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過敏で傷つきやすい人たち

2019.12.20 公開 ツイート

過敏性のストレスはこうやって身体にあらわれる 岡田尊司

音や話し声がすると集中できない、人にどう思われているか気になる、過度に接近されるのが苦手、頭痛や胃痛、下痢になりやすい…。こんなお悩みを持っている人は少なくありません。続々と重版を重ねている精神科医・岡田尊司さんのベストセラー『過敏で傷つきやすい人たち』は、そんな悩みを解決できると話題の一冊。そんな本書の中から、一部を抜粋してお届けします。

(写真:iStock.com/maroke)

ストレスはこうやって身体にあらわれる

感覚の過敏性は、脳のレベルの問題です。ところが、過敏な状態になっているのに、さらにストレスや負荷がかかると、体の方にまで異変が広がり始めます。それは、体の調節をしている自律神経の働きがおかしくなってしまうためです。
こうして中枢神経レベルの過敏性が、身体症状に化け始めるのです。これを身体化と呼んでいるわけです。

身体化にも大きく二つあり、実際に体が病気になってしまうものが「心身症」です。胃潰瘍や高血圧、糖尿病、過敏性腸症候群、メニエール病といった病気が起きてしまうのです。それに対して症状はあるけれど、いくら検査しても別に病気らしい病気が見つからないというものが「身体表現性障害」や「疼とう痛つう性せい障害」です。

注意しなければならないのは、これは決して「仮病」ではないということです。本当につらい症状が起きていて、苦しさは、実際の病気に何ら劣らないのです。

頭痛やめまい、腹痛や下痢が生じることも!

身体化によって表れる症状としては、頭痛やめまい、腹痛、下痢、吐き気、頻尿などが頻度の高いものです。中でも子どもにも大人にも多いものの一つが腹痛や下痢に襲われるもので、「過敏性腸症候群」と呼ばれています。

過敏性腸症候群では、突然襲ってくる腹痛や下痢とともに、便秘をしたり、おなかにガスがたまったり、下痢と便秘を繰り返したりすることも多くあります。
過敏性腸症候群を抱えている人にとって、通勤や通学、会議や授業、出張や顧客との面談、単なる散歩や買い物でさえも、絶えず気が抜けない綱渡りのようなものです。途中で抜け出しにくい場面は、それだけでストレスです。

いつ何時便意が襲ってくるか、おなかが痛み出しはしないかと、ひやひやしながら暮らしていることも多いのです。知らない場所に出かけるときに、まず確認するのはトイレの場所です。トイレがすぐに使えないような場所に行くことは、どうしても避けたくなってしまいます。

こうした腸の過敏性は、どうして生まれるのでしょうか。
 

(写真:iStock.com/maroke)

ボーッとすることも時には大切

いつもは過敏で神経も冴えすぎている人が、たとえば休みの日などに、ぼんやりしたり、一日中ごろごろしていたりということがあるかもしれません。何もせずボーッとして過ごしていることで自分を責めたり、あるいは、そんな家族がいたりすると「何ごろごろしているの!」と叱責したりするかもしれません。

でも、それは、その人の神経が限界を超えないために必要なことであり、責めることではないのです。むしろ、ぼんやりする時間を多めにもったり、休みの日に何もせずに過ごしたりすることが、過敏な人には必要なのです。

そうすることで、神経にかかる負荷が限界を超えないように調節しているとも言えるのです。ボーッとする時間を積極的にもつ方が、神経を消耗から守り、意欲ややる気の維持にもつながります。

敏感なのに、鈍感さが目立つこともある

過敏な人が、生存のために採用するもう一つの代表的な戦略は、意識的なものというよりも、生物学的なレベルでの適応の産物だと言った方がよいでしょう。その戦略とは、鈍感で無頓着になることです。過敏な傾向には、低登録な傾向が併存しやすいのです。

過敏な人には、しばしば鈍感さが同居しているということが昔から知られていました。たとえば、自分の体が汚れることを恐れる不潔恐怖の人が、バスタブや浴室の汚れが気になって、何日も風呂に入らずにいたりします。
他人のひそひそ声にさえ聞き耳を立て、自分の悪口を言われているように思ってしまう人が、身だしなみや服装の乱れにまったく無頓着だったりします。

自分が過敏なことに敏感になるあまり、もっと注意を払った方がいいことに気が回らなくなってしまうのです。このことは、注意の配分の問題と解することもできるでしょう。ある一点にばかり注意を払いすぎて、他のことに目が向かないのです。

エドガー・アラン・ポーの作品に、『盗まれた手紙』という短編推理小説があります。パリ警察は、政治的陰謀にかかわる重要な手紙がある部屋に隠されていると踏んで必死に捜索しますが、どうしても見つけることができません。
警視総監から、その手紙を見つけてほしいとの依頼を受けた名探偵デュパンは、いとも簡単に見つけ出してしまいます。手紙は、安物の手紙入れに、堂々と入れられていたのです。見つかりにくい場所に隠されているに違いないという思い込みが、目の前にあるものに注意を向けさせなかったのです。

一つの視点にとらわれ、そこから逃れられなくなる状態は、自分の考えに集中しすぎて他のことが耳に入らない「過集中」と呼ばれる現象とも似ています。過敏な人では過集中や、集中している対象以外のものに対する鈍感さがしばしば併存するのです。
こうした特性は否定的に語られることが多いのですが、ある面では、過敏な神経を守るために必要な調節作用の結果だとも言えますし、メリットとなる面も大きいのです。

科学者や発明家が、驚くべき集中力と、それ以外のことに対する無頓着さを示したというエピソードは枚挙に遑いとまがありません。そうした特性があったからこそ、さまざまな発明や発見がもたらされ、われわれはその恩恵を受けているのです。

過集中し、細部に気を奪われるからこそ、見えてくるものもあるわけです。細部を無視して全体を見ることばかりに価値があるわけではないのです。どちらもそれぞれ有用で、意味があることなのだと思います。

関連書籍

岡田尊司『過敏で傷つきやすい人たち』

決して少数派ではない「敏感すぎる(HSP)」人。実は「大きな音や騒々しい場所が苦手」「話し声がすると集中できない」「人から言われる言葉に傷つきやすい」「頭痛や下痢になりやすい」などは、単なる性格や体質の問題ではないのだ。この傾向は生きづらさを生むだけでなく、人付き合いや会社勤めを困難にすることも。最新研究が示す過敏性の正体とは? 豊富な臨床的知見と具体的事例を通して、HSPの真実と克服法を解き明かす。過敏な人が、幸福で充実した人生を送るためのヒントを満載。

高田明和『脳科学医が教える他人に敏感すぎる人がラクに生きる方法』

私も80年間、HSP(Highly Sensitive Person)に苦しみました。気にしすぎ、真に受けすぎ、人の顔色をうかがいすぎ。 うつ病でもない、性格でもない、今話題のHSPがよくわかる、生きづらさを解消する処方箋。

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過敏で傷つきやすい人たち

決して少数派ではない「敏感すぎる人(HSP)」。
実は「大きな音や騒々しい場所が苦手」「話し声がすると集中できない」「人から言われる言葉に傷つきやすい」
「ストレスで胃が痛くなりやすい」「頭痛や下痢になりやすい」などは、単なる性格や体質の問題ではないのだ。

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岡田尊司

1960年、香川県生まれ。精神科医、医学博士。東京大学哲学科中退。京都大学医学部卒。同大学院高次脳科学講座神経生物学教室、脳病態生理学講座精神医 学教室にて研究に従事。現在、京都医療少年院勤務、山形大学客員教授。パーソナリティ障害治療の最前線に立ち、臨床医として若者の心の危機に向かい合う。 

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