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僕らの哲学的対話 棋士と哲学者

2019.02.19 更新 ツイート

AIと人間のいちばん大きな違いは何なのか?糸谷哲郎/戸谷洋志

(写真:iStock.com/metamorworks)

棋士と哲学者が人間をめぐる様々な問いについて語り合った話題作『僕らの哲学的対話 棋士と哲学者』(イースト・プレス)。人間とAIの競争の波をどの職業よりも早くかぶったとも言えるプロ棋士。プロ棋士にとって、AIとは一体どんな存在なのか? 第2章「AIとどう向き合うか」からの抜粋をお届けします。

*   *   *

AIはもう人間を超えている

戸谷 2017年、将棋ソフト「ポナンザ」が、佐藤天彦名人に2戦2勝したことが話題になりましたね。

糸谷 AIと人間の対決は、いまに始まったことではないですよ。チェスの世界では、一九九七年、IBMの「ディープ・ブルー」というAIが、当時の世界チャンピオンを破りました。囲碁の世界でも、グーグルが開発した「アルファ碁」が、2016年、2017年に韓国・中国のトップのプロ棋士を破っています。

戸谷 すでにAIは人間を超えている?

糸谷 ほとんどの知的ゲームにおいては、超えていると思います。6×6盤のオセロなんかだと、完全読解まで到達している。

 

 

戸谷 そうすると、先手をとるか後手をとるかで勝敗が決まってしまう。

糸谷 オセロの場合、後手のほうが強いみたいですね。

戸谷 すると、オセロというゲームの構造そのものが変わってしまうよね。つまり、最初のじゃんけんでどう後手をとるかのゲームになってしまう。将棋はどうなんですか。

糸谷 将棋の場合、棋士が行なう判断を「大局観」という言葉で説明しています。たとえば「なんとなくこの形はきれいだ」とか、「直感的にこの形がいいと思う」とか。ところがコンピュータには、「なんとなく」や「直感」なんてありません。膨大なデータから、最善の判断を選び出してくる。その結果、人間が伝統的に蓄積してきた大局観そのものが揺らいでいます。

戸谷 人間の大局観と、AIの判断ってそんなに違うものですか。

糸谷 いや、近いところも多いですよ。囲碁はけっこう違ったみたいですけど。

戸谷 囲碁はどんな状況なんですか。

糸谷 「アルファ碁」は、人間より間違いなく強いと断言していいと思います。成長スピードがほかのAIと違う。戦法がどんどん進化しています。

戸谷 プロ棋士の間では、AIはどういう存在なんですか。つまり、自分たちとまったく関係ない世界の話として語られているのか。それともある種、自分たちを脅かす存在として語られているのか。

糸谷 人によって違いますね。いつかコンピュータに抜かれることは、みんな予測していたし、すでに受け入れているわけです。それでもなお、「人間同士の勝負だから面白いんだ」「だからAIは自分たちを脅かすものではない」とおっしゃる方もいます。

戸谷 糸谷さん自身はどちらなんですか。AIが将棋の本質を変えるとか、業界を変えるとは思わない?

糸谷 本質は変わらないんじゃないですか。人間だろうがAIだろうが、ゲームとしての将棋はエンターテインメントとして残っていくと思います。

戸谷洋志・糸谷哲郎『僕らの哲学的対話 棋士と哲学者』

これは哲学者と棋士という異色顔合わせによる哲学的対話の記録です。棋士の糸谷哲郎さんは羽生善治さん他を下して竜王獲得、久々の20代タイトル保持者となった方です。また現役棋士として初めて国立大学へ進学し、大学院ではハイデガー研究で修士学位取得。当時同じ研究室で議論し合った哲学者の戸谷洋志さんは、ドイツの哲学者ハンス・ヨナスを研究する一方で、アカデミズムにこもることなく市民とのワークショップ「哲学カフェ」を各地で開催してきました。 例えばいまAI(人工知能)を搭載した将棋ソフトが驚異的な進化を遂げる中、現場の棋士はAIと人間の関係をどう捉えているのでしょうか。「人間」の自明性が問われる現在、1988年生まれの同世代の二人が勝負論や幸福論などを切り口に、「人間」を巡る様々な問いを考察していきます。

 

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僕らの哲学的対話 棋士と哲学者

AI論、勝負論、幸福論……人間をめぐるさまざまな問いを、同じ1988年生まれの棋士と哲学者が語り合った「知的異種格闘技」として話題の書『僕らの哲学的対話 棋士と哲学者』の読みどころをご紹介。

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糸谷哲郎

1988年、広島県広島市出身。将棋棋士。八段。順位戦A級。「関西若手四天王」の一角として注目を集め、2014年に羽生善治、森内俊之らを下して竜王獲得、久々の20代タイトル保持者となった。現役の棋士として初めて国立大学へ進学し、大阪大学文学部にて哲学・思想文化学を研究。大学院ではハイデガー及びヒューバート・ドレイファスを研究し修士学位を取得。著書に『現代将棋の思想 一手損角換わり編』(マイナビ)、共著に『糸谷&斎藤の現代将棋解体新書』(マイナビ)がある。

戸谷洋志

1988年、東京都世田谷区出身。哲学研究者。法政大学文学部哲学科卒業、大阪大学大学院文学研究科文化形態論専攻博士課程満期取得退学。現在は追手門学院大学の特任助教。現代ドイツ思想を中心にしながら、テクノロジーと社会の関係を研究。また、「哲学カフェ」を始めとした哲学の社会的実践にも取り組んでいる。第31回暁烏敏賞受賞。著書に『Jポップで考える哲学――自分を問い直すための15曲』(講談社)、『ハンス・ヨナスを読む』(堀之内出版)がある。

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