量の10倍程度の小さめの「恒星質量ブラックホール」か、あるいは太陽の質量の100万倍~1000億倍の「超巨大ブラックホール」という両極端の2種類がほとんどでした。

中間の存在は、いくつか特殊な観測例があるものの、なにしろ光をださないので基本的に発見不能で、謎につつまれていました。

2015年9月の発見は、太陽質量の29倍と36倍のブラックホールが合体し、62倍のブラックホールになった、というものです。ちなみに、29と36をたすと62より多くなるのですが、消えた分は重力波のエネルギーになって放射されてしまいました。

太陽の数十倍程度の中間型ブラックホールの存在が、急に2個(または3個)あきらかになり、これまでの天体カタログに加わったわけです。

そうなると、いままでほとんど見つかっていない、太陽質量の数十倍~数万倍のものが宇宙にゴロゴロしている可能性が浮上しました。

しかもそいつらはボカボカ衝突してしょっちゅう重力波を放射しているのかもしれません。将来の研究に、大変期待が持てます。

 

驚きその5 いきなり「重力波天文学」が始まった

2015年9月、たった1発の信号から、重力波を放射したブラックホールの質量と時間と距離がばっちり計算できてしまいました。しょっぱなから高品質な研究結果です。

これにより、重力波信号が豊富な情報を含んでいることがあきらかになりました。重力波観測装置はそれを詳細に調べる望遠鏡です。

2019年現在、スペインにある3台目の重力波観測装置が同時観測をおこなっています。また今後、日本の「KAGRA(かぐら)」などの新たな装置が稼働予定です。人工衛星や人工惑星を使う大胆な計画も進められています。

複数の重力波観測装置があれば、重力波源の位置がわかります。可視光やX線など、ほかの波長の望遠鏡をむけて観測が可能でしょう。

そして、ブラックホールのほかにも、さまざまな天体が重力波を出しているのが見つかるでしょう。

これまで予想もしなかった未知の重力波源も発見されるかもしれません。

こうなると、重力波望遠鏡をもちいる新しい天文学が始まったといえます。重力波信号は、たった1発で重力波天文学を創始したのです。

関連書籍

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宇宙はどこまでわかっているのか

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小谷太郎

博士(理学)。専門は宇宙物理学と観測装置開発。1967年、東京都生まれ。東京大学理学部物理学科卒業。理化学研究所、NASAゴダード宇宙飛行センター、東京工業大学、早稲田大学などの研究員を経て国際基督教大学ほかで教鞭を執るかたわら、科学のおもしろさを一般に広く伝える著作活動を展開している。『宇宙はどこまでわかっているのか』『言ってはいけない宇宙論』『理系あるある』『図解 見れば見るほど面白い「くらべる」雑学』、訳書『ゾンビ 対 数学』など著書多数。

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